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散り花 六
しおりを挟む「愛莉が香玉を殺したって? 誰がそんなことを言っているんだい?」
その日の昼過ぎ、輪花はどうにかして時間を作って奥殿へ向かった。
輪花の主な仕事は英風の世話なので、その英風が不在の今は動きやすいのだ。それに、輪花がたびたび、火玉に呼ばれていたことは他の使用人も知っているので、奥殿へ行くと言っても誰もふしぎには思わなかった。
ちょうど室には袁清鳳がおり、卓に向かって何か絵を描いており、彼女の存在は輪花の心は少しほぐしてくれた。
「お、奥様、玉蓮奥様です」
告げ口と思われないかと緊張したが、輪花はおそるおそる状況を説明した。
「まったく、最近玉蓮は私に何も知らせようとしないのだから」
「た、多分、大奥様にご心配をかけたくないのだと……」
ふん! 火玉はさも馬鹿にしたように鼻を鳴らす。紙に向かっている清鳳がちらりと、切れ長の目でそんな火玉の様子を見る。
「あれは、自分がこの屋敷の主になりたいのだよ。ずっと私に抑えつけられて、私の言いなりになってきたことを恨んでいるのさ。馬鹿な娘だよ。自分がこの屋敷を仕切れると思っているのかね? 今の状況だってろくに理解できていないくせに」
輪花にはなんとも言えない。ただ床に膝をついたまま、黙って聞いていた。
「それで、あれは、愛莉をどうするつもりなんだい?」
「今は納屋に閉じ込めています。きっと、ひどく厳しく罰するつもりだと思います。で、でも」
輪花はそこで下げていた顔を上げて、懇願してみた。今愛莉を救うことが出来るのは火玉だけだ。
「大奥様、愛莉は何もしていないと言うのです。嘘をついているようには思えません。愛莉が言うには、香玉は生前から少し様子がおかしかったそうで……」
「様子がおかしかった?」
その言葉に、火玉は寝椅子にあずけていた上半身をすこし起こす。
「は、はい。愛莉は、香玉はもしかしたら酒毒に犯されていたのではないかと」
輪花は焦って早口になりながら、愛莉から聞いた死ぬ少しまえの香玉の、眠っているように見えたり、ぼんやりして動きがおかしかったなどという奇行について説明した。
「それについては、愛莉だけではなく桂雲さんも気づいていたみたいです」
火玉の皺にはさまれた目が糸のように細くなる。考え込んでいるようでもあり、瞑想しているようでもある。
「ふうむ……」
しばらく無言になった火玉に、声をかけたのは清鳳だった。
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