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第11章 過去と現在

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そしてついに迎えた約束の日…。



俺は支度を済ませて家を出る。



向かう足取りはとても重い。



結菜はなんて言うだろうか…。



でもきっと…



今が悲しくても、すぐに俺のことなんか忘れて、



また幸せを見つけられるだろう。



結菜は強いから。



ダメダメな俺をいつも引っ張ってくれて…。



いつもいつも結菜には押されてばっかりだったな。



大丈夫…。



結菜のことなら話をきいたら怒って俺をひっぱたいて、



[こっちから別れてやる!!]



って言ってすぐに俺のことなんか忘れちゃうだろう。


あの日以来あの山には行っていなかった。



忘れてしまっていたのもあるが、



覚えていても来ることはなかっただろう。



到着したのは夕方前。



あまり明るい時間だと人がいると思ったからだ。



周りの景色が少しずつ記憶を呼び戻していく。



あの日の会話、



結菜のしぐさ、



懐かしい記憶がつぎつぎに思い浮かぶ。



目には涙が滲む。



思い出しての涙かもしれない。



でもこれはきっと違う。



この涙が流れるのは…、



結菜のしぐさや会話は思い出せるのに、



結菜の顔と声だけは、



どうしても思い出せなかったからだ。


顔や声を残したものがないというのは、



こんなにも記憶を曖昧にしてしまうんだと実感した。



忘れてしまった自分が信じられない。



いや、結菜の面影を重ねて見ていた恵の存在が、



さらに結菜の記憶を薄くしてしまったのかもしれない。



…あたりがだんだんと暗くなってきた。



記憶を頼りに山道を進んでいく。



すると奥のほうがぼんやりと光っている。



人気のない山の中、



すぐにそこが約束の場所だとわかった。



俺は緊張と不安の中でゆっくりと近づいていく。


たどり着いた俺が目にしたのは見覚えのあるローブのようなものを被った男。



そいつの足元には人の形をしたようなものが光り輝いていた。



「…遅かったな。」



聞き覚えのある声。



そいつはゆっくりと被っていた布を脱いだ。



体は見えないが顔は山羊そのもの。



あの日見たときはそれどころじゃなかったが、



よくよく見ると不気味だ。



「どうだ?

3年たったわけだが、

あの時の想いは変わってないんだろう?

もちろん、心変わりしててもお前の寿命は戻りはしないがな。」



そいつはニヤリと笑いながらそう言った。


「あぁ。

わかってるさ。」



「そうか。

じゃぁ契約は成立だ。

女は時期に目覚める。

そしてこの女のことを周りの人間も思い出す。

ただ周りの人間にはこの女は3年間普通に生活していたと思っている。

あとはお前が本人に事情を説明するがいい。

…では、さらばだ。」



そう言い残すとそいつは姿を消した。


残された俺の前には光輝くものがある。


その光は徐々に消えていき、だんだんと目がなれてくる。


完全に光が消えた時、


そこには結菜が横たわっていた。


忘れていた結菜の顔。


よみがえった記憶のままの姿だった。


俺は結菜の隣りに座り込んで、


じっと結菜が目覚めるのを待っていた。


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