聖白薔薇少女 

平坂 静音

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「109号室で騒いでるみたい。雪葉とシスター・アグネスが」

「え?」 思わず美波はぎょっとした。

「ほら、雪葉、髪切りに行かないといけないのに行かなかったじゃない? それでシスター・アグネスが怒ってしまってさ。学院長まで来ているらしいよ」

 やっぱり、という思いが美波の胸にせまる。あのまま済むとは思わなかったが。

「ね、行ってみよう」

 夕子につられて廊下の角を曲がって109号室に行くと、すでに数人の生徒がドアのところに集まって、なかの様子に聞き耳をたてている。ドアはかすかに開いているので、怒鳴り声が外まで丸聞こえだ。

「嫌だったら! 絶対に嫌!」

「何言っているの、規則でしょう。いらっしゃい」

 そんなやりとりが聞こえてくる。

「うわぁ、やるねぇ、雪葉」

 夕子の目は楽しそうに輝いているが、口調にはどこか感嘆もまじっている。

「こっちへいらっしゃい!」

「いや!」

 その後、びっくりするような雪葉の悲鳴が聞こえ、その場にいた生徒たちは全員凍り付いてしまった。



 
「あなたたち、何をしているんですか、さっさと部屋に戻りなさい!」

 ドアから出てきた学院長のその声で皆逃げるように去ろうとした。だが、シスター・アグネスによって美波と夕子は呼び止められた。

「あなたたちは掃除をしなさい」

 命じられて奇妙に思いながらおずおずと部屋に入った二人は、室に散らばる黒髪を見て仰天した。

 さらに部屋の中央では美波がうずくまって泣いており、あの長かった髪は無残に短く切られている。美波はぞっとした。

 無理やり切られたのだ。

 こんなことが今時、本当にあるのだろうか。美波は異様なものを見た衝撃に立ち尽くしていた。

「……ちょっと、大丈夫?」

 夕子が訊くが、雪葉にはまるで聞こえていないようだ。

「うー! うう!」 

 どうも様子がおかしい。

「シスターを呼んでくるわ」

 あんなことがあった後でも、シスターに頼るしかないのが悔しいが、雪葉の様子は尋常ではない。美波はあわて
てシスターを呼びに廊下に出た。

 長い廊下を走り、舎監が詰めている一階の部屋のドアをノックすると、出てきたのは初老になろうかというシスター・グレイスだ。彼女は校医も兼ねている。

「どうしました?」
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