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第11章 戦いの果てに

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 ティスコフが指揮する本隊は、試練の森に入った。先頭を行くオーク達は手にロングスォードを持ち、雄たけびを挙げながら我先にと試練の森に駈け出した。

 険しい岩肌をオークはいとも簡単に両手を使って登っていく。両側から伸びる木の枝には手にしたロングスォードを振り回して切り落とし進む。

 オークの隊は横5列に並んで進む。道幅が狭いという訳では無いが、入り口がそうさせたといっていいだろう。自然な流れの中でそうなった事が幸いした。

 試練の森が反応し始めた時、先頭のオークが立ち止った。不気味な動きを感じたのだろう。後方にいるオークが、前のオークを追い越そうにも横には広がっていけないので、5列の横並びはそのままだ。

「グワァァー」

 後ろのオークが叫ぶ。その声を聞いた前のオークが後ろを振り向くと、そこには敵となる人間の姿があった。

 前のオークが雄たけびを挙げる。すると、横に並んでいたオークも振り返ると、いつの間にか人間が目の前にいた。それはそのまま、戦闘状態に入るのが必然だった。前後のオーク同士が試練の森のまじないにより、人間の姿に見えた仲間を敵と勘違いし、同士討ちを始めたのだ。

 一番、後方で状況を見定めていたオークオグルが進軍が泊った事を気にして、前のオーク達の体をどかして進み始める。その間にも、オーク同士の争いは収まるどころか、戦場を広げるばかりだった。

 同士討ちで倒れるオーク。その後ろから雄たけびを挙げるオーク。その声に反応して後ろを振り向き、敵がそこにいると勘違いを起こし、戦いを挑むオークと、混乱は広がるばかり。

 そこにオークオグルが目の前での争いに、一声、咆哮する!

 しかし、それは火に油を注ぐようなものだった。

 オークオグルの咆哮は、前のオーク達にとってはドラゴンが来たように見えた。そこは一致団結したオーク。オークオグルに向かって剣を振り上げる。

 オークは一斉にオークオグルに向かって攻撃を始めた。それに対して、オークオグルも身の危険を感じたのか、すぐに防戦に入るも、オークの数が多すぎて太刀打ちが出来なかった。

 ドラゴンと勘違いされたオークオグルはその場で味方のオーク達の手に寄って切り刻まれ息絶えた。それを見つめるオーク達には赤い肌を持つ巨大なドラゴンが息絶えたと思い、勝利の雄たけびを挙げた。しかし、次の瞬間。周りが一気に明るくなった。それは、オークの嫌いな太陽の光が辺りを明るく照らし始めたのだ。

 オークは眩しい太陽の光に目がくらみ、目に入る日陰へと逃げ込もうと当りを探す。そこに、ひんやりとした空気が流れる洞窟を見つけた。

 洞窟を見つけたオークは一斉に我さきへと逃げ込もうと駈け出す。その洞窟の入り口には人間の女性の姿が見えた。そして、その隣には人間の若い男の姿も。

 オーク達には空腹感を感じさせる状況だ。しかも、ひんやりとジメジメしていそうなオークにとっては快適な暗闇の洞窟。中には旨そうな人間の男と、性欲を満たせる人間の女がいるのだ。

「グオォォォォォーーーー!」

「グワォォォォ」

 何かを発見した時の雄たけびがオーク達の口から発せられる。それはオーク達にとっては喜びの雄たけびだった。

 オーク達が駆け出す。それを見た人間達の姿が洞窟の奥へと逃げる。それを追い駆けるオーク。暗闇の中へ次々と入って行くオークの姿がどんどん消えて行った。後ろにいたオーク達も、前に入ったオーク達が良い思いをしているのが気に入らなくなったのと、眩しすぎる太陽の光に対して、逃げ込める場所がそこしかないとわかっていたので、我先にと洞窟へと逃げ込んだ。

 洞窟の中は暗く、ひんやりとした空気は気持ちよく、全身の力が抜けていくようだ。そして、急に無重力感を感じると、風が徐々に徐々に強くなっていく。その風が急に止んだと思った時には、オーク達の命は絶えていた。

 ティスコフはオーク達の声が徐々に聞こえなくなっていく気がした。最後の集団のオークが試練の森に入ろうとしたのを止めると、自分が先に試練の森に入って状況を確かめた。

 ティスコフの目には普通の森にしか見えていない。しかし、前を行くオーク達には違うように見えているようで、手をかざして何かを嫌い、その嫌った物から逃げるように左の崖へと走っていく。

「なんだ・・・?何がオーク達に起こっているんだ・・・」

 ティスコフがその状況を確認しようと、オーク達が逃げた先の崖を覗き込む。しかし、そこは木の枝が覆い茂った森である。その先に崖がある事はわかるが、木の枝が茂っており先が見えない。ここに飛び込んだオーク達の状況が理解できないのだ。

 ティスコフは前を向く。すると、岩肌の山道を一人の男がゆっくりと降りて来た。その男に「マスター・・・?」とティスコフが声を掛けた。

「ティスコフ・・・。ここなら、二人きりだ・・・。ようやく・・・、僕の本当の力を試せるよ・・・」

「なんだと?マスター、何か勘違いをしていないか?お前は何を試そうと言うんだ?本当の力?お前はただ、預言書にこの先の予言を書き、我々に不利な状況が発生すればすぐに書き換える。それがお前の能力だろう・・・。それ以上の、何を試すんだ?」

「その予言能力・・・。シナリオは、僕を主体に書いたらどうなるのかな・・・?つまり、君には今まで主人公になってもらったが、これからは僕が主人公さ」

「貴様が主人公?面白い・・・。貴様にこの、滅亡のしゅ・・・」

 この瞬間、ティスコフは何か違和感を感じた。

 その感じた違和感が何かはすぐに分かった。

「マスターよ。ワンズマンはどうした?なぜ、この森の先から現れた?お前にはワンズマンと一緒に、向こうから攻撃を仕掛けろと命じたはずだが・・・」

「それがどうした?」

「答えになっていない。ワンズマンはどうした?闇の騎士の男だ」

「闇の騎士の男、ワンズマンは向こうで頑張っているよ。僕の指示が無くてもね」

「向こうとは?」

「向こうだよ」

「答えになっていない。向こうとはどこの事だ」

「向こうだ」

 目の前に立つマスターの答えにある一つの疑問が沸いた。それはすぐに答えが見つかった。

「なるほど・・・。これが試練の森なのか・・・?オーク達のような低能がここを攻略する事は出来ないという事だ・・・。この私でさえ、森に騙されるところだった・・・」

 ティスコフはその場で何か考え始めた。

「どうした、ティスコフ。さては諦めたか?」

 煽るような言葉を発したマスターに向かって、ティスコフは「黙れ!偽物!偽りの幻覚のマスターを相手にするほど私は暇では無い!」と怒鳴ると、「これが試練の森だというなら、前を行くオーク達は試練に負けたという事だな・・・。全滅したか・・・。このまま先へ進んでも当初の計画通りにはいかない・・・。ここはひとまず、撤退するか」と呟くと、《リターン・ホーム》の呪文を唱え、試練の森から脱出した。

 試練の森への入り口に近い、干上がりの大河へと戻ったティスコフは、そこに傷だらけの男、ワンズマンとマスターが名前の通り、傷を負って戻っていた。

「マスター・・・か?ワンズマン!どうした?」

 ティスコフが声を掛けると、二人は村の入り口での戦況を報告した。

「村の入り口には上位の魔法剣士が待っていた。奴が立ち塞がったせいでオーク隊は全滅。トロルも全滅。残ったオーク共々、帰還の呪文を使って戻って来るので精一杯でした」

 その報告を聞いたティスコフは、苦虫を噛み潰したような表情で「敵を侮っていたわ・・・。ワンズマン!すぐにトロルオーガとオークオグル達を集めろ!集まり次第、再度攻撃を仕掛ける。オークオグル達は私と一緒に試練の森から。トロル共はお前たちが引き連れて、再度、村の入り口から攻めろ!次こそ、奴らを始末してやる」と凄まじい殺気を帯びた口調で命令した。
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