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 クリスチャンはしとやかに階段を下りてくると、カトリーヌとして挨拶する。他の客がすると滑稽なだけだが、クリスチャンの場合は妙に笑えない。もともと身体付きも細いので、それをコルセットでしめつけて白いドレスをまとっていると、充分女性的に見え、ドレスや化粧にさほど違和感がないのだ。

「こ、今晩は。クリ、じゃなくて、カトリーヌ様」

 コンスタンスの方がどぎまぎしてくる。

「お待たせしてしまって」

「遅いわよー。こんなお遊びしていられるのも、今のうちだけなんだから。ほら、行きましょう」

「あ、待って、アリス」

 二人はそんなことを言いながら廊下を行く。

 クリスチャンが広間に着くや、歓声がとどろき、「今夜の女王のお出ましよ」という声が聞こえてきた。




 やがて宴はたけなわになってきた。皆酒を水のように飲み、笑い、喋り、コンスタンスが驚いたことに、寝椅子のうえで娼婦と絡みあう客もいる。女のふりをしながら、娼婦に性欲がわくのだろうか。

「ああ、いるわね、ああいう人も」

 女のふりをする者がすべてそういう性的嗜好だとは限らないらしい。女のふりをする男には、本当に女になって男に興味をもつ者もいれば、ただ単にお遊びとして女装を楽しむだけで、性欲は女に向ける者もいるという。なかには、男にも女にも興味があるという男もいるそうだ。

「あの人の場合は、別に女になりたいわけじゃなくて、ただ女装が好きなだけなのよ」

 そう言うカルロスにコンスタンスは訊いていた。

「な、なんで女装が好きなのかしら?」

「そりゃ、別の人になれるからじゃない? 思ったことない? もし男に生まれていたらなぁ、とか」

「……あんまりないわね」

 コンスタンスは首を振った。そんなふうに思ったことはないが、もし、もっと勉強が出来たらなぁ、とか、もっと美人だったらなぁ、とかは思うことはよくある。

 一番よく思ったのは、もし、家にお金があれば、という願望だろう。口に出してカルロスに言うと、カルロスは笑った。
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