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門の向こう 二
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「お、風流だな」
瀟洒な満月型の石門が見え、その洞窟の穴のような円形の門を二人は通った。
緑鵬にとってはやや小さいので、彼は頭を石門の天井にぶつけないように、軽く萌黄色の下衣の膝を折る。
「なんだか、子どもの頃、隠れんぼしたときのことを思い出すわね」
隠れる場所をもとめて、二人で厨房の大樽のなかに潜り込んだことがある。輪花の言葉に緑鵬も微笑んだ。
輪花はほんの少し弾んだ気持ちになって、石門をくぐりぬけ、緑鵬より先に向こう側に出た。
そこは彼女にとっての新しい世界でもあれば、異界でもあった。
「遅かったね」
石門をくぐりぬけた瞬間、緑鵬も輪花も呆気にとられて、そこに立つ人物を見上げていた。
いや、実際には相手は、輪花はともかく緑鵬から見たらかなり小柄なのだが、それでもその一瞬、二人は呆然として相手を見上げていた。
「道に迷ってでもいたのかい?」
声の主は……漆黒の衣をまとった白髪の老女であった。
右手で杖をついてはいるけれど、本当はそんなもの必要ないのではないかと疑いたくなるほど力強い存在感を放っている。
(ああ、この人が、お屋敷の現在のご当主様なのだわ……)
輪花は前もって聞いていた話を思い出した。
夫を亡くして女手一つでこの呂家を支えているという老未亡人。名は、たしか……。
火玉……。そうだ、呂火玉。それがこの屋敷の女当主の名だ。
少し離れたところで、質素な装いの侍女がかしこまって控えている。
「あ、あの、すいません。遅くなって……」
輪花がつぎの言葉をつなげようとすると、すぐに緑鵬が言葉を入れた。
「申しわけありません。お庭がこんなに広いとは思わなくて、思っていたより時間がかかってしまいました」
老女は皺の深い顔を緑鵬にむけた。
「ほう……あんたが、林家の次男かい? 今度都に出るという?」
老女は、いかにも高価そうな黒絹の衣の上の太い首を伸ばし、値踏みするように細い目を緑鵬に向ける。まるで巨大な亀が餌をさがしているようだ。輪花は昔話に聞いた、風呂のなかですっぽんに変わってしまった大家の奥方の話を思い出し、もう夏が始まろうというこの時期に、少し背が寒くなった。
「はい。林緑鵬と申します」
「村の学堂では一番の秀才と聞いたけれど」
「大したものではございません」
謙遜して腰をかがめる緑鵬に、老女はあっさりとうなずいた。
瀟洒な満月型の石門が見え、その洞窟の穴のような円形の門を二人は通った。
緑鵬にとってはやや小さいので、彼は頭を石門の天井にぶつけないように、軽く萌黄色の下衣の膝を折る。
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隠れる場所をもとめて、二人で厨房の大樽のなかに潜り込んだことがある。輪花の言葉に緑鵬も微笑んだ。
輪花はほんの少し弾んだ気持ちになって、石門をくぐりぬけ、緑鵬より先に向こう側に出た。
そこは彼女にとっての新しい世界でもあれば、異界でもあった。
「遅かったね」
石門をくぐりぬけた瞬間、緑鵬も輪花も呆気にとられて、そこに立つ人物を見上げていた。
いや、実際には相手は、輪花はともかく緑鵬から見たらかなり小柄なのだが、それでもその一瞬、二人は呆然として相手を見上げていた。
「道に迷ってでもいたのかい?」
声の主は……漆黒の衣をまとった白髪の老女であった。
右手で杖をついてはいるけれど、本当はそんなもの必要ないのではないかと疑いたくなるほど力強い存在感を放っている。
(ああ、この人が、お屋敷の現在のご当主様なのだわ……)
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「ほう……あんたが、林家の次男かい? 今度都に出るという?」
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「はい。林緑鵬と申します」
「村の学堂では一番の秀才と聞いたけれど」
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