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憂い顔の新妻 一
しおりを挟む夕刻、輪花は夕餉の席にはべっていた。円卓の上に並べられた料理の皿は豪華で贅沢なものだが、それを前にしている新妻はどこか浮かない顔をしている。
「どうした? 気分が晴れないのかい?」
英風もそれに気づいたようだ。
「いいえ……、あの、」
「お嬢様は少し御気分がすぐれませんの」
すかさず、女主の側にひかえていた枇嬋が口をはさむ。
英風は眉を寄せた。
「金媛、今夜はゆっくりと休むがいい」
「え?」
あわてて左右に首をふる。
「いえ……そんなことは、そんなに悪くはないのです」
言ってから白磁気のような頬を赤く染めた。
はたで聞いている輪花の方が恥ずかしくなってくる。こういうのを、当てられるというのだろうか。
(室を出た方がいいかしら……?)
内心自問したものの、卓をはさんで向かい側に立っている枇嬋は何とも思っていないようだ。
「お嬢様、このお菜を少し召し上がられませ。料理人が腕によりをかけて作ったものですわ。ああ、お気をつけて」
そう言って、料理を小皿に盛って、女主の側にすすめる。枇嬋の目には輪花は勿論、英風も映っていないかのようで、輪花は内心あきれた。
「何だか、まるで子どもに対するようだね」
英風も苦笑するしかなかったのだろう。
他愛もない軽口だが、新妻は恥ずかしそうに顔をうつむけ、枇嬋は白濁色の眉をしかめた。
「お嬢様はお身体が病弱なので、ずっとわたくしがこうしてお世話してきたのでございますよ。勿論、これからもずっとお世話させていただきます」
入り婿が余計な口を出すな、と言わんばかりの態度に輪花はあきれるのを通りこして腹が立ちそうだ。
(枇嬋さんたら、いくらなんでも言い過ぎだわ)
輪花はつい唇をとがらせてしまいそうになったが、英風の口調はやわらかだった。
「そなたのような忠義者が側にいてくれると、金媛も心強いだろうね」
そう言われて困惑したような表情が、いかにも風に揺られる花のような風情で美しい。
「私はもうお腹いっぱいだ。君はゆっくりと食べるといい」
輪花が驚いたことに、新妻は、先に席をたとうとする向かい側の夫に手を伸ばし、その袖をつかんだ。見ていた輪花は声をあげそうになった。
「あ、あの、お待ちください。お怒りにならないで……」
言いたいことをうまく言えなくて困り果てている幼女のようなその動作と表情に、英風もまた目を見張り、枇嬋ですら虚をつかれたように呆然とした顔になっている。
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