牢獄の夢

平坂 静音

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 あなたは、自分がマリア・デ・パディリャの身内を贔屓ひいきするのは、あくまでも彼らに才能があり役に立つからだと主張するかもしれませんが、果たしてそうでしょうか? 
 
 わたくしには、彼らはマリア・デ・パディリャの兄や叔父でなければ特に目立つことのないような人たちとしか思えません。

 あなたの治世のために尽くしてくれるというかもしれませんが、臣下なら王のために尽くすのは当たり前のことではないでしょうか。

 それに、目をかけられればやる気になるのは人情として当たり前過ぎることだと思います。

 パディリャ一族が無能だとはいいませんが、それほど卓越たくえつしたところがあるようにもわたくしには思えませんでした。あくまでも自分たちが出世できるから、自分たちの身内を王妃にして権力をふりかざしたいからこそ彼らはあなたに忠誠を尽くしたに過ぎません。

 そんなことも気づかず、あなたは事を起こした愚劣な臣下たちとアルドンサ・コロネルを責めたてた。

 まぁ、たしかにアルドンサは愚か過ぎます。

 わたくしが聞いたかぎりでも、これほど愚かな女はカスティーリャの歴史上めずらしいでしょうよ。おそらくはこの半島の歴史に馬鹿な女の代名詞として名を留めることでございましょう。

 そう、馬鹿な女です。

 悪女や妖婦というのとは違います。悪女や妖婦と呼ばれる女には、それこそレオノールやイネスのようにどことなく悲壮感もあれば知性も感じられますが、アルドンサの場合はただただ愚かなお頭の足りない女としか思えません。

 せっかく尼僧院で終わるところをあなたの目に留まり、寵妃として女王並みの生活をおくれるようになり、このままうまくいけば男の子を産む僥倖ぎょうこうを得、あわよくば王妃となることもできたかもしれないというのに――。
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