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三
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走って来たのは制服すがたの警官二人だ。背が低い方がリジュロンを指差した。
「そこのおまえ、さっき客引きをしていたろう? たしかに見たぞ!」
「ご、誤解です!」
リジュロンは驚いて声を高くした。
本当にこの言い分は彼女にとっては驚愕だったのだろう。だが警官たちは問答無用でリジュロンの細い腕を取る。
「来い。話は署で聞こう」
「そ、そんな!」
「あ、あの誤解です。リジュロンは酔っ払いにからまれたそうで」
そばにいるコンスタンスも焦ってなんとかしようと思ったが、片方の警官は鋭い目でコンスタンスをにらみつけてくる。
「お前も仲間か?」
「ち、ちがいます。洗濯物を出しに行くところで……」
「そんな小細工で騙されると思うか? とにかく一緒に署へ来てもらおう」
「そ、そんな!」
警官二人に力ずくで引っぱられ、コンスタンスとリジュロンは彼らに従わざるをえない。
通りを歩いていた数人の人間が騒ぎを聞きつけて面白そうに見ている。ちらほらと声が聞こえてくる。
「なんだ? 掏摸か?」
「いや、街娼の検挙のようだ」
下卑た笑い声まじりの声も聞こえてくる。
「若い娘じゃないか」
逮捕者を護送するための馬車の前まで連れてこられ、コンスタンスは眩暈がしそうになった。
「ほら、さっさと乗れ!」
なかにはすでに三人の女性が乗っており、備えつけの木の長椅子に腰かけている二人はまちがいなく街娼のように見受けられるが、向かい側に座っている一人は堅気の主婦のようで、真っ青になっている。
コンスタンスたちが無理やり乗せられているあいだ、彼女は必死に警官に向かって叫んだ。
「お願いです、家に帰して! 子どもが病気で薬を買いに出ただけなんです! 家で子どもが待っているんです!」
「言い訳は署で聞く」
無情にも警官はそう言うと扉を閉めてしまった。
(う、嘘でしょう)
コンスタンスは今のあまりに異常なこの状況に呆然としてしまい、叫ぶことも泣くこともできないでいる。側のリジュロンも同様で、ひたすら青ざめて震えている。
「そこのおまえ、さっき客引きをしていたろう? たしかに見たぞ!」
「ご、誤解です!」
リジュロンは驚いて声を高くした。
本当にこの言い分は彼女にとっては驚愕だったのだろう。だが警官たちは問答無用でリジュロンの細い腕を取る。
「来い。話は署で聞こう」
「そ、そんな!」
「あ、あの誤解です。リジュロンは酔っ払いにからまれたそうで」
そばにいるコンスタンスも焦ってなんとかしようと思ったが、片方の警官は鋭い目でコンスタンスをにらみつけてくる。
「お前も仲間か?」
「ち、ちがいます。洗濯物を出しに行くところで……」
「そんな小細工で騙されると思うか? とにかく一緒に署へ来てもらおう」
「そ、そんな!」
警官二人に力ずくで引っぱられ、コンスタンスとリジュロンは彼らに従わざるをえない。
通りを歩いていた数人の人間が騒ぎを聞きつけて面白そうに見ている。ちらほらと声が聞こえてくる。
「なんだ? 掏摸か?」
「いや、街娼の検挙のようだ」
下卑た笑い声まじりの声も聞こえてくる。
「若い娘じゃないか」
逮捕者を護送するための馬車の前まで連れてこられ、コンスタンスは眩暈がしそうになった。
「ほら、さっさと乗れ!」
なかにはすでに三人の女性が乗っており、備えつけの木の長椅子に腰かけている二人はまちがいなく街娼のように見受けられるが、向かい側に座っている一人は堅気の主婦のようで、真っ青になっている。
コンスタンスたちが無理やり乗せられているあいだ、彼女は必死に警官に向かって叫んだ。
「お願いです、家に帰して! 子どもが病気で薬を買いに出ただけなんです! 家で子どもが待っているんです!」
「言い訳は署で聞く」
無情にも警官はそう言うと扉を閉めてしまった。
(う、嘘でしょう)
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