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いやがらせ 一

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「妹が悩んでわたし宛てに送ってきたものです。とても両親には見せられなかったんです。もともとは妹の寮の部屋にとどけられたものなんだそうですが……、自殺未遂をする当日の昼にポストに投函したみたいです」
「たしかに……消印は妹さんが窓から飛びおりた日のものですね」
 そのときの騒動と混乱を思い出しながら駒田はつぶやいた。
「そのまえにひどいいやがらせの手紙をもらって落ちこんでいるって電話で聞いたんです。どんな手紙なの、って聞いたら、あんまりにもひどいから口で説明するよりその手紙をお姉ちゃんに送るから、って」
 みつ子の黒目が悔しげに光る。
「読んでもいいですか?」
「どうぞ。先生や探偵さんにこれを読んで調べてもらって、なんとかしてこの手紙を書いた奴をつかまえてほしいんです」
 封筒のなかには便箋とポストカードが入っていた。一目見て二人とも沈黙してしまった。
「これ……は、悪質ですね」
 駒田はうなるように言葉をはいた。
 ポストカードは川に落ちてながれていくオフィーリアを描いた有名なミレーのものだが、その美しく叙情的な絵のうえに、黒ペンで大きく×がしてあるのだ。
 力のこもったペン跡には、どぎついような書き手の悪意が見える。さらに駒田は白い便箋をひろげてみて目をひそめた。

『淫売の変態女へ。お前がウリをしているのは知っているんだぞ。みんな知っているぞ。おまえみたいなスケベな公衆便所がオフィーリアをやるなんてゆるせない』

『ひとりでいい気になって、バカみたい。自分が綺麗だと思ってんのか? おまえの下手な芝居なんて見たくないぞ! そうやって舞台で男を募集しているのか? そのうち輪姦まわしてやるからな。おぼえてろ!』 

『ブス、スケベ、バカ、ヤリマン、させ子の公衆便所。死ね。おまえ、見てるだけでうざい。消えろ、死ね、死ね。桜庭の恥。真面目そうな顔して、おまえが裏で何やってるか全部知っているぞ! みんなにおまえの正体ばらしてやるからな』

 駒田はふたたびうなった。
 文章の過激さと下品さに辟易する。文字はパソコンで書かれたものなので筆跡で判断するのは無理なうえに、もちろん送りぬしの署名などない。匿名で一方的にこれほど下劣な文をおくりつけてくるのだから相当卑劣な相手だ。
「ひどい手紙だなぁ……。こんな手紙をもらって、中西はさぞつらかったでしょうね」
 もともともの静かな生徒だったが、こんないやがらせをされていれば憂鬱になるものだ。自殺未遂の数日まえからきっとずいぶん悩んでいたろう。なぜ相談してくれなかったのかと、悔しくもなった。
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