双珠楼秘話

平坂 静音

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謎追う夜 二

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「英風様、掛け布団を持ってまいりました」
 書斎をうかがうと、英風はしょざいなげな様子で寝椅子に横になっていた。
「ああ……、悪いね」
 髪をほどいてぼんやりと天井を眺めているその横顔は、物憂げだ。
「なぁ、輪花」
「はい。何でしょう?」
「私は貧乏官吏の家の次男で、こういう大家のり方というのが良く解らないのだが……、こういうものなのだろうか」
「え? あの、それは」
「つまり……」
 英風は寝椅子の上に半身を起こす。ちらりと衣の合わせから彼のはだけた胸元が蝋燭のほのかな明かりに照らされ、輪花は頬が熱くなるのを感じた。
「いくら使用人とはいえ、人が一人死んだというのに、ろくに調べもせず、役所にも届けず、山に埋めて済ませるなど、そんなことでいいのだろうか。いいと思うか?」
 思いません、と声高く返してやりたいが、唇を噛むしかできない自分が、輪花はもどかしい。
「私にも……良く解らないんです」
 物置へ掛け布団を取りに行ったとき、桂葉に耳打ちされた言葉が耳によみがえる。
(とにかく、私たちは余計なことをしないに限るわ。こういうことは、古いおいえでは珍しくもないのよ)
(で、でも、人が死んでいるのに、届けもせず、山に埋めてしまってもいいの?)
(私が子どものときにきのこに当たって死んだ下男がいたけれど、そのときも裏山に埋めて済ませてたわよ。裏の山は、呂家の所有地だから、呂家専用の墓場みたいなものなのよ。呂家の方のための墓地もあるし。呂家の使用人が死んだら、たいてい裏山に埋めるって聞いたわ)
 それほどたくさん死んだ者がいるのだろうか。輪花が驚くと、桂葉はあっさりと言った。
(古い家なんだから、そりゃ、死ぬ人だっているわよ。それに、この屋敷には年寄りの使用人も多いし)
 そういう習慣になっているのかもしれない。人の命、とくに貧しい階層の人間の命は安く、軽く見られる時代である。
 輪花は桂葉から聞いた話を伝えた。
「だが、その下男の場合はあきらかに茸による食中毒だと判っているのだろう。今回の場合は事情がちがう。香玉の死因は判明してないではないか。……自害とは考えられないというし、何よりあの浅い池で自害は無理だろう」
「はい。私もそう思います」
 自害ではないとすると、事故死か……もしくは他殺ということになる。だが、見た限りでは、特に外傷は無かったようだが。勿論、輪花もそれほどしっかり遺体を見たわけではないが。
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