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第3章 迷いと試練の森
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一行の目の前に聳え立つ迷宮、《ガーデニングラビリンス》は、入り口は幾つかある。その一つに近づいたロコは少し中を覗いてから、首を引くと、他の入り口を覗こうと横へ歩き出した。
「何をしているの?」と、その奇妙な動きをするロコに、モコが声を掛けた。
「いやぁ・・・、だってさ。こう言うことは慎重にならないとさ」と、さっきまでのロコと少し様子が変だ。
「大丈夫ですか?」とうたが尋ねると、モコが微笑しながら、「ロコはね、迷路が苦手なの。アイツ一人で入ったら、二度と出て来れないよ」と後ろを振り向いていった。
「じゃあ、ヤバいじゃないですか!」とツカサが迷宮の入り口を指さして言った。
迷宮の前にいたロコの姿が、そこから消えてしまった。
「アイツ!目を離した隙に」と、モコが追い駆ける。
迷宮へ飛び込んだモコの姿を見て、うたが、「どうしますか?」と聞いてきた。
「行くしかないけど・・・。試練だからさ。でも、何か解決策があるはず・・・」とツカサは迷宮の垣根を見つめながら思案した。
ツカサは静かに垣根に近づく。そして、垣根に手を触れてみた。
「感触はあるけど・・・」と、どこか腑に落ちないことがあった。
「ねぇ、うたちゃん。幽霊って、やっぱり壁とかこういう垣根とかって、素通りできるのかな?」と質問した。
「どうしてそんなこと、今聞くんですか?」とうたが答えた。
「いや・・・。何だろう。何かさっき、あの幽霊がヒントをくれたような気がしてさ」とツカサが言うと、うたが、「ヒントですか?」と首を傾げて、さっきの幽霊が話した言葉を思い返しているようだ。
「これはさ・・・、試練であって、試練じゃないのかも」とツカサは言うと、つえを両手で持って、勢いよく垣根に突き刺した。
感触はあった。本物の垣根のような感触が。
「やっぱり・・・」とツカサが何かを悟ったようで、後ろを振り向いて、「うたちゃん、手」と言った。
「手?手ですか・・・」とうたが近づく。
「そう。手をつないで行くよ。絶対に何があっても話しちゃダメだよ。いいね!」と言ってから、「そうだ。念の為に体と体にロープを繋げておこう」と言うと、バックパックからロープの束を出し、何重にも束ねたロープを自分とうたの体に縛り付けた。
「心配だったら、目を瞑っていても良いけど、手は離さずついて来てね」
ツカサはそれだけ言うと、杖の尻を前に突き出して歩き出した。
「行くよ!」とツカサが声を掛けると、うたが小さい声で「はい・・・」と、ちょっと自信なさげな声で返事をした。それでも、ツカサは構わず歩き続ける。杖の尻を通して垣根の枝などの感触が伝わってくる。
ガサガサ・・・。
耳元でそんな音が聞こえ、顔の皮膚に枝や葉っぱの生臭い匂いを感じる。
その匂いや感触はここに垣根があり、これ以上は進めないという刺激を与えるのに十分な演出だった。
ツカサが垣根を突き破ろうとした瞬間、そこにあった垣根は一切の感触と匂いが消え、何も無い普通の道となった。
『成功した!』と直感を感じ取ったツカサは、囁くように「うたちゃん。付いて来ているかい?後ろを振り向くなよ」といった。後ろからうたが、「怖いけど・・・、ついて行ってます」と返事した。
ツカサの目には、次の垣根が迫ってきている。しかし、それも杖の尻から感触と生臭い匂いを感じた瞬間、全てが消えていくという演出で終わった。
ツカサは方向を変えることなく、ただ真っすぐに突き進むだけだった。
ただただ真っすぐ、屋敷の玄関の方へと進んで行くだけだった。
ガーデニングラビリンスの中央に辿り着いたのか?垣根は単なる背丈よりも高い枝と葉っぱだけの垣根だったが、今度の垣根は、《バラ》が相手だった。
バラの花びらに向けて杖の尻を向ける。花びらが一枚、綺麗に散っていく。その花びらの下には『綺麗な花には毒がある』ならぬ、トゲがあった。しかし、ツカサは恐怖という感情を微塵にも見せず、突き進んだ。バラのトゲが顔や手に突き刺さる。その痛みは本物に近い痛みだ。顔に刺さったトゲは、そのまま先端を皮膚に刺したまま後ろへと交錯していく。お陰で顔にトゲで出来たひっかき傷が出来てしまった。
しかし、顔を少しで過ぎ、体もトゲの餌食にされた瞬間、バラの垣根は目の前から消え、バラのトゲの痛みだけが体中に残った。
少し広い所に出た。そこはガーデニングの中央に当たるのか、大きな噴水が目の前に見える。噴水は高さは2mはある大きな物で、その先端からは水が勢いよく高く噴出されている。
噴水の周りには小さな池がある。ツカサが覗くと、池の水の中には色とりどりの金魚やコイ、フナ等いろいろな魚が泳いでいる。
「これも・・・、演出なのかな・・・?」とツカサが口から発した言葉を聞き逃さなかったのか、池の中の魚たちが一瞬にして、ツカサの苦手な蛇に姿を変えた。ツカサはその様子を立ち止って一瞬にして考察した。
『ここの噴水は本物なのかも知れない・・・。この噴水はガンダルのお気に入りと考えたら・・・。金魚やコイは大切な物。大切な物だからこそ、俺達から守るために姿を変えさせた・・・。なら、ここは話に乗ろうか』と頭で考えてから、うたの手を引きながら、「ちょっと、右に回って進むね。気を付けてね」と注意するよう伝えた。
少し大回りになりながら噴水を避けて歩いた。ツカサは何回か、噴水がどこまで本物なのか、姿形を変えられたコイや金魚は本当に蛇に変えられたのか?そんな少し意地悪な考えを持ちながら歩いた。
ちょうど半周を回ったところで、ふたたび垣根の中を進むことにした。今度は気持ちの上では最悪と感じ取っているバラの垣根が容赦なく目の前に聳え立つ。
「また・・・、バラの花の垣根です・・・」と幻滅した表情と声でうたに伝えると、うたも「そうですね・・・。でも、ツカサさんを信じます」と励ましになる言葉を返してくれた。
二人はツカサを先頭にバラの垣根に入った。さっきと同じように杖の尻がバラの花びらを一枚、二枚と散らしていく。その瞬間、バラの花の甘い香りが嗅覚を刺激する。で、次の瞬間バラのトゲが顔や手に突き刺さり痛みを感じる。と、すぐに痛みという感覚の刺激を残したままバラの花の垣根の演出が消えていく。
そのまま真っすぐツカサとうたは歩いた。再び、今度は二人の背丈以上の高さがある枝と若い葉っぱの木々の垣根が現れた。
さっきと同じく、枝に杖が当たるとガサガサと音を立てながらちょっと上下させる事で枝が折れる音がした。そして、若葉の生臭い匂い。これは葉っぱと葉っぱ同士がこすれる匂いなんだと、最後の最後でツカサは気づかされた。
木々の垣根を通り抜けたツカサ。ついで、うたも垣根を超えて出て来た。そんな二人の目の前に広がるのは、ガーデニングラビリンスに入る前、岩肌の試練の森の出口前だった。
「そんな・・・」とうたが失望の声を挙げた。
「なぜ…、何故だ」とツカサも思わぬ結果を出してしまったことに、うたに対して申し訳無い事をしてしまったと膝を落とした。
ふと、その瞬間、ツカサの目に飛び込んで来た物に衝撃を受けた。
ツカサは地面に手を当てると、静かに左右にゆっくりと動かす。そして、指を立て、それをなぞったのだ。
「うたちゃん・・・。立って」
そう言ったツカサはすぐに立ち上がると、目の前の森に視線を向けた。
「うたちゃん。もう一度手を・・・」とうたに手を差し出す。
「絶対に手を離しちゃダメだよ」と後ろを振り返り、ツカサはおっさんに似合わない素敵な笑顔を見せると、「行くよ」と一声かけて試練の森へと足を踏み入れた。
森の木々たちがトンネルを造る。さっきまでの岩肌の岩がメキメキと大きくなってくる。
「なんで?何でこの岩たちは、さっきよりも・・・」とうたは言葉を失ったようだ。それでも、ツカサは迷わず、構わず前へと進んで行った。
すると、急に眩しい光と共にツカサとうたの目の前から森のトンネルも険しい岩肌も突然消えた。
「抜けた!」とツカサが声を挙げる。そして、自分の後ろに手を繋いだままのうたを見ると、「うたちゃん、俺たちは試練と迷いの森を抜けたよ」とねぎらいの言葉を掛けた。
「森を抜けた・・・?本当ですか?」と、まだ確信が持てないうたは、周りをキョロキョロするばかりだ。
「ようこそ、ロストアビーへ。私はこのお屋敷の執事をしております、ゴトンです。ささっ、旦那様がお待ちかねです。中へ、お入りください」と綺麗なワイシャツに燕尾服を綺麗に着こなしている、小太りの60過ぎに見える男性が、目の前に立っていた。
「あなたが・・・。ココの執事・・・?」とツカサがうたと喜びのハグをしようとしたタイミングで声を掛けられたので、ツカサもうたも一瞬、タイミングを失ったことで恥ずかしさが滲み出た。
静かに二人は離れようと距離を取ろうとしたが、体を縛っていたロープによて、距離を取れない事を思い出させられた。急いで、ロープを解き、身なりをきちんと整えると、『はい』と言わんばかりに二人はキョウツケの姿勢を取った。
「では・・・」と、不思議そうな顔でずっと見つめていたゴトンが、玄関へ向けて手を向けた。
「あっ、ちょっと待って。まだ、ロコさんとモコさんが」とうたが気づいて言うと、ツカサも「そうだ。まだ仲間があの迷路に・・・」と後ろを指さした。
「あぁ・・・。そうでした。それでは」とゴトンが右手を挙げ指をパチンと鳴らすと、それまで森や迷路があった場所が、元の噴水がある立派な庭の光景に戻った。
その噴水の向こう側に着かれて座り込むロコとモコの姿が見えた。
「ロコさん!モコさん!」
うたが二人を見つけて大きく手を振った。それに応えるように、ロコが右手を軽く上に挙げ反応した。
よろよろと立ち上がる二人を見るツカサとうた。そこへふらつきながら手と肩を貸し合いながら歩いて来る二人。
ようやく、ツカサたちの所へ来たロコモコは疲れた声で、「なんで、あなた達が先にここにいるの・・・?ひょっとして、あなた達のお陰で、あの迷路から脱出出来たの?」と聞いてきた。
「まっ、そうですね」とツカサが答えると、「宜しいですか?」とゴトンが4人に声を掛け、玄関へと案内してくれた。
「何をしているの?」と、その奇妙な動きをするロコに、モコが声を掛けた。
「いやぁ・・・、だってさ。こう言うことは慎重にならないとさ」と、さっきまでのロコと少し様子が変だ。
「大丈夫ですか?」とうたが尋ねると、モコが微笑しながら、「ロコはね、迷路が苦手なの。アイツ一人で入ったら、二度と出て来れないよ」と後ろを振り向いていった。
「じゃあ、ヤバいじゃないですか!」とツカサが迷宮の入り口を指さして言った。
迷宮の前にいたロコの姿が、そこから消えてしまった。
「アイツ!目を離した隙に」と、モコが追い駆ける。
迷宮へ飛び込んだモコの姿を見て、うたが、「どうしますか?」と聞いてきた。
「行くしかないけど・・・。試練だからさ。でも、何か解決策があるはず・・・」とツカサは迷宮の垣根を見つめながら思案した。
ツカサは静かに垣根に近づく。そして、垣根に手を触れてみた。
「感触はあるけど・・・」と、どこか腑に落ちないことがあった。
「ねぇ、うたちゃん。幽霊って、やっぱり壁とかこういう垣根とかって、素通りできるのかな?」と質問した。
「どうしてそんなこと、今聞くんですか?」とうたが答えた。
「いや・・・。何だろう。何かさっき、あの幽霊がヒントをくれたような気がしてさ」とツカサが言うと、うたが、「ヒントですか?」と首を傾げて、さっきの幽霊が話した言葉を思い返しているようだ。
「これはさ・・・、試練であって、試練じゃないのかも」とツカサは言うと、つえを両手で持って、勢いよく垣根に突き刺した。
感触はあった。本物の垣根のような感触が。
「やっぱり・・・」とツカサが何かを悟ったようで、後ろを振り向いて、「うたちゃん、手」と言った。
「手?手ですか・・・」とうたが近づく。
「そう。手をつないで行くよ。絶対に何があっても話しちゃダメだよ。いいね!」と言ってから、「そうだ。念の為に体と体にロープを繋げておこう」と言うと、バックパックからロープの束を出し、何重にも束ねたロープを自分とうたの体に縛り付けた。
「心配だったら、目を瞑っていても良いけど、手は離さずついて来てね」
ツカサはそれだけ言うと、杖の尻を前に突き出して歩き出した。
「行くよ!」とツカサが声を掛けると、うたが小さい声で「はい・・・」と、ちょっと自信なさげな声で返事をした。それでも、ツカサは構わず歩き続ける。杖の尻を通して垣根の枝などの感触が伝わってくる。
ガサガサ・・・。
耳元でそんな音が聞こえ、顔の皮膚に枝や葉っぱの生臭い匂いを感じる。
その匂いや感触はここに垣根があり、これ以上は進めないという刺激を与えるのに十分な演出だった。
ツカサが垣根を突き破ろうとした瞬間、そこにあった垣根は一切の感触と匂いが消え、何も無い普通の道となった。
『成功した!』と直感を感じ取ったツカサは、囁くように「うたちゃん。付いて来ているかい?後ろを振り向くなよ」といった。後ろからうたが、「怖いけど・・・、ついて行ってます」と返事した。
ツカサの目には、次の垣根が迫ってきている。しかし、それも杖の尻から感触と生臭い匂いを感じた瞬間、全てが消えていくという演出で終わった。
ツカサは方向を変えることなく、ただ真っすぐに突き進むだけだった。
ただただ真っすぐ、屋敷の玄関の方へと進んで行くだけだった。
ガーデニングラビリンスの中央に辿り着いたのか?垣根は単なる背丈よりも高い枝と葉っぱだけの垣根だったが、今度の垣根は、《バラ》が相手だった。
バラの花びらに向けて杖の尻を向ける。花びらが一枚、綺麗に散っていく。その花びらの下には『綺麗な花には毒がある』ならぬ、トゲがあった。しかし、ツカサは恐怖という感情を微塵にも見せず、突き進んだ。バラのトゲが顔や手に突き刺さる。その痛みは本物に近い痛みだ。顔に刺さったトゲは、そのまま先端を皮膚に刺したまま後ろへと交錯していく。お陰で顔にトゲで出来たひっかき傷が出来てしまった。
しかし、顔を少しで過ぎ、体もトゲの餌食にされた瞬間、バラの垣根は目の前から消え、バラのトゲの痛みだけが体中に残った。
少し広い所に出た。そこはガーデニングの中央に当たるのか、大きな噴水が目の前に見える。噴水は高さは2mはある大きな物で、その先端からは水が勢いよく高く噴出されている。
噴水の周りには小さな池がある。ツカサが覗くと、池の水の中には色とりどりの金魚やコイ、フナ等いろいろな魚が泳いでいる。
「これも・・・、演出なのかな・・・?」とツカサが口から発した言葉を聞き逃さなかったのか、池の中の魚たちが一瞬にして、ツカサの苦手な蛇に姿を変えた。ツカサはその様子を立ち止って一瞬にして考察した。
『ここの噴水は本物なのかも知れない・・・。この噴水はガンダルのお気に入りと考えたら・・・。金魚やコイは大切な物。大切な物だからこそ、俺達から守るために姿を変えさせた・・・。なら、ここは話に乗ろうか』と頭で考えてから、うたの手を引きながら、「ちょっと、右に回って進むね。気を付けてね」と注意するよう伝えた。
少し大回りになりながら噴水を避けて歩いた。ツカサは何回か、噴水がどこまで本物なのか、姿形を変えられたコイや金魚は本当に蛇に変えられたのか?そんな少し意地悪な考えを持ちながら歩いた。
ちょうど半周を回ったところで、ふたたび垣根の中を進むことにした。今度は気持ちの上では最悪と感じ取っているバラの垣根が容赦なく目の前に聳え立つ。
「また・・・、バラの花の垣根です・・・」と幻滅した表情と声でうたに伝えると、うたも「そうですね・・・。でも、ツカサさんを信じます」と励ましになる言葉を返してくれた。
二人はツカサを先頭にバラの垣根に入った。さっきと同じように杖の尻がバラの花びらを一枚、二枚と散らしていく。その瞬間、バラの花の甘い香りが嗅覚を刺激する。で、次の瞬間バラのトゲが顔や手に突き刺さり痛みを感じる。と、すぐに痛みという感覚の刺激を残したままバラの花の垣根の演出が消えていく。
そのまま真っすぐツカサとうたは歩いた。再び、今度は二人の背丈以上の高さがある枝と若い葉っぱの木々の垣根が現れた。
さっきと同じく、枝に杖が当たるとガサガサと音を立てながらちょっと上下させる事で枝が折れる音がした。そして、若葉の生臭い匂い。これは葉っぱと葉っぱ同士がこすれる匂いなんだと、最後の最後でツカサは気づかされた。
木々の垣根を通り抜けたツカサ。ついで、うたも垣根を超えて出て来た。そんな二人の目の前に広がるのは、ガーデニングラビリンスに入る前、岩肌の試練の森の出口前だった。
「そんな・・・」とうたが失望の声を挙げた。
「なぜ…、何故だ」とツカサも思わぬ結果を出してしまったことに、うたに対して申し訳無い事をしてしまったと膝を落とした。
ふと、その瞬間、ツカサの目に飛び込んで来た物に衝撃を受けた。
ツカサは地面に手を当てると、静かに左右にゆっくりと動かす。そして、指を立て、それをなぞったのだ。
「うたちゃん・・・。立って」
そう言ったツカサはすぐに立ち上がると、目の前の森に視線を向けた。
「うたちゃん。もう一度手を・・・」とうたに手を差し出す。
「絶対に手を離しちゃダメだよ」と後ろを振り返り、ツカサはおっさんに似合わない素敵な笑顔を見せると、「行くよ」と一声かけて試練の森へと足を踏み入れた。
森の木々たちがトンネルを造る。さっきまでの岩肌の岩がメキメキと大きくなってくる。
「なんで?何でこの岩たちは、さっきよりも・・・」とうたは言葉を失ったようだ。それでも、ツカサは迷わず、構わず前へと進んで行った。
すると、急に眩しい光と共にツカサとうたの目の前から森のトンネルも険しい岩肌も突然消えた。
「抜けた!」とツカサが声を挙げる。そして、自分の後ろに手を繋いだままのうたを見ると、「うたちゃん、俺たちは試練と迷いの森を抜けたよ」とねぎらいの言葉を掛けた。
「森を抜けた・・・?本当ですか?」と、まだ確信が持てないうたは、周りをキョロキョロするばかりだ。
「ようこそ、ロストアビーへ。私はこのお屋敷の執事をしております、ゴトンです。ささっ、旦那様がお待ちかねです。中へ、お入りください」と綺麗なワイシャツに燕尾服を綺麗に着こなしている、小太りの60過ぎに見える男性が、目の前に立っていた。
「あなたが・・・。ココの執事・・・?」とツカサがうたと喜びのハグをしようとしたタイミングで声を掛けられたので、ツカサもうたも一瞬、タイミングを失ったことで恥ずかしさが滲み出た。
静かに二人は離れようと距離を取ろうとしたが、体を縛っていたロープによて、距離を取れない事を思い出させられた。急いで、ロープを解き、身なりをきちんと整えると、『はい』と言わんばかりに二人はキョウツケの姿勢を取った。
「では・・・」と、不思議そうな顔でずっと見つめていたゴトンが、玄関へ向けて手を向けた。
「あっ、ちょっと待って。まだ、ロコさんとモコさんが」とうたが気づいて言うと、ツカサも「そうだ。まだ仲間があの迷路に・・・」と後ろを指さした。
「あぁ・・・。そうでした。それでは」とゴトンが右手を挙げ指をパチンと鳴らすと、それまで森や迷路があった場所が、元の噴水がある立派な庭の光景に戻った。
その噴水の向こう側に着かれて座り込むロコとモコの姿が見えた。
「ロコさん!モコさん!」
うたが二人を見つけて大きく手を振った。それに応えるように、ロコが右手を軽く上に挙げ反応した。
よろよろと立ち上がる二人を見るツカサとうた。そこへふらつきながら手と肩を貸し合いながら歩いて来る二人。
ようやく、ツカサたちの所へ来たロコモコは疲れた声で、「なんで、あなた達が先にここにいるの・・・?ひょっとして、あなた達のお陰で、あの迷路から脱出出来たの?」と聞いてきた。
「まっ、そうですね」とツカサが答えると、「宜しいですか?」とゴトンが4人に声を掛け、玄関へと案内してくれた。
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