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(似たようなもんじゃない。モンマルトルのどこかの店で働いているらしいから。……ああ、まったくこの先どうなるんだろう? お嬢様はまだ幼いし、奥様はあんなふうだし)

(奥様、またお身体の調子が悪いのかい?)

(寝室にこもりっぱなしだよ。いつものことだけれど。……あたしも新しい仕事をさがした方がいいかもね)

 実際、それからしばらくして彼女の姿は見えなくなった。

 一瞬の物思いに耽っているコンスタンスを、エマは冷ややかな瑪瑙色の目で一瞥し、おまえなんぞに興味もない、というふうに背をむけた。そして、ふーっ、と息をはくと、食堂のとなりの居間へ足をすすめ、緋の天鵞絨ビロードばりの長椅子のうえに、乱暴な動作で身体を横たえる。

 居間といっても手狭なものなので、コンスタンスには彼女の姿のすべてが目に入る。薄茶色の髪は完全に乱れて、ショールのようにエマの肩や胸に散っている。ひだの多いドレスが長椅子から床にかけて、悔しいことに見事なラインをつくっている。昨今では腰を膨らんだように見せる不格好なバッスルは姿を消しつつあり、全体にほっそりとしたドレスが主流となりつつあるが、この女はみごとにそれを着こなしているのだ。

 そしてコンスタンスは気づいていた。エマがコンスタンスが自分を見ていることを意識していることを。つねに人に見られることを意識して生きている女なのだ。だが、それは決して良家の子女や貴婦人としての自意識ではなく、安っぽい三流女優のような意識でだ。

 エマは黒のコートを脱ぎ落すと、薄紫モーブ色のブラウスの襟もとを苦し気に、せわしげにひっぱっる。もしかしたら酔っているのだろうか。

「ねぇ、ちょっとぉ、水持ってきて。水」

 まるで小間使いにでも言うようにコンスタンスに命じた。コンスタンスは内心の怒りと屈辱をおさえ、渋々、水差しとグラスを盆に乗せたが、おさえきれない怒りのために足がかすかに震える。

(なにしているの? コンスタンス・デュホール? あんたはこの女の奴隷になったの?)
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