闇より来たりし者

予兆 二

　

　私は自室にもどってからも落ち着かず、ひどく焦った気持ちになってきた。寮長といっしょに礼拝堂へ行った方が良かったかもしれない。
　あの手記の内容や、アレックスから聞いた話が頭からはなれず、そこへ美菜の事故の件がくわわって、頭が混乱してきた。
　美菜の事故には、トヨールが関係しているんだろうか……？　自分でも馬鹿らしいとは思いつつ、つい考えてしまう。
　いてもたってもいられなくなった私は、スマホに手を伸ばしていた。
　

　
　なんだろう？　誰かに名前を呼ばれたきがする。
　また眠っていたらしい……。
　そうだ、睡眠薬を飲んでいたんだ。夜眠れなくて睡眠薬を飲むようになったけれど、昼も起きているのがだるくて、飲むようになってしまった。そのせいで、なんだか、最近、いつもうつらうつらしている。
　スマホの着信音が聞こえたけれど、手が伸びなかった。チェックする気もしない。
　身体がひどくだるい……。
　体調がすぐれないせいもあるけれど、だるさの一番の理由は、久しぶりに実家に戻ってきて、母と顔を合わせたせいだ。
　ああ……。
　私は死ぬほどうんざりした気分で、それでもどうにかベッドの上で半身を起こしてみた。
　まだ、だるい。もっと横になっていたいと身体が訴えてくるけれど、いつまでも寝ているわけにはいかない。
　そろそろ寮に戻ることを考えないと。バレエのレッスンも休んだままだ。こんなんじゃいけない、いけない、と思いつつも、今さら焦ったって、どうしょうもないじゃない？　と頑張ろうとする自分を嘲笑うもう一人の意地悪な自分に気圧されてしまっている。
　でも、本当にそうなのだ。戻ってどうする？　この先、何する？
　この数日、とても嫌だったけれど実家に帰って、なるべく母と顔を合わさないように部屋にこもって過ごしていた。一人でいると、つまらないことばかり考えてしまう。
　いや、つまらないことじゃない。本当は、もっと早く考えておかねばならなかったことなのに、私がずっと先送りしていたこと。　　　　
　もうそろそろ向き合って、死ぬほど辛いけれど認めなくてはいけない。
　私には……プロのバレリーナになるのは、無理。
　どんなに頑張っても、努力しても、これは、もうどうしょうもない。
　羽毛布団の上に涙がこぼれた。
　どうしょう……。バレリーナになれないなら、この先どうしたらいい？　どうやって生きていったらいい？