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新婚 一
しおりを挟む輪花はしょざいなげに、高価な白磁の器を見下ろした。一度は温めなおしたお粥だが、それもまた冷めてしまうだろう。
(旦那様、どうなさったのかしら?)
英風はまだ来ない。
輪花はずっと立ちっぱなしで待っているので疲れてきた。この室はおもに若夫婦が食事やお茶を取るための室で、高価そうな卓が中央に置かれてある以外は家具もすくなく、壁紙は蓮華模様の琥珀色でまとめられ、落ち着いた雰囲気だ。そのせいか輪花の心はひどく安らいでしまった。
(少しだけ……)
つい椅子に座ってしまう。ふーっ、と息を吐く。
黒檀の円卓の上には粥や青菜の汁物、果実、金媛の好きな卵料理と、色取りも鮮やかに器に盛られてならべられている。手をつけられることなく冷めていく料理は、なんだかひどく侘しげに見えて、朝から輪花は少し憂鬱になった。何故だろう。最近、みょうに気が滅入る。
(きっと、環境がかわって疲れているのね)
普段はいそがしく働いているため気にならないが、やはり心はかなり疲労していたのだろう。
それに、緑鵬も行ってしまったし……。
「良かったら、君が食べるといい」
いきなり声をかけられ、輪花は椅子から飛び跳ねた。
「あっ、あの、申しわけありません! 私、つい待ちくたびれてしまって」
いつの間にか開かれた扉から差し込む陽光を背に立っていたのは英風だった。
「いいんだよ。金媛の様子が気になって室に寄ってみたら、すこし具合が悪いので臥せっているようで……。すっかり遅くなってしまったな。ええと、君は」
君、と呼ばれて輪花は頬が熱くなった。
「輪花です」
「そうだ、輪花、君、いっしょに食べないかい?」
輪花はますます頬が熱くなるのを感じた。背には汗がはしる。料理を物欲しげそうな顔で見ていたのだろうか。恥ずかしい。
「そ、そんなこと出来ません!」
「そうか。じゃ、私一人でいただくとするか」
輪花は給仕のために英風のそばに立った。
近くで見れば見るほど英風は緑鵬に似ている。林家にいたときは、緑鵬のために給仕役を勤めたものだ。
「この粥はうまいな。やはり朝餉には粥がいいね」
「さようでございますね」
緑鵬も粥を好んで食べていたことを思い出し、輪花は微笑んだ。緑鵬はよく給仕はいいからおまえも食べろと言っては輪花を座らせようとしたが、輪花はただ緑鵬が食べているのを見ているのが楽しかったのだ。
最後にいっしょに卓をかこんだのはいつだったろう。まだ月が一巡りもしていないというのに、まるで遠い日のことのように思える。
(緑鵬兄さん、今頃もう都に着いたかしら?)
「なぁ、君はここで働いて長いのかい?」
自分の思いにひたっていた輪花はそう訊かれて背を伸ばした。
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