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ふたつの世界 二

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「ここは港町だからね」
 山と海にかこまれたこの街は、田舎と都会がまざりあっており、住民も戦前から代々住みつづけてきたという人もあれば、就職のため転居してきて、そのまま定住して結婚して新たな家族をもうけたという新旧しんきゅうのタイプがいりまじっている。
 庭つき一戸建ての家々がならぶ山ちかくの土地からすこしくだればマンションや団地、アパートなどの集合住宅が密集している地域もある。
 ふるいタイプの住民の地域は、昔の城下町のなごりめいた白壁や石垣をふくんだ家屋、広い公園、並木道がつづき、のんびりとした歴史ある田舎町に見え、新しいタイプの住民の地域は、大型店舗が乱立し、駅や繁華街があり近代的な都会めいて見え、地元の人々は、田舎派を〝山側〟、都会派を〝海側〟と呼び慣わしている。
 山側で生まれ育った若い世代などは、交通の便利な海側に住みたがるが、やがて結婚して子を持つ時代が来ると、やはり親元であるもとの古い土地にもどりたがる。車があれば娯楽や買い物にもそうこまることもない。
 経済的収入は、当然ながら圧倒的に山側が大きく、海側はちいさく、その経済的格差はかなり激しいという。
 そして当然、桜葉に通学している地元の生徒は、裕福な階層の山側の子どもたちが圧倒的におおい。
 そんな彼女たちは、他県出身者の寮生と友人になることはあっても、近隣の普通の公立学校の生徒たちとまじわることは少ないようだ。今や日本全国どこでもそうだが、こういった貧富の差による二極化は、この街では戦前からつづいてきた因習だった。
「夜の街なんかすっごいにぎやかだし、なんかいっつもお祭りでもやってるみたいに明るくてさ、外人なんかもいっぱい街歩いていて、最初見たとき、うわぁ、都会だぁ、って思っちゃったもん。初めて街くりだしたとき、ジャズバーっていうのかな、その辺りの店ってジャズが人気で、いっつもジャズが流れててさ、彼氏とはじめてお酒飲んで。なんか、なんか、レトロなんだけれど、すっごくお洒落で、別世界みたいだった」
 菜穂の目はきらきらしている。
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