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第8章 謎の侵入者

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 ガンダルとツカサの二人は階段を下り続ける。ツカサの持つ杖から発する魔法の光が、二人の行く手を阻むかのように階段は岩壁によって行き止まりになった。

 ガンダルは岩壁の前に立つと、右手を岩壁に触れ、何か小さい声で呪文を唱え始めた。それほど長くない呪文に寄って、岩壁のあった場所が蜃気楼の如く壁は消えていき、新たに終わりの見えない広い空間が現れた。

 真っ暗な闇の中、真っすぐ伸びる道だけ確認できる。

 ツカサは広い空間の正体を確かめようと、杖の光を辺りに向けてみた。階段は岩壁の場所までで終わり、そこから緩やかな下り坂に変わっている。道は大きな石畳で出来ている。その表面は水で濡れていて、少し滑りやすくなっていた。気温も急に下がったようで、肌寒さを感じる。どこからか水が滴る音が聞こえる。

 ツカサは魔法の光の光量を最大にしてみる。そして、周辺に何があるか確かめてみた。

「これは・・・?」

 魔法の光が辺りを照らす。そこに映る景色は天井からつららのように垂れる白い石。その下にも上に向かって伸びる石や広がる石と様々。それは鍾乳石の数々が見られた。

「ここは、どこかの鍾乳洞?」

 ツカサの言葉にガンダルは答えず、ただひたすら前を見て先を急いでいる。ツカサもガンダルのその姿の後について先へ進む。

 少し滑りやすくも、歩きやすかった石畳が終わった。そこから先はさらに滑りやすい鍾乳石の道になる。

「ここから・・・?」と、ツカサが足元の心配をして呟くと、ガンダルは「気をつけろ」と一言だけ告げてさらに先へと進んだ。

 鍾乳洞の中を先に進む二人。二人の歩く足音と水の滴る音以外は聞こえず、静かな空間を進む。徐々に鍾乳洞の空間が狭まって来た。ツカサは杖の先に填めている魔法石の光量を落とした。その先に進んだ二人は、再び鍾乳洞の壁に行く手を塞がれた。

「ここが・・・、我らの目的の場所だ・・・」

 ガンダルがゆっくりと振り返る。その視線は後ろにいたツカサへ向けられたものではなく、さらにその後ろへと向けられた。

「ワシに気配を感じさせず、ここまで尾行して来たとは・・・」

 ガンダルの向いている視線の先へ、ツカサも視線を向ける。振り返ったツカサの視線に入ったのは、さっき一緒に村に入った、村の新しい農民だといったシナリオという名の男だった。

「シナリオ・・・、さん?」

「ツカサ・・・?知っておるのか?」

「さっき・・・、この村に新しく登記所に登録して農民として来たと言った・・・。なぜ、君が?」

 シナリオがゆっくりと近づいて来る。その後ろにさらに、もう一人別の姿が現れた。

「ようやく・・・、その姿を拝めることが出来た・・・。『生』の守護賢者・・・、ガンダル」

 その黒い人影はゆっくりと歩いて来る。周りの闇の染まるその姿に、ツカサは見覚えがあった。

「その姿・・・。さっき、この森に入った人影の人?」

「ティスコフ。ほぉら、やっぱり君の姿が見られていたんだ。僕のシナリオを通りに進めば、簡単に十二賢者の石を手に入れられたものを・・・」

「マスター・・・。これが私のシナリオだ。これで、ガンダルの石も渡してもらえる」とティスコフが笑いながらいう。

「ワシの石・・・?何の事じゃ。石とは」

「とぼけるのが上手だな・・・。貴様は偉大な12賢者の一人。《生》を司る守護賢者。かつての盟友、魔女サヤを失って悲しみに溺れていたのか・・・?そんな姿になって待っていても、魔女サヤは戻って来ないぞ」

 黒いローブを羽織った男が姿を現した。

「貴様がティスコフか・・・。闇の国ヘルトゥ・ルースを統一しようと頑張っているという・・・。狙いは、滅亡の石か?」

「滅亡の石・・・。そこまでわかっているとは、さすがは守護賢者ガンダル。ならば・・・」

 黒いローブを羽織った男、ティスコフがガンダルに近づいて来る。その顔は蒼白く目つきは鋭い。口元は余裕があるのか、不気味なニヤつきを見せる。

「ガンダル!」

 ツカサはその男、ティスコフに何か見えないプレッシャーを感じ、ガンダルの名前を叫んだ。

「逃げろ!ツカサ!」

 ガンダルもまた、今までに見せた事のないオーラを発した。

「本気の・・・、賢者の力を見せるか・・・。《生》なるチカラ・・・」

「本気になった賢者のチカラ・・・。ここから生きて帰れると思うなよ」

「おいおい・・・、ティスコフ。マジなのか?」

「マスター・・・。ココから離れろ。すぐにこの洞窟は崩れ落ちる。それほど、集中しないとただのこの幽霊には勝てない」

 ティスコフはローブのフードをまくり上げた。そして、その素顔を見せる。

「ガンダル!!」

 もう一度ツカサが叫ぶ。

 ガンダルはツカサの前に立つと、右手を背後に向けて振り払った。その直後、ツカサの後ろで何かが動く音が聞こえた。ツカサはその音に反応し、後ろを振り返った。鍾乳石の壁だった背後に新たな道が開かれた。

「ツカサ!その中に逃げろ。そして、中にある宝石の内、お前の名を呼ぶ宝石以外、全て破壊しろ!早く!行け!」

「ガンダル!」

「行け!ツカサ!ワシは死なぬ体。このために、死なぬ不死身の体を得たのだ!」

 ツカサはそのガンダルの言葉を聞いた瞬間、真実だと悟りガンダルの言った言葉を果たすために、後ろへ駈け出した。

「マスター!奴を追えるか?」

「シナリオを書き換えれば・・・。でも、奴が運命の・・・?」

「書き換えろ!私はその間、この偉大なる賢者の石を奪う!」

「出来るの・・・、かな?若僧・・・」

 シナリオは数歩下がると、暗闇の中に携帯の光で背中から一冊のノートを取り出し、何やら書き始めた。

『なんじゃ・・・、アイツの行動は・・・?』

 ガンダルは意識の半分をシナリオに向けた。その瞬間、ティスコフの魔法攻撃が始まった。

「《バムド!》」

 ガンダルがティスコフに向けた瞬間、ティスコフは呪文の詠唱を終え、爆発の最上級魔法を放った。

 ガンダルの周囲に空気の流れが集まっていく。その流れのほとんどは魔力なのだろう。しかし、ガンダルは微動だにせず、ジッとティスコフとシナリオを睨んでいた。

 激しい爆発が起こった。

 爆発の魔法の効果は間違いなく鍾乳洞にも影響を与えた。爆発の威力と爆風が鍾乳洞の天井やその周りを破壊する。その為、洞窟の天井が崩れ始めた。

「なにやってんだ!ティスコフ!まだ、書き換えてないぞ」

 そんな声が激しい埃の中響く。

 ガンダルはその声を耳にしながら、モウモウと立ち込める煙の中、そこにいるだろうティスコフをまだ睨んでいた。しかし、ティスコフは呪文を唱え終わった瞬間、その場所を離れ、ガンダルの背後に回っていた。

「賢者よ!そのゴーストの姿に慣れ、反応が鈍ったか!」

 ガンダルの背後に現れたティスコフが次の呪文を唱え始める。

「覚えておけ!魔法使いにとって、背後を取られるのは屈辱。だが、それに傲り、余裕を見せるなど愚者の行為!」

 ガンダルはすでに呪文の詠唱を終えていた。

「《デス・インテグレイド!》」

 ガンダルは振り返る事もせずに、ただ右手をツカサの為に動かしただけでなく、ティスコフが背後に回ると予測しての動きを見せていた。

 ガンダルの唱えた魔法がティスコフに襲う!

「《死の呪文》だと!」

 ティスコフは自分に向けられた呪文の効果を知って、咄嗟に次の呪文を唱えた。

 ガンダルの集中力は高く、ティスコフが死の呪文の効果を受ける前に詠唱を終わらせようとしている呪文を聞いて、後ろを振り返った。

「・・・!」

 ティスコフは死の呪文の効果を受けながらも、自らの呪文の詠唱を終わらせた。

「アハハハ・・・。わた・・・しが、死の呪文の・・・、反転呪文を・・・、知らないとでも・・・、思ったか・・・!」

 爆発の呪文により、崩れ落ちる鍾乳石と誇りの舞う中、ガンダルはティスコフの黒いローブ姿を見た。が、次の瞬間。その姿はツカサに変わった。

「・・・!ツカサを身代わりにしたのか!!」

 ガンダルは絶望ともとれる声で叫んだ。

 ガンダルの目の前で、ツカサは何が自分に起こったのか理解できなかった。ただ、ガンダルに言われた通り、中にあった幾つかの宝石を手にしたまま、ツカサの記憶と意識は真っ白な世界へと消えて行った。
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