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第4章 ロストアビー城の主

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 もう何十年、何百年とこの場所にひっそりと建っているであろう建物は、磨かれているとはいえ、巨大な石や煉瓦で造られている。その美しさには驚きの声を挙げる。

 屋敷の中は外見とは打って変わって様々な木材や大理石の柱、立派な家具が置かれ、見違えるほどに豪華な作りになっている。

「それでは、皆様には各自のお部屋を用意させていただいております。こちらへ」とゴトンが階段手前の箱からカギを取り出すと、「どうぞ」と階段を昇り始めた。

 階段は筒抜けの高い所に天井があり、そこから自然の光が取り込まれている。階段は十数段上ると左に向いてまた上る。

 二階に上がると、ゴトンは左手を挙げ「こちらはビジタールームになります。お客様をお迎えした際は、こちらをご利用していただいております。皆様は、こちらのプライベートルームをお使いください」と右手を挙げ、そのまま歩き出した。

「では、こちらの部屋を戦士、ロコ様モコ様のお部屋に」と金色の鍵を鍵穴に差し、ゆっくり静かに回す。扉が開き、ゴトンが通れるように端に避けると、ロコとモコはオドオドしながら部屋にはいる。入ってすぐに、驚嘆の声が挙がった。

「素敵!なに、この豪華なベッドは。まるで・・・、一流ホテルみたい」とモコ。

「すげぇ、良い眺めだ」

「それでは、ごゆっくり」とゴトンが声を掛けて、部屋のキーボックスに鍵をしまうと、静かに部屋の扉を閉めた。

 ロコモコの部屋から二つ離れた部屋をゴトンが鍵を差して開いた。

「こちらはうたさまの部屋です」と、右手を挙げ、体を避けながらうたを部屋に招きいれた。

「うわっ」とうたも嬉しそうな声を挙げる。

「どうぞ、ごっゆくり」と、扉を閉めようとした時、モコが部屋の扉を開けて出て来る。

「あのぉ・・・。私たちの着替えの服とかが部屋にあるんですが?」と不思議そうに質問してきた。

「あっ、これは失礼しました。街の宿屋には話をしてあります。あちらの契約は本日で終了し、皆様は今日からこちらがお住まいとなります。皆様、ゆっくりと着替えてくつろいでいただいてから、16時に主より今後の説明をさせていただきます。後ほど、皆様を担当するお世話係が顔合わせに来ますので、ご対応を宜しくお願いします」

「16時に・・・?お世話係・・・?」とうたが壁の時計を見て呟いた。

 ゴトンは最後にツカサの部屋を案内する。

 うたの部屋の隣りになるが、扉の造りと鍵の色が少し違うように感じた。

「こちらへ、ツカサ様」と扉を大きく開け、自分も避けて中へ通してくれた。

 ツカサが部屋に入ると、そこは16畳はありそうな広い部屋に、窓から少し離れた場所にダブルベッドが置かれ、ベッドには天幕もあった。

 ツカサが部屋の豪華さに驚いていると、ゴトンは「少し、お休みになられましたら、壁にありますベルを鳴らしてください。そうです。そちらです」と、ツカサが気を利かして壁のボタンを指さした。

「後ほど、すぐに担当の者がお迎えに参ります。担当の者はカフェイン。彼がツカサ様のお世話係になります。あとはカフェインからお話をお聞きください。では、失礼します」とゴトンは部屋を出て行った。

 改めて部屋の中を見て回る。部屋の入り口から入って右に鍵を置いておくキーボックスがある。その並びに扉があるので、ツカサは開けてみた。中は脱衣所となり、その手前にトイレ、奥に窓に向かってお風呂場がある。この風呂場は隣のうたの部屋との間になる。

 部屋に戻る。入り口を入って正面に大きな窓があり、外のテラスに出れるようだ。浴室がある壁側にダブルサイズのベッドがある。部屋を入って左側、ベッドの反対にクローゼットともう一つ、謎の扉がある。これには鍵が掛かっており、中に入る事が出来なくなっていた。

 ツカサは部屋の鍵を使って、試しに開けてみようとしたが、鍵は合わず開かなかった。

 とりあえず、ツカサは少し汚れたローブを脱ぎ、胸当てと鎖帷子を脱いで、ラフな格好になった。それから、気づいたかのようにシャワーを浴びる事にした。

 ここも電気が通っていないのに、不思議と温かい温水のシャワーがでた。

 少しシャワーを浴びて気持ちが緩んだ。と、ダブルベッドに思い切り横になってリラックスしようと思ったが、ゴトンに言われた事を思い出した。

 ツカサは立ち上がると壁のボタンを押した。鳴ったか鳴っていないかわからない。だから、そのお世話係のカフェインが向かっているのかわからないのが、とても気になる。

『ファミレスのように、音が鳴ればいいのに・・・』と、ちょっと愚痴ってみた。

 扉がノックされ、30代位の青年が一礼して入って来た。

「お呼びですか、ツカサ様」と青年は姿勢を正してそこに立った。

「あっ・・・、えっと・・・、カフェインさん?」

「はい、何でしょうか?」と、カフェインは手の指までまっすぐにズボンの縫い目に合わせている。

「いや、そんなに緊張されると・・・、いや、かしこまれると・・・」

「はい、申し訳ございません。ですが、旦那様のご希望で、姿勢正しく対応するようにと言われておりますので」と答えた。

「そう・・・。なら、何か話があるって聞いているんだけど・・・」

「はい。では、宜しいですか」と一歩前に踏み出て、姿勢を正して話し始めた。

「本日はお疲れさまでした。私はお世話をさせていただきますカフェインといいます。このロストアビ―の村に住んでいます」

「村に・・・?えっ、来るとき、村なんか無かったけど?」

「はい。旦那様の魔法でこのロストアビ―城と村は関係者以外には見えないようにされております。そちらのご説明は、旦那様が後ほど、皆様を集めてお話されます」

「後でね・・・」

「はい。ツカサ様。屋敷内での服装ですが、ご自由になされて結構です。クローゼットの中にも服はご用意してあります。もし、そのままで宜しければ・・・」と今のツカサの格好を上から下から目だけで見ている。そのカフェインの様子から、「今すぐに、クローゼットの中の服に着替えるよ」とツカサは、急いでクローゼットを開いて着替えた。

「恐れ入ります。そちらの服は洗濯しておきます」

「ありがとう」とツカサは礼を言いながら、オレンジ色のTシャツを脱いで、クリーム色のシャツにデニムのパンツを選んで履いた。不思議な事にサイズはぴったりと合っている。

「では、ご準備が整ったようですので、旦那様がお話があります。旦那様の書斎へご案内します」

 カフェインに案内され、ツカサは階段を降り、一階の玄関とは反対の扉へと案内された。目の前の扉をノックすると、中から「ありがとう」と声が聞こえた。

「どうぞ」とカフェインが横に避ける。

 ツカサが首を傾げながら、ドアノブに手を当てゆっくりと回す。扉を静かに開けると、中は丸く円筒形のような形をした部屋だ。壁にはびっしりと本棚になっていて、数え切れないほどの本が収まっている。

「良く、あの試練と迷宮をクリアしたな」と言いながら、本の陰から立ち上がった人影を見て、ツカサは『やっぱり・・・』と思った。

 部屋の真ん中に置かれた机の上にはたくさんの本が積み上げられている。巨大な石で造られた部屋の床にも、絨毯は敷かれているが、その上には無造作に本が置かれていた。

 その机の本の陰から顔を見せたのは、幽霊の老人だった。

「よく来た。ワシの弟子となる見習い魔法使い」

「やっぱり、あなたが大魔導士ガンダル様だったんですね」と、ツカサは机に近づきながら言うと、「やはりな・・・。君は気づいていたんだな」とさほど驚いていない様子だった。

「気づいたのは、迷路の時です。偉大な魔法使いでも、弟子になる人間をむやみやたらと追い返す事はしない。けど、試練と迷いを与えて僕らを試したいという遊び心はもっているだろう・・・。ってね」

「遊び心か・・・。ちょっと違うな。以前はワシの占い、預言、悩みの解決方法を聞きたがる村や街の住民が多くてな。毎日ひっきりなしにここへやって来た。ワシは自分の事もあるので、住民達への対応に追われ、ついには対応しきれなくなった。そこで、本当に悩んでいるのか?迷っているのか?真実の答えが欲しいのか?それらを試すために迷いの森と試練の森を作った。その者が望む、答えをそれぞれに含ませてな」

「答えを含ませる・・・・?」

「お前たちに与えた試練は、《恐怖》と《信念》と、最後に《希望》だ。それをお主は見事にクリアした。素晴らしかったぞ」

「ふっ・・・」とツカサは鼻で笑った。

「ふむ・・・。笑っていられるのも今の内だ。君はワシの魔法使いの弟子である。弟子なら弟子らしく・・・。あぁ、ちょっと水を飲ませてくれ」と言って、コップに入った水を一息で飲んだ。

「さて、弟子となるお前さんには、これから幾つかの魔法に関する試練を与えよう」

 幽霊の大魔導士ガンダルが、机と積み上げられた本を何もないかのようにすり抜けて来た。

 ツカサがよく見ると、ガンダルの姿はさすがに幽霊なのでぼんやりとしている。顔にはたくさんの深いしわがあり、口の周りには立派な白いひげが生えている。髪形はローブのフードを被っているのではっきりとはわからないが、ツカサと同じく頭はハゲているようだ。

 白いローブに少し薄汚れたシミが付いている。ローブの裾が長いお陰で、足元が見えていない。幽霊に足があると言っても他人は誤魔化せるかも知れない。

 それでも、体全体が薄ぼんやりとして見えてしまい、なおかつ、その体を通して後ろも透けて見えてしまっては、誤魔化す事は出来ないだろう。

「ちょっと、ついて来い」とガンダルが書斎の入り口とは別の扉を指さした。何か呪文のような言葉を呟くと、扉の鍵がカチャと外れる音がした。

 幽霊の手で開けられるのか不思議に感じながら、ガンダルが扉を開けて中に入って行く。中からツカサを呼ぶ声が聞こえた。

「はよ、来い」

「はい」

 ツカサが返事をして扉の部屋へと入る。そこは階段へと繋がる扉だった。ガンダルがゆっくりとした動作で右手を大きく広げるように振る。すると、階段の壁に備え付けられた蝋燭の灯りが、淡い光を放ちながら灯った。

「薄暗いから気をつけろよ」

 ガンダルは相変わらず、そよ風のように音もなく静かに浮いて行くような動きで階段を上っていく。

 ツカサもはぐれない様について行く。

 二階に上ると、光がこぼれる部屋についた。そこには、現実世界の小中学校にある理科実験室のような部屋に、あらゆる実験道具が置かれている。

 その数や部屋の広さにツカサは驚かせられた。
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