龍蘭帝国奇談夜話

平坂 静音

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夜霧奇談 十 終わり

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「人里離れた場所で稀に催される鬼市というものがある。妖怪変化の類や死霊、それらと通じる裏家業の呪術師たちが集って、妖しの秘薬、秘物を売買する。そこでは、人の世では到底手に入らぬ妙薬を手に入れることができ、それを得られれば、私は長生きできるようになるだろうと。両親は半信半疑ながらも導師にすがってその鬼市が行われる場所をつきとめてもらった。それが、ここだ」
 この場所は、ちょうど人の世と別の世が交わる場所だというのだそうです。この世には、そういった不思議な場所がいくつかあるのだそうで。わたしはただ驚き、目を見張りつつ御当主の話を聞きつづけました。
「鬼市で手にいれた秘薬のおかげで私はこの歳まで生きてこれたが、つけも大きかった。時々は秘薬を得なければならなくなり、その秘薬なしでは生きられなくなってしまった」
 その為に、両親の遺産でこの地に邸を建て、長く住んでいるうちに、鬼市に群がる異形のものたちと交わり、彼らに馴染んでしまったというのです。
「もう私自身も半分向こうの世界に足を踏み入れてしまっているみたいなものだ。先ほどの鴉もまた妖しの類でな、市の始まりを知らせに来たのだ」
 わたしは呆然としたまま、御当主の話を聞いていました。およそ信じられぬ話ですが、窓から見える魑魅魍魎たちのかもしだす、あの異常な姿と妖気は確かなものに思えます。
「おまえたちを案内してきた爺はな、実はその導師で、鬼市に関わって秘密の品物を手に入れて、それを必要な人間に高く売って金を儲けていたのだが、いつしか彼自身も異形のものに成り果ててしまった」
 意味が解らずぽかんとしてしまったわたしに、御当主は苦笑いして説明してくださいました。爺は邸のなかでは女になるのだ、と。 
「なぁ、緑玉、もし、もしも、な、売られて行くのが嫌なら、いっそここにおらぬか?」
 わたしの頬は熱くなりました。
 
 思えば、人市と鬼市と、どちらがより残酷なのでしょうか。好色な金持ちの玩具になるぐらいなら、このお邸で御当主のお側にいる方がずっとましです。
 わたしは翌日、兄を説得して、御当主からいただいた、いくばくかの金子を父の治療費として渡し、村に帰ってもらいました。
 兄は、もっとお金が欲しいようで、また来るというようなことを言っていました。
「あんまり言うようなら、いっそ鬼市で悪鬼どもに売ってしまいましょうかね、奥様」
 笑いながらそんなことを言う婆やに、わたしは思案しつつも、うなずきました。
「兄さんの生き胆なら高く売れるかもね」
 わたしはすっかりこちらの世界に来てしまったようです。     
                                 終わり

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