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「ほら、小説のペリーヌは、苦労しながらも最後には幸せになるじゃない?」

「そうね、それ、いいかも」

 ブリジットも納得した。

「すくなくともカルメンより似合っているわよね」

 ビュルも合意し、カルメンの眉もひらいた。

「ペリーヌ……素敵ね」

 低い声だが、カルメンはそう言うと、何度もその名を口ずさむ。

「ペリーヌ。わたし、今日からペリーヌね。マダムにも伝えてくるわ」

 カルメン――ペリーヌがドアの向こうに消えていくのと入れ違いに、カルロスがマカロンの乗った盆を片手に入ってきた。

「あれ、カルメンはどうしたんだい? めずらしく元気良さそうだね」

「カルメンは今日からペリーヌになったの。名前をかえたのよ」

 やや丸い鼻をそらしてビュルが言うのに、コンスタンスはあることが気になって訊ねていた。

「ビュルは、本名なの?」

「偽名よ、もちろん」

 あっさりと返されコンスタンスは気になってさらにたずねた。

「じゃ、本名はなんていうの?」

「内緒。こういう所じゃ本名は名乗り合わないものよ」

 ビュルはしたり顔でブラウスに首をすくめる。生成きなり色のブラウスは簡素なつくりでレースなどなく、同じようにあっさりした紺のスカートすがたのビュルは、田舎の農家か牧師館の娘のように慎ましげで朴訥ぼくとつそうに見えていたが、一瞬、かすかにコンスタンスは年下の少女から女の匂いを嗅ぎとった。

 それは、すこし嫌なものでもあれば、新鮮なものにも思えて、コンスタンスをとまどわせる。まだ、ビュルが好きなのか嫌いなのか、判断ができないところだ。

 今までのコンスタンスの交際関係は、たいていは好き、嫌いでおさまるものだった。そのどちらでもなければ無関心で、存在していないも同然である。学友たちにしても、好きなアガットと嫌いなペリーヌやそのとりまき以外の生徒は皆、街ですれちがう人ほどにコンスタンスにとっては意味のないものだった。そう思うと、大嫌いではあるが、ペリーヌにはまだ自分にとって存在意義があるのかもしれない。そんなことを思っている自分に驚きつつ、コンスタンスは矛先ほこさきを変えてみた。
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