牢獄の夢

平坂 静音

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 当時マリア・デ・パディリャの思いやり深い言葉と思慮ある態度を聞き知った人たちは、彼女の善行を誉めたたえたことでございましょう。あの女が男だったら、その才覚と度量を生かして兄や叔父たちより出世したことでございましょうよ。

 そしてあなたはさかしらな妾の忠言にしたがって、またもしぶしぶとわたくしの元へ戻ってまいりました。

 ですが、わたくしにとってこれほどの侮辱があるでしょうか。妾のお情けによって夫の訪れを喜ばなければならないなんて。

 わたくしはこのときほど誰かを真実憎いと思ったことはありません。

 いえ、憎んだのはマリア・デ・パディリャのような田舎貴族の卑しい女などではありません。そんな女はわたくしにとっては存在しないも同じでございます。

 憎んだのは、わたくしが骨の髄から憎んだのは、かくもわたくしをないがしろにして、わたくしの女としての名誉も姫としての誇りもずたずたに引き裂き、その残骸に唾棄するような真似をしてくれたあなたです。
いったい、どうしたらここまでわたくしを侮辱するような真似ができるのか……。

 国命と王族の義務で結婚したのは、わたくしも同じです。したくてしたわけではございません。

 わたくしだって本当はカスティーリャなどに来たくはなかったのです。父上や母上のお側で、姉上兄上と仲睦まじく暮らしていたかった……。パリの宮廷で青春の花を開かせ、真実わたくしを愛してくれる殿方にひざまずかれ、その人にだけ我が手に接吻することを許したかった。それが、この国へ来てしまい、夫に愛されない哀れな妻という役割を演じさせられる羽目になったのでございます。

 故国では、あれほどいつも愛と賞賛のまんなかにいて、いつも人々から敬われ大切にされていたわたくしが。

 本当に女の人生というものは、男によってどうにでも変わってしまうものだと、つくづく思い知らされました。こればかりは王妃であろうが、農婦であろうが避けられないものなのです。

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