双珠楼秘話

平坂 静音

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容疑 四

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 言われてみれば、あまりにも当たり前のことだ。
 何故、もっと早くその点を言わなかったのかと輪花はもどかしくなったが、あの状況では恐怖がまさって考えつかなかったのだ。 
「だけど、あんた、聞いていたろう? この娘はよりにもよってうちの娘に罪をなすりつけようとしたんだよ? 桂葉は見たこともないっていうのに、桂葉からもらったとか、桂葉にやったんだとか」
「何故、それを嘘だと決めつけられるんですか?」
 やわらかい微風のような清鳳の言葉が桂雲を鼻白ませた。
「え? 何故って、桂葉がそう言うんだから」
「桂葉さんの言葉が正しく、輪花さんの言葉が嘘だという根拠は何なのでしょう?」
「な、なんだって!」
 桂雲は色黒の肌を怒りに赤黒く染めたが、咄嗟にかえす言葉が出ないようだ。
「両方がちがう言い分をいうのなら、もう一度調べてみた方がよくないですか?」
 桂葉は憮然ぶぜんとした顔で清鳳を睨みつけた。
「私が嘘つきだって言うの?」
「嘘をついているとは言いませんが、若いお嬢さん方のことです。記憶違いとか勘違いというのもあり得るかもしれませんよ。少なくとも今のところ、桂葉さん、あなたの言葉を信じるに足る証しはないですからね」
 清鳳の微笑は消えない。桂雲、桂葉親子は黙りこんでしまった。
「玉蓮奥様、一応、この輪花さんを大奥様のところへ連れていってもよろしいでしょうか? 大奥様がじかに話したいこともあるそうで」 
苦い顔をする玉蓮に向かって清鳳はまた微笑んだ。
「お行きなさい」
 玉蓮は怒りをおさえてそう冷たく言い放ち、桂雲桂葉母娘ははこは憎しみをこめた目で輪花を見ている。盟宝はやや決まり悪そうな顔で。
 そして、金媛は、相変わらず見物人のように、冷めた表情だ。輪花はその無感動な顔を一番恐ろしく思いながら、震える足で清鳳にすがりついて室を出た。

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