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初夜③

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「は、はぁ……ぁ」
「ああ、少しは力抜けた?」

 恭弥くんの問いに返事をすることも出来ず、乱れてしまった呼吸をどうにかしようと小さく息を吸う。
 ようやくキスが終わったのだと、そう認識するよりも先に、恭弥くんの指がゆっくりと私の首筋をなぞる。

「脱がせるよ」
「……え、あ……」

 首から鎖骨へゆっくり肌を滑る指が、胸元のボタンの上で一度止まる。片手で留め具を外されると、胸の部分が少しだけ涼しくなった。

「へぇ、水色」

 下着の色を指されているのだと分かり、慌てて開かれた胸元を押さえようとした。しかしその右手は恭弥くんによって阻まれ、手首を掴まれたままベッドに縫い付けられてしまう。

「待って、あの、ほんとに……」
「ダメ」

 たった二文字の台詞に制されて、抵抗しようとした手を止めてしまった。
 ずるい、こんなの。
 私が拒めないんだって、分かってて恭弥くんはやっている。

「ん……」

 首筋に恭弥くんの顔が埋まり、直接肌に当たる息に背中がゾクゾクする。その間にも片手でボタンが外されていき、上半身は完全にはだけさせられた。
 身を隠すものが、もう下着しか残っていない。

「っは……」

 恭弥くんの手が脇腹に触れ、肌を撫でていた唇は胸元まで到達する。
 こんなに恥ずかしくていやらしいことを、みんな当たり前のようにしているのかと考えると眩暈がした。それとも、回数を重ねれば大したことがないと思えるようになるのだろうか。

「ふっ……、ん」
「はぁ、かわい」

 小さく落とされた声も、聞き逃すことなく私の耳に入る。
 こういう時にこういうことを言う人なんだと、意識したくないのに考えてしまった。
 恭弥くんらしくない。でも、ちゃんと恭弥くんの声だ。

「背中、少し浮かせて」

 いつの間にか背中に回された手がブラジャーのホックに引っ掛かる。恭弥くんが何をしようとしているのか分かって、それを大人しく受け入れた。
 空気に酔ってしまったように、うまく頭が回らない。
 ただ拒んではいけないのだと、それだけが私の脳に染み付いている。

 料理、洗濯、掃除。
 私の花嫁修行は基本的な家事から始まり、着付けや華道に茶道と、いつ披露する機会があるのか分からない芸事まで仕込まれている。
 しかしさすがに、閨での作法までを詳細に習うことはなかった。
 それなりの年頃になってから、そういう勉強もしておきなさいと遠回しに言われただけである。
 現代日本において、性的な話題を避けて通るのは難しい。ませている同級生の中には、小学生のうちからそういった知識がある子もいた。
 私だって、その環境の中で育ってきた子供である。
 わざわざ勉強などしなくとも、ネットを使えば簡単に性の情報は手に入った。
 成人指定とされているものでも、強烈な肌色は勝手に目に入ってきてしまうのだ。当然、漫画や動画を見たこともある。
 中学に上がったあたりからは当然のように、恋の話の延長として、友人とそういう話をすることもあった。
 好きあった男女が何をするか。セックスとはどういう行為か。
 私だって、そのくらいはちゃんと知っている。いつか私も恭弥くんと……なんて妄想をしてしまったこともあった。
 しかし所詮は、私の中にあるのはただの知識だけなのだ。
 恭弥くんを追いかけ続けた私に経験など一度もあるはずがなく、花嫁修行の中で詳細な手解きを受けることもなかった。
 実際に組み敷かれてみると怖いもので、誰にも見せたことのない場所を触られるのは恥ずかしい。
 ただ、子供を作るのは妻としての務めであるとか、そういう行為の際は夫側に身を任せて拒絶はするなとか、そんなことは何度も言い聞かされている。
 拒むことはできない。

「っん、ぁ……は」

 柔い双丘が恭弥くんの手によって形を変え、先端が口に含まれると背中にゾクゾクとしたものが駆ける。
 恭弥くんの黒い髪が肌に触れて少しだけくすぐったい。胸を触られているだけなのに変な気分になる。
 揉んで、摘まんで、舐める。言葉にしてしまえばたったそれだけなのに、どうしてこんなにも身体が反応するのだろう。
 鼻から抜けたような声が漏れるし、こんな声を恭弥くんに聞かれるているのかと思うと、それだけで恥ずかしい。
 こんなの、一生かけても慣れる気がしない。

「ふ……んっ、あ、……え?」
「……なに? まだダメ?」

 恭弥くんの左手が私の腰元に移動していて、下も脱がされそうになっているのだと気付いた。つい恭弥くんの手を掴んでしまい、私が止めてしまったせいで空気が一瞬ひりつく。
 脱がないと最後まで出来ないのは分かるし、拒んではいけないと理解もしている。
 それでも、恭弥くんはまだ一枚も脱いでいないのだ。そんな中で私だけが裸になるのは耐えられない。

「ごめ、でも……きょ、恭弥くんは脱がないの……?」

 脱いで欲しいとねだっているようだと、言ったあとに気がついた。
 私を見ながら驚いたように目を丸くした恭弥くんが、ふっと息を溢して微かに目を細める。

「ああ、うん、ごめん。触りたくて忘れてた」
「へ……」

 一番上のボタンを外し、裾から捲り上げて恭弥くんが服を脱ぐ。私とは全然違う、無駄な脂肪のついていない身体が惜しみなく晒され、ひゅっと上擦った声が出た。

「ねぇ、若菜からも触って」

 とんでもない表情で、とんでもないことを言う。
 息を呑んでいる間に手が取られ、そのまま恭弥くんのお腹へと持っていかれた。
 自身の手を追って、恭弥くんの下腹部に視線が落ちる。視界に入ってしまうともう無視は出来ない。
 恭弥くんが脱いだのは上だけで、まだ下は履かれている。それでも、不自然な形に布が引っ張られていることが何を意味するのかなんて、私にも簡単に分かった。

「っあ、の……」
「は、可愛い。やっぱり先に触りたい」
「あ……」

 今度は止めることが出来ず、ルームパンツに掛けられた手に簡単に衣服を奪われた。
 ショーツだけが残された現状に、今までとは比にならないほどの羞恥に襲われる。
 足を擦り寄せどうにか身体を隠そうとするが、こんなの何の意味もないだろう。
 恭弥くんの手が内腿に触れる。少し力を入れられるだけで、簡単に私の足は割り開かれた。

「うん、ちゃんと濡れてるね。もう少し慣らそうか」
「あ、や……っふ」

 下着の上から割れ目を指でなぞられ、足先にぎゅっと力を入れる。濡れて下着が張り付くと、どんどん形が透けてしまう。
 割れ目を往復していた指は次第に一点に移動し、形を主張し始めた芽を優しく引っ掻いて刺激する。
 その間にも、恭弥くんは何度もキスを落としてくれた。

「んぁ、あっ……ふ、きょうやく、うぁ……っん」
「気持ち良いね。どんどん溢れてくる」
「っふ、ゃ……あ、っ」

 ショーツをずらされ、隙間から入り込んだ指が直接陰核に触れる。口内を撫でる舌も気持ち良くて、お腹の奥が焦れったく疼いているのが分かった。
 怖い気持ちがなくなったわけではないのに、私は気持ち良くなってしまっているのだ。
 恭弥くんに言われると、嫌でも自覚してしまう。
 いやいやと首を振ってみても、身体の反応は素直なもので、濡れた音が自分の下腹部から聞こえる。
 強い痛みもないまま、指の一本がゆっくりと中に沈められた。

「あ、あっ……ぅ」
「うん、狭いけどちゃんと入るね。たくさん濡らしてくれていい子」

 額に優しく口付けられて絆されそうになる。こんなのがいい子であるわけがないのに、恭弥くんに言われると頷いてしまいそうだ。
 器用にも芽への刺激は続けられるが、その状態でもナカに入った指がゆっくりと動かされる。
 軽く曲げられて腹の内側を押され、無意識のうちに腰を揺らしてしまう。

「わかんな、けど……そこ、すごいっ」
「分かった。じゃあもう少しここ触ろうか」
「あ……っあぁ、っひ……やぁ、だめ、なんかくる……」

 腰を逃がそうと後ろに引いても、すぐに恭弥くんの指が戻ってくる。
 親指の腹で陰核を弄られ、入ったままの長い指が私の弱いところを内側から押した。
 唇を寄せられた耳元からは、恭弥くんの声や息を吐く音が直接脳に響く。
 だめだ、これ。おかしくなる。

「や……っは、ぁ……だめ、これだめ、っも、恭弥く……」
「はっ、そうだね。ナカすっごいびくびくしてる。イキそう?」
「やだっ、つづけるのやだ、ぅあ……っひ、ぁ……」

 ずっと丸めていた足先に力を入れることができなくなる。
 強い快感が下腹部に広がり、頭の中までを真っ白に染めていった。

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 初めて指を入れられてイッてしまったのだと、そう気付いた瞬間に指が抜かれる。目の前に恭弥くんがいるのに、だらしなく広げてしまった足を閉じることが出来ない。
 いつの間に二本に増やされていたのだろう。恭弥くんの中指と薬指が、ぬらぬらといやらしく濡れている。
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