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新たな季節に 一
しおりを挟むしばらくはコンスタンスはメイドとして『白猫』での日々を過ごした。掃除や洗濯にあけくれ、たまに娼婦に頼まれて外へ買い物に出ることもある。
そんなときだった。彼女を見たのは。
革命記念の祝祭を終えた街は、まだ遊び足りない子どものように熱気を引きずっており、人々の顔色もうきうきしているようだ。
そんな人波のなか、近くの橋から歩いて来たのは、ビュルだった。帽子をかぶってはいるが、首もとに揺れる赤毛が午後の夏日に刺されて光っている。
向こうもコンスタンスに気付いたようだ。ビュルは一人ではなく、身なりの良い中年男と一緒だ。腕を組んで夫婦か恋人同士のように仲睦まじく歩いている。
軽く、ほんのわずかだが軽く相手が会釈した。
コンスタンスも軽く目で挨拶をおくる。
互いに声はかけなかった。
とりあえず、生きて元気にやっているようだ。
「コンスタンス、やっぱり君だ」
ビュルを見送ったあと、突然、声をかけてきたのは、クレオだった。
「やぁ、元気だった?」
メイドのお仕着せを見ても、そのことには何もいわず、クレオは無邪気に挨拶をする。
「え、ええ。どうにかやっているわ」
コンスタンスも笑顔で返したが、声が少し硬くなってしまうのが悔しい。
「君に会ったら言おうと思っていたんだ。実は……」
クレオはややはにかむような顔になる。今日は青いデイ・ドレスなのだということに、遅ればせながらコンスタンスは気づいた。それでも水色のシャツの胸にかざった白い薔薇の花が粋である。
「実は、婚約したんだ」
「え?」 さすがにこれは意外でコンスタンスは驚きをかくせない。
「相手はね……、君も知っている人」
ルイ・フィオー刑事だということは、すぐに気づいた。
「おめでとう」
コンスタンスは顔がひきつっていないことを祈りながら精一杯の笑みを浮かべていた。
「ありがとう。式には是非来てくれると嬉しい」
行けないだろう。多分。
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