24 / 45
九
しおりを挟む
当時マリア・デ・パディリャの思いやり深い言葉と思慮ある態度を聞き知った人たちは、彼女の善行を誉めたたえたことでございましょう。あの女が男だったら、その才覚と度量を生かして兄や叔父たちより出世したことでございましょうよ。
そしてあなたは賢しらな妾の忠言にしたがって、またもしぶしぶとわたくしの元へ戻ってまいりました。
ですが、わたくしにとってこれほどの侮辱があるでしょうか。妾のお情けによって夫の訪れを喜ばなければならないなんて。
わたくしはこのときほど誰かを真実憎いと思ったことはありません。
いえ、憎んだのはマリア・デ・パディリャのような田舎貴族の卑しい女などではありません。そんな女はわたくしにとっては存在しないも同じでございます。
憎んだのは、わたくしが骨の髄から憎んだのは、かくもわたくしを蔑ろにして、わたくしの女としての名誉も姫としての誇りもずたずたに引き裂き、その残骸に唾棄するような真似をしてくれたあなたです。
いったい、どうしたらここまでわたくしを侮辱するような真似ができるのか……。
国命と王族の義務で結婚したのは、わたくしも同じです。したくてしたわけではございません。
わたくしだって本当はカスティーリャなどに来たくはなかったのです。父上や母上のお側で、姉上兄上と仲睦まじく暮らしていたかった……。パリの宮廷で青春の花を開かせ、真実わたくしを愛してくれる殿方に跪かれ、その人にだけ我が手に接吻することを許したかった。それが、この国へ来てしまい、夫に愛されない哀れな妻という役割を演じさせられる羽目になったのでございます。
故国では、あれほどいつも愛と賞賛のまんなかにいて、いつも人々から敬われ大切にされていたわたくしが。
本当に女の人生というものは、男によってどうにでも変わってしまうものだと、つくづく思い知らされました。こればかりは王妃であろうが、農婦であろうが避けられないものなのです。
そしてあなたは賢しらな妾の忠言にしたがって、またもしぶしぶとわたくしの元へ戻ってまいりました。
ですが、わたくしにとってこれほどの侮辱があるでしょうか。妾のお情けによって夫の訪れを喜ばなければならないなんて。
わたくしはこのときほど誰かを真実憎いと思ったことはありません。
いえ、憎んだのはマリア・デ・パディリャのような田舎貴族の卑しい女などではありません。そんな女はわたくしにとっては存在しないも同じでございます。
憎んだのは、わたくしが骨の髄から憎んだのは、かくもわたくしを蔑ろにして、わたくしの女としての名誉も姫としての誇りもずたずたに引き裂き、その残骸に唾棄するような真似をしてくれたあなたです。
いったい、どうしたらここまでわたくしを侮辱するような真似ができるのか……。
国命と王族の義務で結婚したのは、わたくしも同じです。したくてしたわけではございません。
わたくしだって本当はカスティーリャなどに来たくはなかったのです。父上や母上のお側で、姉上兄上と仲睦まじく暮らしていたかった……。パリの宮廷で青春の花を開かせ、真実わたくしを愛してくれる殿方に跪かれ、その人にだけ我が手に接吻することを許したかった。それが、この国へ来てしまい、夫に愛されない哀れな妻という役割を演じさせられる羽目になったのでございます。
故国では、あれほどいつも愛と賞賛のまんなかにいて、いつも人々から敬われ大切にされていたわたくしが。
本当に女の人生というものは、男によってどうにでも変わってしまうものだと、つくづく思い知らされました。こればかりは王妃であろうが、農婦であろうが避けられないものなのです。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す
矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。
はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき……
メイドと主の織りなす官能の世界です。
父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。
貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや……
脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。
齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された——
※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
富嶽を駆けよ
有馬桓次郎
歴史・時代
★☆★ 第10回歴史・時代小説大賞〈あの時代の名脇役賞〉受賞作 ★☆★
https://www.alphapolis.co.jp/prize/result/853000200
天保三年。
尾張藩江戸屋敷の奥女中を勤めていた辰は、身長五尺七寸の大女。
嫁入りが決まって奉公も明けていたが、女人禁足の山・富士の山頂に立つという夢のため、養父と衝突しつつもなお深川で一人暮らしを続けている。
許婚の万次郎の口利きで富士講の大先達・小谷三志と面会した辰は、小谷翁の手引きで遂に富士山への登拝を決行する。
しかし人目を避けるために選ばれたその日程は、閉山から一ヶ月が経った長月二十六日。人跡の絶えた富士山は、五合目から上が完全に真冬となっていた。
逆巻く暴風、身を切る寒気、そして高山病……数多の試練を乗り越え、無事に富士山頂へ辿りつくことができた辰であったが──。
江戸後期、史上初の富士山女性登頂者「高山たつ」の挑戦を描く冒険記。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
東洲斎写楽の懊悩
橋本洋一
歴史・時代
時は寛政五年。長崎奉行に呼ばれ出島までやってきた江戸の版元、蔦屋重三郎は囚われの身の異国人、シャーロック・カーライルと出会う。奉行からシャーロックを江戸で世話をするように脅されて、渋々従う重三郎。その道中、シャーロックは非凡な絵の才能を明らかにしていく。そして江戸の手前、箱根の関所で詮議を受けることになった彼ら。シャーロックの名を訊ねられ、咄嗟に出たのは『写楽』という名だった――江戸を熱狂した写楽の絵。描かれた理由とは? そして金髪碧眼の写楽が江戸にやってきた目的とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる