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「なんでペリーヌってば、わたしに突っかかってくるのかしら?」

「焼いているんじゃない? コンスタンスがクラスで一番綺麗だから」

「やめてよ。……ペリーヌのせいで『家なき娘』のイメージがだいなしよ」

『家なき娘』とは、六年前に出版されたエクトル・アンリ・マロという作家の書いた小説であり、ペリーヌという名の可憐で純情なヒロインが苦労しつつも幸せになるという物語だ。

 コンスタンスはその小説が大好きで『プチ・ジュルナル』新聞に連載されていたころから乳母にねだって読み聞かせてもらい、作品が出版された当時、ちょうど十歳の誕生日をむかえたコンスタンスに父が本をプレゼントしてくれたときは、文字どおり跳ねあがって喜んだ。

 大型八つ折りの『家なき娘』をあらためて読みふけり、ヒロイン、ペリーヌに同情し、幼い少女によくあるように自分を悲劇のヒロインにかさね、泣きじゃくり、自分もペリーヌのように、なにがあっても強く生きるんだ、などと健気けなげにも思ったものである。その前年に母と生き別れたコンスタンスには、母と死に別れたペリーヌの不幸や苦しみは身に染みるものだったのだ。

 その憧れのヒロインとおなじ名をもつペリーヌは、物語のヒロインとは似てもにつかぬ性悪な娘だった。父親はパリ有数の銀行の頭取で、母親は貴族の血をひく名家の出。家勢にものを言わせ傲慢でわがまま、つねに取り巻きをはべらせ、クラスではちょっとした女王様きどりだ。

「本当にね……。ペリーヌって、きついわよね」

 アガットの勿忘草色の目に影がはしる。

 もともとアガットは寮でペリーヌとおなじ大部屋だったらしいのだが、初等部のころ彼女に目をつけられひどくいじめられて、そのストレスからか食欲がなくなり夜も眠れなくなり、半病人のようになったのだという。だが、いじめられたことは親には言えず、親はたんに寮生活がなじまなかったのだろうと判断し、校長にたのみこんで、特別な措置をとってもらい、アガットを自宅から通わすようにした。
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