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(だから、それがわたしの運命なのよ)

 自分のような娘は、一生光の届かない海底の洞窟にでもひそんでいるしかない。メリジュスはひがんだ気持ちになって、そんなことを思ってしまったが、ジェルディンの次の言葉はメリジュスを驚かせた。

「メリジュス、奥付きの侍女にならないか? 今の侍女は気がきかないので困っている」

 とんでもない! と首をふろうとすると、ジェルディンは常に愛されてきた者だけが持ち得る、あの輝くような笑顔を見せた。自分の希望や望みは、すべて受け入れられると信じている者特有の笑みである。

「おまえならレイミィも気に入るだろう」

 わけがわからず、ぽかんとしているメリジュスにジェルディンが口早に説明した。

「都で知り合った娘で、実は明日の宴でお披露目しようと思っているのだ」

 つまり、婚約者なのだろう。かつて彼の父親がそうだったように、ジェルディンもまた都での遊学中に将来の伴侶を見つけてきたのだ。 

「レイミィは優しくてとてもいい娘なのだが、内気ですこし引っ込み思案なのだ。おまえが側についていてくれると助かる」

 都育ちの深窓の令嬢がこんな田舎へ来て、慣れないことだらけで心細いのだろう。

 言葉と表情からは婚約者への愛情がうかがいしれ、逆にメリジュスはほっとした。

(そういうことなら、おかしな期待や愚かな夢を見ずにすむから、いっそ楽かも)

 メリジュスは慎重に返事をした。

「あの、もしそのレイミィ様がわたしをご覧になって嫌がらないのなら……」

 ジェルディンは一笑した。笑うと、肩あたりで切りそろえられた金の髪がゆれて木漏れ日に輝く。

「嫌がるわけがないじゃないか! 今からでもレイミィに会うといい」

 迷ったが、主家の若君の言うことである。強く断ることはできない。それに、メリジュス自身も、本当は、このままずっと厨房の下働きで終わるのを思うとつらいのだ。
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