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十
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(……負けない……)
コンスタンスはスカートを握りしめながら、そんなことを思っていた。
(わたしは絶対に負けやしない)
唇を噛みしめ、モルグ見物から帰って行く人々を眺めながら決意していた。
(この先、何があったって、どんなことがあったって……)
なにに負けたくないのか、なにと闘うのか。これから先自分を待ち受ける運命なのか、経済苦なのか、きびしい世間の目なのか。つらつらと考えていくと答えが出た。
(パリに負けない。この街に決して屈しないわ)
この街は、世界の中心で、黄金の玉座に腰かける取り澄ました女王のようだ。誇りたかく気取った貴婦人。だがその紫のドレスのなかの心は人食い魔女である。謁見者に優しい笑みを浮かべてくれるが、貢物を持っていない者には冷酷だ。
コンスタンスもリジュロンもその女王に疎んじられた。
あの陳列台にならんでいた遺体は、結局、パリという世界の女王に疎んじられた者ばかりなのだ。
コンスタンスは気づけば、地面の紙面にあるラ・パリジェンヌの彫像の写真を睨みつけていた。その彫像がパリという名の残酷な女王そのものに思えてくる。
(わたしは、あんたに媚びない。あんたに這いつくばらない。逃げもしないわ。わたしは……きっとこの街で生き抜いて、勝ち抜いて、いつかこの日のことを思い出話のひとつとして笑いながら振り返ってみせてやるんだから)
コンスタンスは鼻をすすって、空を見上げた。
さがせば、空のどこかにリジュロンがいるような気がするが、自ら死を選んだ者は神からも疎んじられるという。天国に行くこともかなわず、リジュロンの魂は空をただよっているのかもしれない。
(リジュロン、あんた馬鹿よ。なんであんなことぐらいで死んじゃうのよ……。あんたには勉強して秘書になるという夢があったんでしょう? クレオのように新聞雑誌の仕事をしたいという願いがあったんでしょう? なんで、なんで……死んじゃったのよ)
今だけだ。この先、リジュロンのことを悼んで涙を流すことはもうないだろう、とコンスタンスは自分でも驚くほどの冷酷さで自覚した。
(リジュロンの馬鹿、弱虫!)
自分自身に鞭打つ想いで心の内でそう叫ぶと、コンスタンスはなにかを振り切るように首を振った。そのとき足音が近づいてきた。
コンスタンスはスカートを握りしめながら、そんなことを思っていた。
(わたしは絶対に負けやしない)
唇を噛みしめ、モルグ見物から帰って行く人々を眺めながら決意していた。
(この先、何があったって、どんなことがあったって……)
なにに負けたくないのか、なにと闘うのか。これから先自分を待ち受ける運命なのか、経済苦なのか、きびしい世間の目なのか。つらつらと考えていくと答えが出た。
(パリに負けない。この街に決して屈しないわ)
この街は、世界の中心で、黄金の玉座に腰かける取り澄ました女王のようだ。誇りたかく気取った貴婦人。だがその紫のドレスのなかの心は人食い魔女である。謁見者に優しい笑みを浮かべてくれるが、貢物を持っていない者には冷酷だ。
コンスタンスもリジュロンもその女王に疎んじられた。
あの陳列台にならんでいた遺体は、結局、パリという世界の女王に疎んじられた者ばかりなのだ。
コンスタンスは気づけば、地面の紙面にあるラ・パリジェンヌの彫像の写真を睨みつけていた。その彫像がパリという名の残酷な女王そのものに思えてくる。
(わたしは、あんたに媚びない。あんたに這いつくばらない。逃げもしないわ。わたしは……きっとこの街で生き抜いて、勝ち抜いて、いつかこの日のことを思い出話のひとつとして笑いながら振り返ってみせてやるんだから)
コンスタンスは鼻をすすって、空を見上げた。
さがせば、空のどこかにリジュロンがいるような気がするが、自ら死を選んだ者は神からも疎んじられるという。天国に行くこともかなわず、リジュロンの魂は空をただよっているのかもしれない。
(リジュロン、あんた馬鹿よ。なんであんなことぐらいで死んじゃうのよ……。あんたには勉強して秘書になるという夢があったんでしょう? クレオのように新聞雑誌の仕事をしたいという願いがあったんでしょう? なんで、なんで……死んじゃったのよ)
今だけだ。この先、リジュロンのことを悼んで涙を流すことはもうないだろう、とコンスタンスは自分でも驚くほどの冷酷さで自覚した。
(リジュロンの馬鹿、弱虫!)
自分自身に鞭打つ想いで心の内でそう叫ぶと、コンスタンスはなにかを振り切るように首を振った。そのとき足音が近づいてきた。
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