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闇、深く 二
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郡王の生母であった当時の皇帝の側室の生家では、双胎を忌み嫌う家風があった。
郡王が、生家に仕える占者を呼びよせ占わせたところ、なんと先に生まれた子ども、つまり正妻の子を廃するようにと言われたらしい。そして、後から生まれた侍女の娘を正妻の子として育てるようにと助言されたのだ。そうすれば災いが防げると。侍女の娘が本妻の子の代わりに災いを受けてくれるというらしい。
郡王は勿論、正妻も大反対し、占者を追いかえした。当然だろう。正妻にすれば実の娘を使用人の娘として育てることは耐えがたいし、郡王にしても、占いが当たれば、侍女の子に災いを与えることになる。どちらも不幸にすることになるのだ。郡王は家訓も占いも無視することにした。
そして子どもたちは、正妻の子、愛人の子、とはいうものの、差別することなく大事に育てられた。表向きには娘は一人ということになっているが、家のなかで郡王は分けへだてなく娘たちを可愛がった。
二人はどちらも可愛らしく、育つにつれてよく似た姉妹となった。知らないものが見れば間違うほど瓜ふたつだった。
最初の悲劇が起こったのは、姉妹が十歳になったとき、郡王の妾であった侍女が突然死したことだ。
ある朝起きてこず、不審に思った家人が様子を見に行くと、死んでいたのだ。そのときは不幸な病死と片付けられたが、悲劇はつづいた。それから三年後、郡王が狩りの帰りに落馬して首の骨を折り、亡くなった。
郡王の死に正妻は半狂乱になった。偶然にも、郡王が亡くなったのは侍女が亡くなったのと同じ日だったのだ。こうなったのは、すべて最初に占者の言うことに従わなかったせいだと思ったのだ。
「今からでも災いを避けるためには、妾の娘と正妻の娘をとりかえるしかないと思い込んだのさ、奥様は」
「で、では、あなたは……」
火玉は笑った。
「そうさ、妾の娘だよ。十三の歳に〝火玉〟と呼ばれるようになったのさ」
清鳳は恐ろしいものを見るように〝火玉〟を見た。彼女の後ろに黒いもやもやとしたものが見えた気がしたのだ。それは、名家にたちこめる闇なのかもしれない。
「火玉と呼ばれる前は、なんと呼ばれていたのですか?」
清鳳は自分の声が震えていることに気づいた。
「枇嬋、さ。それが亡き母上……やはり祖父が婢女に手をつけて生ませた娘であり、生涯、異母妹に召使として仕えつづけた私の生母がつけてくれた名前さ。正妻の奥様と妾は異母姉妹だったのだよ。私たちが似ているのも当然だね」
郡王が、生家に仕える占者を呼びよせ占わせたところ、なんと先に生まれた子ども、つまり正妻の子を廃するようにと言われたらしい。そして、後から生まれた侍女の娘を正妻の子として育てるようにと助言されたのだ。そうすれば災いが防げると。侍女の娘が本妻の子の代わりに災いを受けてくれるというらしい。
郡王は勿論、正妻も大反対し、占者を追いかえした。当然だろう。正妻にすれば実の娘を使用人の娘として育てることは耐えがたいし、郡王にしても、占いが当たれば、侍女の子に災いを与えることになる。どちらも不幸にすることになるのだ。郡王は家訓も占いも無視することにした。
そして子どもたちは、正妻の子、愛人の子、とはいうものの、差別することなく大事に育てられた。表向きには娘は一人ということになっているが、家のなかで郡王は分けへだてなく娘たちを可愛がった。
二人はどちらも可愛らしく、育つにつれてよく似た姉妹となった。知らないものが見れば間違うほど瓜ふたつだった。
最初の悲劇が起こったのは、姉妹が十歳になったとき、郡王の妾であった侍女が突然死したことだ。
ある朝起きてこず、不審に思った家人が様子を見に行くと、死んでいたのだ。そのときは不幸な病死と片付けられたが、悲劇はつづいた。それから三年後、郡王が狩りの帰りに落馬して首の骨を折り、亡くなった。
郡王の死に正妻は半狂乱になった。偶然にも、郡王が亡くなったのは侍女が亡くなったのと同じ日だったのだ。こうなったのは、すべて最初に占者の言うことに従わなかったせいだと思ったのだ。
「今からでも災いを避けるためには、妾の娘と正妻の娘をとりかえるしかないと思い込んだのさ、奥様は」
「で、では、あなたは……」
火玉は笑った。
「そうさ、妾の娘だよ。十三の歳に〝火玉〟と呼ばれるようになったのさ」
清鳳は恐ろしいものを見るように〝火玉〟を見た。彼女の後ろに黒いもやもやとしたものが見えた気がしたのだ。それは、名家にたちこめる闇なのかもしれない。
「火玉と呼ばれる前は、なんと呼ばれていたのですか?」
清鳳は自分の声が震えていることに気づいた。
「枇嬋、さ。それが亡き母上……やはり祖父が婢女に手をつけて生ませた娘であり、生涯、異母妹に召使として仕えつづけた私の生母がつけてくれた名前さ。正妻の奥様と妾は異母姉妹だったのだよ。私たちが似ているのも当然だね」
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