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六
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「ドレスと化粧品のためじゃない」
コンスタンスの声はきつい響きをふくんでいた。
「あと、君の学費のためでもあった」
「学院は辞めたわよ」
憮然とコンスタンスは告げる。
「それでも追いつかなくなったんだ。辛いことをいうけれど、女中の賃金や酒屋など出入りの商人への支払いも遅れているぐらいだ。ここ数年ギリギリの生活をしていたんだよ。いや、はっきり言うと、君の父上と再婚したころから家計はずっと苦しかったようだ」
若い刑事は一瞬、目を伏せた。
「……さらに正直に言うと、おそらく君の父上がエマと結婚したのは彼女の経済力を頼ってのことだったようだ。エマはかつての職業がら有力者の知己も多いようで。……これは父上の知人の言なんだけれどね、実際、エマと再婚してからしばらくは彼女の社交的手腕でデュホォール氏の仕事は少し持ち直したらしい」
コンスタンスは唇を噛みしめていた。頬が熱くなるのを自覚した。どこまで父は情けない男だったのだろう。
エマが財産目当てで父と結婚したのだとコンスタンスはずっと思いこんでいたが、事実は父の方がエマに頼っていたのだ。
「正直、俺、いや私の立場でこんなことを言うのはなんだけれど……エマは形はどうあれ、彼女のできる精一杯のやり方で君たちの生活を支えていたようだ」
「……でも、わ、わたしを売ろうとしたのよ! いやらしい中年男に……」
そこでコンスタンスは思い当たった。
「そうだわ、あの人、ニールという人がエマを殺したのかも」
「ああ。ニール氏のことだが」
警察はすでにニールのことを知っていたようで、フィオ―刑事はメモ帳をめくった。
「彼のことも調べてみた。彼もやはり犯行当時、ある店で他の人間と会っていたようだ。残念ながら犯人じゃない。……今のところ、おそらく犯人はエマの個人的な客となった男か、もしくは債権者の一人ではないかと言われているんだ。犯行時刻にデュホォール家に客を乗せていった辻馬車をさがしているんだが、正直これは無理かなと思っている」
刑事は浮かない顔になった。そうして眉を寄せている顔は、刑事にしては品の良い面立ちだということに今になってコンスタンスは気づいた。
コンスタンスの声はきつい響きをふくんでいた。
「あと、君の学費のためでもあった」
「学院は辞めたわよ」
憮然とコンスタンスは告げる。
「それでも追いつかなくなったんだ。辛いことをいうけれど、女中の賃金や酒屋など出入りの商人への支払いも遅れているぐらいだ。ここ数年ギリギリの生活をしていたんだよ。いや、はっきり言うと、君の父上と再婚したころから家計はずっと苦しかったようだ」
若い刑事は一瞬、目を伏せた。
「……さらに正直に言うと、おそらく君の父上がエマと結婚したのは彼女の経済力を頼ってのことだったようだ。エマはかつての職業がら有力者の知己も多いようで。……これは父上の知人の言なんだけれどね、実際、エマと再婚してからしばらくは彼女の社交的手腕でデュホォール氏の仕事は少し持ち直したらしい」
コンスタンスは唇を噛みしめていた。頬が熱くなるのを自覚した。どこまで父は情けない男だったのだろう。
エマが財産目当てで父と結婚したのだとコンスタンスはずっと思いこんでいたが、事実は父の方がエマに頼っていたのだ。
「正直、俺、いや私の立場でこんなことを言うのはなんだけれど……エマは形はどうあれ、彼女のできる精一杯のやり方で君たちの生活を支えていたようだ」
「……でも、わ、わたしを売ろうとしたのよ! いやらしい中年男に……」
そこでコンスタンスは思い当たった。
「そうだわ、あの人、ニールという人がエマを殺したのかも」
「ああ。ニール氏のことだが」
警察はすでにニールのことを知っていたようで、フィオ―刑事はメモ帳をめくった。
「彼のことも調べてみた。彼もやはり犯行当時、ある店で他の人間と会っていたようだ。残念ながら犯人じゃない。……今のところ、おそらく犯人はエマの個人的な客となった男か、もしくは債権者の一人ではないかと言われているんだ。犯行時刻にデュホォール家に客を乗せていった辻馬車をさがしているんだが、正直これは無理かなと思っている」
刑事は浮かない顔になった。そうして眉を寄せている顔は、刑事にしては品の良い面立ちだということに今になってコンスタンスは気づいた。
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