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六
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「……なんだったら、君も一緒に行くかい?」
刑事の黒目はおだやかで、人の良さそうな中年紳士そのものに見える。刑事という職務上、嘘をついて平気で人をだましてはみても、根はやさしい人物なのかもしれない。
「い、行きます」
思わずコンスタンスはそう言っていた。
行きます、とは言ったものの……。コンスタンスの足はその大きな建物を前にすくんでしまった。背はこわばり足は硬直している。
「け、刑事さん、ここって……?」
親切なマセ刑事の同僚が自動車で送ってくれ、連れていってもらった先は、ノートル=ダム大聖堂だった。その裏手にある建物の前にコンスタンスは刑事のそばで突っ立っていた。
「モルグだよ。三十年ほど前ここに移転したんだ」
モルグという聞き慣れない言葉に訝しむ顔したコンスタンスに刑事が説明してくれた。
「死体を安置している場所だよ。さ、行こう」
コンスタンスは言葉もなくその建物のなかへと入って行った。戸外の陽気がおだやかなだけに内部はひんやりと薄暗い気がする。
(う、嘘……!)
まず入口付近でコンスタンスが仰天したのは、壁一面に写真が貼られていることだ。
しかも……死に顔である。死者の写真がいっせいにコンスタンスを、閉じているはずの目で睨みつけてくる。コンスタンスは呆気にとられて死者の顔と対峙していた。
「それは身元のわからない死体の写真だよ。二十年ほど前から職員が身元のわからないまま埋葬した死体の写真を撮って残しているんだ。いつか、死者を知っている人間の目に触れるかもしれないからね」
そういった家族や友人知人を捜しているのか、建物にはけっこう人が出入りしている。ほとんどは男性だが、ちらほら女性の姿も見える。
「こ、この人達、みんな家族や友達を捜しに来ているのかしら?」
ビュルのように行方知れずになった家族友人を、もしかして、と思ってさがし求めに来ているのだろう。
「そういう人もいるが、大抵はただの見物だ」
「け、見物」
死体を見て楽しいのだろうか。
刑事の黒目はおだやかで、人の良さそうな中年紳士そのものに見える。刑事という職務上、嘘をついて平気で人をだましてはみても、根はやさしい人物なのかもしれない。
「い、行きます」
思わずコンスタンスはそう言っていた。
行きます、とは言ったものの……。コンスタンスの足はその大きな建物を前にすくんでしまった。背はこわばり足は硬直している。
「け、刑事さん、ここって……?」
親切なマセ刑事の同僚が自動車で送ってくれ、連れていってもらった先は、ノートル=ダム大聖堂だった。その裏手にある建物の前にコンスタンスは刑事のそばで突っ立っていた。
「モルグだよ。三十年ほど前ここに移転したんだ」
モルグという聞き慣れない言葉に訝しむ顔したコンスタンスに刑事が説明してくれた。
「死体を安置している場所だよ。さ、行こう」
コンスタンスは言葉もなくその建物のなかへと入って行った。戸外の陽気がおだやかなだけに内部はひんやりと薄暗い気がする。
(う、嘘……!)
まず入口付近でコンスタンスが仰天したのは、壁一面に写真が貼られていることだ。
しかも……死に顔である。死者の写真がいっせいにコンスタンスを、閉じているはずの目で睨みつけてくる。コンスタンスは呆気にとられて死者の顔と対峙していた。
「それは身元のわからない死体の写真だよ。二十年ほど前から職員が身元のわからないまま埋葬した死体の写真を撮って残しているんだ。いつか、死者を知っている人間の目に触れるかもしれないからね」
そういった家族や友人知人を捜しているのか、建物にはけっこう人が出入りしている。ほとんどは男性だが、ちらほら女性の姿も見える。
「こ、この人達、みんな家族や友達を捜しに来ているのかしら?」
ビュルのように行方知れずになった家族友人を、もしかして、と思ってさがし求めに来ているのだろう。
「そういう人もいるが、大抵はただの見物だ」
「け、見物」
死体を見て楽しいのだろうか。
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