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ルシューランにて
帰還
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目を開けると洞窟内は明るい光に包まれていた。隣で踞っていたリファーナは目を塞ぐのが遅れたのだろう、まだ眩しそうに目をしばたたいている。
「これなら帰りは楽勝だな。こいつが覚醒を止めてたんだろう。貯まってた光が一気に放出したんだなぁ」
コーストが塵となったキュウホンを見下ろした。跡形もなくなった黒い残骸は魔鉱石の強い光に照らされている。
「早く帰ろう」
町が心配だ。確か鶴嘴を持ってきたのはサリュだったな。
振り返るとそのサリュは先程にも増して顔を青くし、焦点をさ迷わせていた。
「サリュ? おい、どうしたサリュ、サリュ?」
「━━ふぇっ?」
顔はこちらを向くのにその視線はどこか遠くを見つめている。
ぐらりと体が揺れた。支えを失った人形のようにサリュの体が落ちていく。
「サリュ!」
何の抵抗もなく地面に打ち付けられ、光のない瞳が揺れる。
「おい、しっかりしろ! おい!」
急いで駆け寄り抱き起こすが反応がない。カルの方を向いた無気力な瞳を瞼が覆っていく。
「おい! サリュ!」
「どうした!」
異変に気づいたコーストもサリュのもとへと駆けつけた。
「サリュが、サリュの意識がないっ」
怪我をした腕は結んだ包帯をいつしか真っ赤に染め上げていた。
「サリュ! おい!」
「落ち着けっ!」
コーストがカルの腕からサリュを奪い取った。
「何すんだよ」
「いいから落ち着け。騒いでたってサリュは起きない」
「っ、」
「魔鉱石はどこだ、見つけたんだろう?」
「あっちだ」
岩の向こうを指差して見せる。
「でも早くしないとサリュが」
「わかってる。ちょっと持ってろ」
コーストはカルにサリュの腕を握らせる。
「出血が酷い。しっかり握ってろ」
そしてサリュの荷物の中からはみ出している鶴嘴を取り出す。岩の向こうに回り込み、コーストの姿が消えた。
「これだな」
その声の直後、振り上げられた鶴嘴の先が岩の上にのぞく。
パアァァン、パアァァン
固い岩の砕ける音が二発。岩の影から出てきたコーストは特大サイズの魔鉱石を抱えていた。十二、いや十二半はあるか。
「これだけでかければ十分だろう」
「あっ、あぁ」
それほどの大きさの、もはや岩とも呼べるものをコーストは容易く持ち上げている。
「嬢ちゃん、すまないがちょっと袋を開けてくれるか」
首で示されたコーストの袋をリファーナが拾い上げる。中身を外に出し、袋の口を最大まで開くとそれを魔鉱石の下に広げた。
「手を挟まないように気を付けろよ」
こくりと頷いたリファーナを見届け、ゆっくりと下ろされた魔鉱石が袋にすっぽりと収まる。
「さぁ、帰るぞ。カル、お前がサリュを運べ。さすがに片手じゃあ無理だ」
コーストが袋を担ぎ上げる。コーストの荷物をサリュの鞄に詰め込んだリファーナも立ち上がる。
「あぁ、わかってる」
血の溢れる腕を握ったままサリュの下に潜り込む。ぐったりと重くなった体を背中に負って立ち上がると、コーストは頷き先頭を歩き出した。
熱を帯びたサリュの苦しげな息遣いが耳元で漏れ聞こえる。指を伝う血の感覚。ときたま吐き出される深い息がカルを焦らせた。明るくなった洞窟は、カルの胸を滑り落ちる汗に混ざる血の鮮やかな赤を照らす。その色は時間が経つほどにより濃く流れていく。
「コースト、、急ごう、、早く、しないと」
「あぁ、だが少し休もう。これ以上はお前の体がもたない」
「でもっ、」
「お前までくたばっちまったらどうしようもないだろう」
「っ、、、」
コーストは前方を遮るように袋を下ろしその上に腰を据える。何を言っても通してはくれないようだ。
渋々その場に動けないサリュを抱えるように座る。ぐったりと寄りかかるサリュがいつ冷たくなるかと不安でならない。いつの間にかサリュの汗はカルの服に赤いシミを作っていた。
「サリュ、しっかりしろよ。すぐに連れて帰って治してやるからな」
もうすぐ洞窟を抜けるはずだ。町まで戻れば宿で薬が手に入るだろう。もしなくてもどこからでも盗めばいい。サリュをすぐに楽にしてやらないと。
「、、もう行こう」
「大丈夫か?」
「あぁ、もう休憩はなしだ。町まで急ごう」
血がカルの服を赤く染め上げる頃、ようやくルシューランはその姿を現した。
「もう少しだ、頑張れ」
振り返ったコーストが手招きする。
だらだらと落ちる汗に服が貼り付いて気持ち悪い。人ひとりを運ぶには弱い足はどうにも動かなくなり、一歩が石のように重い。それでも止まってしまえば動けなくなるような恐怖に駆られ進み続ける。その足は着実にコーストの示した前へと進み、そしてやっとルシューランの門を潜った。
驚きの表情で駆け寄ってくるルビアナを最後に膝の力が抜け、落ちてゆく感覚と共にカルの視界は暗闇に包まれた。
「これなら帰りは楽勝だな。こいつが覚醒を止めてたんだろう。貯まってた光が一気に放出したんだなぁ」
コーストが塵となったキュウホンを見下ろした。跡形もなくなった黒い残骸は魔鉱石の強い光に照らされている。
「早く帰ろう」
町が心配だ。確か鶴嘴を持ってきたのはサリュだったな。
振り返るとそのサリュは先程にも増して顔を青くし、焦点をさ迷わせていた。
「サリュ? おい、どうしたサリュ、サリュ?」
「━━ふぇっ?」
顔はこちらを向くのにその視線はどこか遠くを見つめている。
ぐらりと体が揺れた。支えを失った人形のようにサリュの体が落ちていく。
「サリュ!」
何の抵抗もなく地面に打ち付けられ、光のない瞳が揺れる。
「おい、しっかりしろ! おい!」
急いで駆け寄り抱き起こすが反応がない。カルの方を向いた無気力な瞳を瞼が覆っていく。
「おい! サリュ!」
「どうした!」
異変に気づいたコーストもサリュのもとへと駆けつけた。
「サリュが、サリュの意識がないっ」
怪我をした腕は結んだ包帯をいつしか真っ赤に染め上げていた。
「サリュ! おい!」
「落ち着けっ!」
コーストがカルの腕からサリュを奪い取った。
「何すんだよ」
「いいから落ち着け。騒いでたってサリュは起きない」
「っ、」
「魔鉱石はどこだ、見つけたんだろう?」
「あっちだ」
岩の向こうを指差して見せる。
「でも早くしないとサリュが」
「わかってる。ちょっと持ってろ」
コーストはカルにサリュの腕を握らせる。
「出血が酷い。しっかり握ってろ」
そしてサリュの荷物の中からはみ出している鶴嘴を取り出す。岩の向こうに回り込み、コーストの姿が消えた。
「これだな」
その声の直後、振り上げられた鶴嘴の先が岩の上にのぞく。
パアァァン、パアァァン
固い岩の砕ける音が二発。岩の影から出てきたコーストは特大サイズの魔鉱石を抱えていた。十二、いや十二半はあるか。
「これだけでかければ十分だろう」
「あっ、あぁ」
それほどの大きさの、もはや岩とも呼べるものをコーストは容易く持ち上げている。
「嬢ちゃん、すまないがちょっと袋を開けてくれるか」
首で示されたコーストの袋をリファーナが拾い上げる。中身を外に出し、袋の口を最大まで開くとそれを魔鉱石の下に広げた。
「手を挟まないように気を付けろよ」
こくりと頷いたリファーナを見届け、ゆっくりと下ろされた魔鉱石が袋にすっぽりと収まる。
「さぁ、帰るぞ。カル、お前がサリュを運べ。さすがに片手じゃあ無理だ」
コーストが袋を担ぎ上げる。コーストの荷物をサリュの鞄に詰め込んだリファーナも立ち上がる。
「あぁ、わかってる」
血の溢れる腕を握ったままサリュの下に潜り込む。ぐったりと重くなった体を背中に負って立ち上がると、コーストは頷き先頭を歩き出した。
熱を帯びたサリュの苦しげな息遣いが耳元で漏れ聞こえる。指を伝う血の感覚。ときたま吐き出される深い息がカルを焦らせた。明るくなった洞窟は、カルの胸を滑り落ちる汗に混ざる血の鮮やかな赤を照らす。その色は時間が経つほどにより濃く流れていく。
「コースト、、急ごう、、早く、しないと」
「あぁ、だが少し休もう。これ以上はお前の体がもたない」
「でもっ、」
「お前までくたばっちまったらどうしようもないだろう」
「っ、、、」
コーストは前方を遮るように袋を下ろしその上に腰を据える。何を言っても通してはくれないようだ。
渋々その場に動けないサリュを抱えるように座る。ぐったりと寄りかかるサリュがいつ冷たくなるかと不安でならない。いつの間にかサリュの汗はカルの服に赤いシミを作っていた。
「サリュ、しっかりしろよ。すぐに連れて帰って治してやるからな」
もうすぐ洞窟を抜けるはずだ。町まで戻れば宿で薬が手に入るだろう。もしなくてもどこからでも盗めばいい。サリュをすぐに楽にしてやらないと。
「、、もう行こう」
「大丈夫か?」
「あぁ、もう休憩はなしだ。町まで急ごう」
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「もう少しだ、頑張れ」
振り返ったコーストが手招きする。
だらだらと落ちる汗に服が貼り付いて気持ち悪い。人ひとりを運ぶには弱い足はどうにも動かなくなり、一歩が石のように重い。それでも止まってしまえば動けなくなるような恐怖に駆られ進み続ける。その足は着実にコーストの示した前へと進み、そしてやっとルシューランの門を潜った。
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