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門の向こう 六
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三十を過ぎているのは明らかだが、肌は白く輝き、まだ充分張りがある。瞳は滴る黒蜜のように艶やかに黒い。背は女性にしては高い方だろうが、身体つきがほっそりとしてしなやかなので華奢に見える。豊かな黒髪を高々と結いあげて、頭頂に銀の蝶の簪を挿している。
見れば見るほど、美人画から抜け出てきたかのような美貌である。この田舎で、これほど美しい女性を見たのは輪花は初めてだ。
「娘の玉蓮だよ」
言われて、あわてて輪花は頭を低くした。
「輪花でございます。あの……奥様?」
奥様と呼んでいいのかどうかわからず、一瞬とまどうと、玉蓮はにっこりと笑った。大輪の花……、それこそ百花の王者、天香国色と呼ばれる牡丹の花が開くかのような笑みだ。
「これのことは、若奥様とお呼び」
「はい」
輪花は深く頭を下げた。
「お母様、厨でお茶を出すなんて、林家の若君にたいして失礼ですよ。よろしければ、わたくしの棟でお茶をさしあげますわ。輪花さんもいらっしゃい。来たばかりで緊張しているから挨拶もかねて、わたくしの部屋でお話しましょう」
唇からこぼれる声は慈愛に満ちた優しい調べだった。輪花は玉蓮の言葉を聞いていると、全身をなにやら甘い香に包まれていく気がした。
だが、すぐに我にかえり、あわてて火玉の顔をうかがった。
「ふん」
火玉は気に入らない、というふうに輪花と緑鵬を睨みつけたが、しわの多い首を、仕方ない、というふうに振る。
「まぁ、いい。今日は初日だしね。おまえが、いろいろ教えてやるといい」
「ありがとうございます、お母様。さ、輪花さんと、それから緑鵬さんだったかしら? こちらへ」
「ありがとうございます」
緑鵬は玉蓮にむかって頭を下げた。
見れば見るほど、美人画から抜け出てきたかのような美貌である。この田舎で、これほど美しい女性を見たのは輪花は初めてだ。
「娘の玉蓮だよ」
言われて、あわてて輪花は頭を低くした。
「輪花でございます。あの……奥様?」
奥様と呼んでいいのかどうかわからず、一瞬とまどうと、玉蓮はにっこりと笑った。大輪の花……、それこそ百花の王者、天香国色と呼ばれる牡丹の花が開くかのような笑みだ。
「これのことは、若奥様とお呼び」
「はい」
輪花は深く頭を下げた。
「お母様、厨でお茶を出すなんて、林家の若君にたいして失礼ですよ。よろしければ、わたくしの棟でお茶をさしあげますわ。輪花さんもいらっしゃい。来たばかりで緊張しているから挨拶もかねて、わたくしの部屋でお話しましょう」
唇からこぼれる声は慈愛に満ちた優しい調べだった。輪花は玉蓮の言葉を聞いていると、全身をなにやら甘い香に包まれていく気がした。
だが、すぐに我にかえり、あわてて火玉の顔をうかがった。
「ふん」
火玉は気に入らない、というふうに輪花と緑鵬を睨みつけたが、しわの多い首を、仕方ない、というふうに振る。
「まぁ、いい。今日は初日だしね。おまえが、いろいろ教えてやるといい」
「ありがとうございます、お母様。さ、輪花さんと、それから緑鵬さんだったかしら? こちらへ」
「ありがとうございます」
緑鵬は玉蓮にむかって頭を下げた。
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