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つぐとし と けい
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「…… にき、兄貴、寝てるとこ悪い。桂知らないか? 」
カウチが心地良すぎて一寿はまた眠ってしまっていたようだ。
「んぅ? つぐが玄関で待ってるからって、さっき……マジか!!?お前、なんでここにいる!」
まさか夜道を一人で出て行ったのか。
一気に覚醒した一寿が飛び起きて短パンの自分に、慌ててスラックを履こうとして転んでいる。そんな一寿を置いて、必死の形相の嗣寿が先に飛び出して行った。
玄関まで見送るべきだった。
兄心なんて変に気を回すんじゃなかったと、靴を履くのももどかしく、片手でスマホを操作する。
桂のスマホはコールはするが出る気配が無い。留守電になってしまったのを切って、再度掛け直す。また留守電。リダイヤル。コール音で嗣寿が気づくかもしれない。
桂はスマホをストラップで斜め掛けにしていた。両手が塞がっているとか、呼び出しに気づかないとかは考えづらい。
何があった。
嫌な予感に急かされるように、焦りだけが先走る。上手く履けない靴の踵をもう踏みつけながら、一寿も玄関から飛び出していた。
そして息を切らせた一寿が駆けつけた路地裏では、嗣寿が守るように桂に覆いかぶさり、その胸に深く抱き込んで蹲っている。
血の気が一気に引いて冷たい汗が吹き出した。
うずくまった嗣寿の見下ろす背の高い男のシルエット。
丁度街灯の明かりに逆光になって顔は見えないが、一寿には分かった。
あのαだ。
桂と出会ったあの日、ラットを起こして桂を追って来たα。威嚇されて動けなかったあの時の自分と今の嗣寿は同じ状態だ。
「火事だーっ!!助けて!火事です!!!」
そう気がついた一寿は、咄嗟に大声で叫びながら緊急通報のダイヤルをしていた。その声に、嗣寿を引き起こそうと腕を伸ばしていた男が怯む。防犯訓練で人を呼び出すには火事と叫べと教えられた経験を思い出し、一寿は叫び続けた。
「助けて!!誰か!!!110番して下さい!!火事だ!! 助けて!!」
一寿の切迫した叫び声に反応したように、傍らの玄関ポーチにぱっと明かりが灯る。それ光に照らされて、影に沈んでいた男の顔がハッキリと見える。
一寿は咄嗟にスマホのカメラを起動すると、男に向けて連写していた。
フラッシュに怯んだ男の姿に、一寿の声に応えて外に出て来てくれた住民達が、男と嗣寿達の様子を見て気色ばんだ。
「火事? 違う、痴漢か!? おい、あんた何してんだ? ちょっと待てっ!!」
誰か通報してくれ、と腕に自信のあるだろう住民の男性陣が追いかける。しかし相手はαだ、深追いすると逆に怪我をする羽目になるかもしれない。
「あの、弟達が襲われて! すみません助けて下さい!」
必死で叫ぶ一寿に、人命救助を優先かと戻ってきてくれた男達にお礼を言って、今になって震えて来た膝を押さえた一寿は、倒れるように二人の傍らにへたり込んだ。
大きな背中を丸めて、その腕の中にしっかりと桂を抱え込んだまま、嗣寿は気を失っていた。桂も意識が朦朧としているようで呼吸が荒い。また発熱しているのかもしれない。あのαに何もされていないといいが……。
桂の熱い手をすがる様に握り締めた一寿は、嗣寿の背中を何度もさする。大丈夫、大丈夫と自らに言い聞かせるように繰り返す一寿の頬には、いつしか涙が伝っていた。
救急隊の人の応急処置で桂はヒートを起こさずに済んだ。あのαは吸入タイプの促進剤を桂に嗅がせようとして、すんでの所で嗣寿が間に合ったらしい。
それでも少し吸い込んでしまい、動けなくなった桂を庇った嗣寿も、αの威嚇にやられてしまったのだそうだ。
霰屋さんちの子じゃないかと、気がついてくれたお得意さんが家に連絡を入れてくれて、駆けつけた姉が一寿と一緒に救急車に乗ってくれた。後から義兄が母と山中の奥様を連れて来てくれるように連絡もしてくれた。
二人とも検査入院で一晩泊まる事になった。取るものもとりあえず駆けつけた、といういつもの奥様とは全く違うラフな服装の、桂の祖母である山中の奥様に、桂を危ない目に合わせてしまったと一寿が深く頭をさげて謝った。土下座をしたい位の心境だったが、ここでは逆に迷惑になると、せめてもと精一杯腰を折る。
そんな一寿に奥様はかぶりを振って優しく一寿を起こした。
「違うわ、また護ってくれたのよ」
ありがとう。と青ざめ震える一寿を慰撫するようにそっと抱き寄せてくれた。
桂に似た柔らかい百合の香りに、一寿の涙腺がまた壊れる。一頻り泣かせてくれた奥様は「後の事は任せてちょうだい」ともう一度一寿を宥めるように柔らかく抱きしめると、振り返りながら帰って行った。
カウチが心地良すぎて一寿はまた眠ってしまっていたようだ。
「んぅ? つぐが玄関で待ってるからって、さっき……マジか!!?お前、なんでここにいる!」
まさか夜道を一人で出て行ったのか。
一気に覚醒した一寿が飛び起きて短パンの自分に、慌ててスラックを履こうとして転んでいる。そんな一寿を置いて、必死の形相の嗣寿が先に飛び出して行った。
玄関まで見送るべきだった。
兄心なんて変に気を回すんじゃなかったと、靴を履くのももどかしく、片手でスマホを操作する。
桂のスマホはコールはするが出る気配が無い。留守電になってしまったのを切って、再度掛け直す。また留守電。リダイヤル。コール音で嗣寿が気づくかもしれない。
桂はスマホをストラップで斜め掛けにしていた。両手が塞がっているとか、呼び出しに気づかないとかは考えづらい。
何があった。
嫌な予感に急かされるように、焦りだけが先走る。上手く履けない靴の踵をもう踏みつけながら、一寿も玄関から飛び出していた。
そして息を切らせた一寿が駆けつけた路地裏では、嗣寿が守るように桂に覆いかぶさり、その胸に深く抱き込んで蹲っている。
血の気が一気に引いて冷たい汗が吹き出した。
うずくまった嗣寿の見下ろす背の高い男のシルエット。
丁度街灯の明かりに逆光になって顔は見えないが、一寿には分かった。
あのαだ。
桂と出会ったあの日、ラットを起こして桂を追って来たα。威嚇されて動けなかったあの時の自分と今の嗣寿は同じ状態だ。
「火事だーっ!!助けて!火事です!!!」
そう気がついた一寿は、咄嗟に大声で叫びながら緊急通報のダイヤルをしていた。その声に、嗣寿を引き起こそうと腕を伸ばしていた男が怯む。防犯訓練で人を呼び出すには火事と叫べと教えられた経験を思い出し、一寿は叫び続けた。
「助けて!!誰か!!!110番して下さい!!火事だ!! 助けて!!」
一寿の切迫した叫び声に反応したように、傍らの玄関ポーチにぱっと明かりが灯る。それ光に照らされて、影に沈んでいた男の顔がハッキリと見える。
一寿は咄嗟にスマホのカメラを起動すると、男に向けて連写していた。
フラッシュに怯んだ男の姿に、一寿の声に応えて外に出て来てくれた住民達が、男と嗣寿達の様子を見て気色ばんだ。
「火事? 違う、痴漢か!? おい、あんた何してんだ? ちょっと待てっ!!」
誰か通報してくれ、と腕に自信のあるだろう住民の男性陣が追いかける。しかし相手はαだ、深追いすると逆に怪我をする羽目になるかもしれない。
「あの、弟達が襲われて! すみません助けて下さい!」
必死で叫ぶ一寿に、人命救助を優先かと戻ってきてくれた男達にお礼を言って、今になって震えて来た膝を押さえた一寿は、倒れるように二人の傍らにへたり込んだ。
大きな背中を丸めて、その腕の中にしっかりと桂を抱え込んだまま、嗣寿は気を失っていた。桂も意識が朦朧としているようで呼吸が荒い。また発熱しているのかもしれない。あのαに何もされていないといいが……。
桂の熱い手をすがる様に握り締めた一寿は、嗣寿の背中を何度もさする。大丈夫、大丈夫と自らに言い聞かせるように繰り返す一寿の頬には、いつしか涙が伝っていた。
救急隊の人の応急処置で桂はヒートを起こさずに済んだ。あのαは吸入タイプの促進剤を桂に嗅がせようとして、すんでの所で嗣寿が間に合ったらしい。
それでも少し吸い込んでしまい、動けなくなった桂を庇った嗣寿も、αの威嚇にやられてしまったのだそうだ。
霰屋さんちの子じゃないかと、気がついてくれたお得意さんが家に連絡を入れてくれて、駆けつけた姉が一寿と一緒に救急車に乗ってくれた。後から義兄が母と山中の奥様を連れて来てくれるように連絡もしてくれた。
二人とも検査入院で一晩泊まる事になった。取るものもとりあえず駆けつけた、といういつもの奥様とは全く違うラフな服装の、桂の祖母である山中の奥様に、桂を危ない目に合わせてしまったと一寿が深く頭をさげて謝った。土下座をしたい位の心境だったが、ここでは逆に迷惑になると、せめてもと精一杯腰を折る。
そんな一寿に奥様はかぶりを振って優しく一寿を起こした。
「違うわ、また護ってくれたのよ」
ありがとう。と青ざめ震える一寿を慰撫するようにそっと抱き寄せてくれた。
桂に似た柔らかい百合の香りに、一寿の涙腺がまた壊れる。一頻り泣かせてくれた奥様は「後の事は任せてちょうだい」ともう一度一寿を宥めるように柔らかく抱きしめると、振り返りながら帰って行った。
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