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三
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「一応大丈夫だけれど……。あのときは死ぬかと思った」
「……あのとき、なんか悪いものでも食べた?」
美香がトイレに急にたったときの献立を美波は必死に思い出してみた。やはり引っかかるものがあるのだ。
「シチューだったかな?」
そう、たしかビーフシチューだった。別館で最初の夕食だ。
「デザートのせいでお腹冷えたのかも」
美香が思い出したようにぽつりとつぶやき、言葉をつないだ。
「アイスクリームなんて久しぶりだったからさ、嬉しかったんだけれど、食べ終わるころにお腹が痛くなって」
「大変だったわね」
慰め顔に言うと、美香は無言になってしまう。
「どうしたの?」
「もうすぐ、生まれるんだよね……」
美香の顔はひどく憂鬱そうで、美波は返す言葉が思いつかない。
ふと、美香が哀れになってきた。
世の中の妊娠女性は、夫や親に期待され、大切にされ周囲から祝福されつつ新たな生命を身体のなかではぐくみ、世に送り出すという尊い仕事をするのに、どういう運命でか、十六、七でこんな大任を背負いこみ、世間からは白い目で見られ、肉親すらからも疎んじられ悩みの種とされ、後ろめたさを抱え隠れるようにしてひっそり産まなければならない者もいる。
「どうしょう……」
「……」
「杉さんから言われてるんだ。もし育てられないなら、養子縁組先を捜してあげるからって。親もその方がいいって……。うちの父親って、」
そこで美香は息を吐いた。同年代にしては老けた印象の美香だったが、その横顔はさらに齢を取ってしまったように見える。
「義理の父親なんだよね。母親の再婚相手」
「血の繋がりがないのね」
「べつに苛められたりとかはなかったけどね……。でも、義理だから、あんまり迷惑かけられないんだよね。家には種ちがいの弟と妹がいるし」
美香も複雑な事情を抱えていたのだ。
「……実のお父さんはどうしているの?」
「知らない。ま、どっかで生きているんだろうけれどさ」
美波は昨夜のことを思い出してみたが、山本美香にかんしてはファイルに特別な記載がなかった。彼女はまったくの偶然でこの学院へ来たのかもしれない。
「うちって……私の実家のあたりってさ、妙な店ばっかあるところなのよ」
「妙な店?」
「そ。ソープとかそういうのがずらった並んでるの」
「……あのとき、なんか悪いものでも食べた?」
美香がトイレに急にたったときの献立を美波は必死に思い出してみた。やはり引っかかるものがあるのだ。
「シチューだったかな?」
そう、たしかビーフシチューだった。別館で最初の夕食だ。
「デザートのせいでお腹冷えたのかも」
美香が思い出したようにぽつりとつぶやき、言葉をつないだ。
「アイスクリームなんて久しぶりだったからさ、嬉しかったんだけれど、食べ終わるころにお腹が痛くなって」
「大変だったわね」
慰め顔に言うと、美香は無言になってしまう。
「どうしたの?」
「もうすぐ、生まれるんだよね……」
美香の顔はひどく憂鬱そうで、美波は返す言葉が思いつかない。
ふと、美香が哀れになってきた。
世の中の妊娠女性は、夫や親に期待され、大切にされ周囲から祝福されつつ新たな生命を身体のなかではぐくみ、世に送り出すという尊い仕事をするのに、どういう運命でか、十六、七でこんな大任を背負いこみ、世間からは白い目で見られ、肉親すらからも疎んじられ悩みの種とされ、後ろめたさを抱え隠れるようにしてひっそり産まなければならない者もいる。
「どうしょう……」
「……」
「杉さんから言われてるんだ。もし育てられないなら、養子縁組先を捜してあげるからって。親もその方がいいって……。うちの父親って、」
そこで美香は息を吐いた。同年代にしては老けた印象の美香だったが、その横顔はさらに齢を取ってしまったように見える。
「義理の父親なんだよね。母親の再婚相手」
「血の繋がりがないのね」
「べつに苛められたりとかはなかったけどね……。でも、義理だから、あんまり迷惑かけられないんだよね。家には種ちがいの弟と妹がいるし」
美香も複雑な事情を抱えていたのだ。
「……実のお父さんはどうしているの?」
「知らない。ま、どっかで生きているんだろうけれどさ」
美波は昨夜のことを思い出してみたが、山本美香にかんしてはファイルに特別な記載がなかった。彼女はまったくの偶然でこの学院へ来たのかもしれない。
「うちって……私の実家のあたりってさ、妙な店ばっかあるところなのよ」
「妙な店?」
「そ。ソープとかそういうのがずらった並んでるの」
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