上 下
67 / 87
第11章 過去と現在

11-4

しおりを挟む
「…うん。

その契約っていうのが、

俺の寿命の半分を差し出す変わりに、

結菜を蘇らせてもらうっていう内容なんだ。

…でもすぐには無理で。

蘇らせるためには3年かかるって言われたんだ。」




この時、



うつ向いた恵の顔から涙がこぼれ落ちるのが見えた。



最近の俺の恵に対する不可解な態度もあってか、



恵なりになにかを感じ取っているんだろうか。




「…それで。

前に恵が言ってたパソコンのカレンダーにつけてた印、

あれが約束の日なんだ…。」


「………。」



しばらく続いた沈黙。



恵のすすり泣く声だけが部屋に響く。



恵は深呼吸をしてゆっくりと口を開いた。



「…それで?

別れたいの…?

嘘つくならもっとましな嘘ついてよ。

最近の歩は変だったし…

もう私のこと好きじゃないんでしょ…?」



やっぱり信じてはもらえないか。



「ちがうよ!

でもそう思われても仕方ない…。

信じられない話だけど本当なんだ。

でも…

このことを恵に打ち明けたのには理由があるんだ。


酷い考えだけど…、

正直初めは恵とも、結菜が蘇るまでには別れようと思ってたんだ…。

でも今まで恵と過ごしてきたことで、俺の考えかたは変わったんだ。

嘘じゃない。

今は結菜よりも恵のほうが大事なんだ…。

悪魔の契約には約束の日にまたこの場所に来いって言ってた。

だからその場所にいかなきゃいいと思った。

そうしたら結菜は蘇ることもないから…。

でも…

それはまた結菜を死なせてしまうような気がしてできないんだ…。

だから…

約束の日にはその場所に行かせてほしい。

でももちろんちゃんと説明して結菜とは別れて帰ってくるから…。

だから…。

今まで黙っててごめん。

でも必ず恵のもとに戻ってくるから…

待っていてくれないか…?」


「なにそれ…?

本気で言ってるの?

別れたいから嘘言ってるんじゃないの?

本気でその話を信じろっていうの?」




信じられないのも無理はない。



別れる口実に言っている嘘だと思っていた恵にとっては



待っていてくれというお願いは、理解が出来ないようだ。



「本当に本当なんだ。

俺は恵を失いたくない。

だから全部本当のことを話したんだ。」




……。




また沈黙。



恵は必死に悩んでいるようだ。




「あのさ…

じゃぁ、別れるわけじゃないんだよね…?」


「もちろん…。

恵がよければ…」



恵はそっと俺の手を握った。



「そんな話は信じられないけど…

歩が嘘ついてるとは思えないし…

よくわからないけど、

私だって歩とは別れたくないよ。

だから待ってる…。

なんだかわかんないけど、必ず戻ってきてね…?」




そう言うと恵はそっと俺の肩に寄り添った。



「…本当にありがとう。」



恵の優しい言葉と安堵感に涙が出た。



二人は互いの愛を確かめあうように寄り添っていた。



この先に待っている不安を拭いさるかのように。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

メシ炊き使用人女は、騎士に拾われ溺愛される

チカフジ ユキ
恋愛
 両親が死んだあと、村長の家に引き取られたシェリー。  その家の息子であるダンに、こんな田舎で一生を送るのは嫌だ、俺は才能があって絶対に成功するから、お前は一生俺についてこいと言われ、ほのかに恋心のあったシェリーは、告白されているのだと勘違いし、都会についてくる。    そして、今まで村長の家で働いて貯めてきた給金を使ってダンを養い、近所の人から内職を斡旋してもらい、小金を稼ぎ、ダンのために掃除洗濯料理と尽くした。  そのかいあってか、ダンは見事難関の準騎士として受かった。  その後も、シェリーに感謝することなく、ダンは仕事で忙しいとシェリーを顧みることがなかった。   それでも、都会に知り合いのいないシェリーはダンを信じて、支え続けたが、ある日ダンは美人な女性を連れて帰ってきた。  呆然とする中、ダンに家から追い出され、一人夜をさまよい悪漢に絡まれているところを、騎士ルーダスに助けられた。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした

絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。

処理中です...