闇より来たりし者

平坂 静音

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遺産 二

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「ううん。お茶の先生。私が子どもの頃亡くなったけれどね」
「うわぁ、じゃ、恵理もお茶するんだ」
「ちょっとだけ習ってやめちゃったわよ。コーヒー、インスタントだけどいい?」
 ポットから沸いたばかりの湯を、カップにそそぐ。そろそろ熱い飲み物が美味しく感じる季節だ。
「いい、いい。なんでもいい。わたしは大桐みたいに気取り屋じゃないから、コーヒーは、ブルーマウンテンじゃなきゃ嫌とか、紅茶ならどこそこのメーカーので、ちゃんとウェッジウッドで淹れなきゃ、なんて言わないって。紙コップでもなんでもいいよ」
「助かるわ」
 とはいうものの、さすがに私も紙コップやプラスティックのカップは嫌なので、一応つかっているのは都内のデパートで買った可愛い花柄のカップだ。というより、それしか置いてないけど。
 これも別に高級品というわけじゃないけれど、それなりに気に入っているのだ。ピンクの薔薇の模様のそろいのカップふたつを小さなトレイにのせて、クリープと角砂糖の小瓶を添えてローテーブルに出す。 
「このカップ、可愛いね。なんか、夫婦茶碗みたいだね」
 先ほど美菜の座り方を注意した手前、スカートの裾を踏むのを気にしながらも、きちんと正座した。
 インスタントでも、それなりにコーヒーの香がほのかにたって、なんとなく午後の日曜の部屋が暖かくなった気がする。ほのぼのとした気分で、ちいさく胸がはずむ。
 思えば、聖アグネス女子学園に入学して、もう半年以上が過ぎたのだ。正確にいうと七ヶ月半か。
 私と美菜は、中等部からずっとエスカレーター式で進学してきた生徒が過半数のなかで、大学からの編入組、つまり新参者なので、そういうところで話しやすく、けっこう、性格がちがうわりには、不思議なことに気が合う。
「そういえば、大桐はどうしてんの?」
「バレエのレッスンよ」
 まったく興味のなかった私は、最初聞いたときは驚いたが、聖アグネス学園のバレエ部はかなりハイレベルで、卒業してからプロになった人も何人かいるという。 
 しかもバレエのスタジオが大学園内にあり、バレエ部以外の生徒も、希望すれば放課後、そこでプロの教師のレッスンを受けられるのだそうだ。それを目当てに入園、もしくは入寮する生徒も多いらしい。
 麻衣もまたその一人で、彼女は本気でプロを目指しており、大学卒業後は、イギリスへの海外留学を希望しているという。
「あんなお嬢が、本気でプロになれんのかな? 第一、もう遅いんじゃない? 卒業したら、二十二ぐらいじゃん? 二十過ぎてバレエ留学なんかして、意味あんの?」
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