聖白薔薇少女 

平坂 静音

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疑問 一

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「……晃子って、出身どこ?」

 ふと気になって美波は訊いた。

「福岡よ。なんで?」

 多少のなまりは感じられるが、今時の子なら標準語を使いこなすことなど簡単なのだろう。

「ううん。別に」

 言いつつ美波はひどく引っかかるものを感じた。

 裕佳子は岡山で夕子は横浜だ。そして自分は東京である。

 生徒を募集するのに特に地域を限定しているわけではないようだが、それならば、どういう条件で夕子や晃子は〝募集〟されたのだろう。夕子や晃子の所へ学院の職員が直接来たようだが、なにを基準にして彼女たちを選んだのだろう……。考え込んでしまう。妙に背がむずがゆい。

(ねぇ、美波、この学院どうかしら?)

 母の言葉が耳によみがえってくる。

(こうなったら、もう元の学校へ戻るなんて無理でしょう。それに近くの学校でもやっぱり嫌じゃない? ここなら東京から離れているし、生徒もまったく知らない子たちばかりだから気が楽でしょう? 昨日、学院の人がわざわざ来て説明してくださったんだけれど、この学院では事情をかかえた生徒を敢えて引き受けてくれるんですって。なんでも、キリスト教の愛の教えにのっとって、問題のある子ども、それも女の子を導くのを目的として建てられた学院だそうよ)

 あのとき母は学院の人が来たと言っていた。

 私立の学院とはいえ、生徒募集にそこまでするものなのだろうか。いくらそういう方針だとはいえ。それも美波の家の場合はともかく、夕子や晃子は授業料免除である。いくら世間知らずな美波でも、人ひとりにかかる食費や光熱費、住居費などは決して安くないことだということはもう理解できる。

 私立校が勉強やスポーツの優秀な生徒を好条件で迎え入れるのは、そういった生徒が有名大学に進学したり、試合で活躍したりして、学校のレベルや名声をあげてくれるという――やや言葉は悪いが、〝見返り〟があるからだ、ということは子どもでもわかる理屈である。

 しかし、この学院は進学校ではないようだし、部活動が盛んだとも聞いていない。ふと、また美波は気になって、おそるおそる声を出していた。

「ねぇ、晃子って何部?」

「部? 部活なんて入ってないわよ。この学院、部活動ないもの」

 まさか、とは思ったが、やはりそうだった。美波の顔はひきつっていた。

「バレー部とかテニス部とかいう運動部はないの? 同好会とかも?」

「昼休みに運動が好きな子が校庭でバレーしたりテニスしたりはしているけれど、部活動としてはないのよ。まぁ、私も最初に聞いたときはびっくりしたけれど」
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