ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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参章・昇りし太陽編

3-8 65 奏恵視点 兎

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いつからか…私が可怪しい。

時々…殺意というものが湧いて出て来て止まらない。

何かに怒っている……

ううん、あり得ない。

だって…皆優しくて、良い人達だもん。そんな事きっと無い。

貪って、壊して、殺したい。この感情が怖い。

怖い…とても……怖い…!

誰が私をそうしたのか。

この感情を何度も隠して、1ヶ月程経った。

我慢が徐々に出来なくなってきている。

「フー…!フーーー………!何で…………………!何に…こんなにも飢えているの…」

苦しい。

血に飢えたこの感情は明らかに異常だ。

最初は洗脳されたかと思ったが、洗脳されていたらその思考洗脳されているかもしれないとはならない。

だから、その選択肢は有り得ない。

でもこれは自分じゃない…!

理性の効かない殺意は自分には無い筈。

何故?

何故こんなにも苦しいの?

理由がもしかしたら忘れているのかもしれない。

思い出した方がいいんじゃないか。

そうしたら理由が、原因が分かる。

そうすれば対処出来る。



……

…本当に?

思い出したらこの殺意が増幅してしまうんじゃ?

私は無能力者。

能力者が何とかして止めてくれる。

「……私は……………殺したいんじゃない……………!」

誰かを助けたい。

それを否定する人を否定してやる。

鏡に映る自分を睨む。

「貴女は私じゃない………!!!私の………優しさを…正義を…返してよ……………!」

このままでは壊れてしまう。

誰か………助けて………………………苦しいの…






「ねぇ…奏恵。この団体戦が終わって資格を取ったら…先輩達喜んでくれるかな?」

智花が不安そうに言う。

「喜ばない先輩はいないよ。此処には。」

私は智花の不安を晴らすように明るい声で励ました。

「………」

「如何したの鶴?」

光が鶴を不安そうに見つめている。

「…………皆…………私の事…怒ってないかな………………って。」

「何で?」

「……………私…嘘付いたから…………隠したから……………」

「暗殺者だって事?」

「うん…………だって………………この能力を持ってる人って……………」

「人殺し…………だっけ?………関係無いよ。そんな偏見如何でも良い。」

光が強く言う。

「そうだよ。ここに居る皆…先輩達も含めて誰も怒ってないよ。」

私も心の中の言葉を言う。

「暗殺者持ちならそう思う。隠す行動を取る。………その決めつけでそういう行動を取るのは仕方無いと思う。…鶴は鶴で…それ以上も以下も無い。」

「それだけだって~キニシナイ、キニシナイ!」

光が鶴の両肩を叩く。

「寧ろ私達は…本当の事を言ってくれて嬉しいの。」

私の本音だ。不安な鶴には心の底からの言葉が必要だ。

「…………本当に…?」

「当たり前。誰も鶴を責めないよ。」

「………………………ありがと………………」

鶴はあまり見ない微笑みを浮かべた。







「え…?」

鶴って誰?智花って誰?光って誰?先輩達って誰の事?

このまま思い出したら…?全て分かると思う。

この殺意も。

無能力者である自分を否定している理由も。

誰かを守りたい、助けたい、救いたい。

この気持ちが嘘偽り無い真実だという事も。

でも………このまま思い出していいの?

恐ろしい未来に変わり果てるんじゃないの?

どうしよう…………

何で………………こんなに胸が苦しいの……!!

思い出したい。

思い出さなければ後悔する気がするから。

思い出したくない。

思い出したら後悔する気がするから。

どうしたら…!どうしたらいいの!



「死ぬか生きるか、奏恵はどっち取る?」

「なんでそんな質問をするの?勿論生きる方だよ。」

「だったら、した事に後悔するのか、しなかった事に後悔するのか…どっち取る?」

「う~ん…………………」

「良い?奏恵。死ぬ選択肢以外は全部、行動して後悔しな。…どの選択を取ってもどうせ後悔はするんだ。…だったら…スッキリして痛い目にあった方がマシだ。」




お姉ちゃんとの会話を思い出す。

昔から荒っぽくて、今も女ながら不良のトップに君臨してるらしい。

しかし、絶対に非合法な事はしない。

そして、殆ど暴力沙汰が無いらしい。

彼女の武器は圧だ。そして話し上手、聞き上手。

至る不良の弱味を握りまくった結果、トップになったらしい。

数回、お姉ちゃんとその取り巻き(?)に会ったことあるけど皆、ぶっきらぼうだけど優しかった。

…兎に角、死ぬ以外は全部して後悔を取るのが良いらしい。

…しないで後悔の方が良い気がしてきた。

だって…誰かが死ぬかもしれないじゃない。

私が死ぬ場合と、別の誰かが死ぬ場合。何方も予想がついてしまう。

…………怖い。




「じゃあ、お姉ちゃんはしないで後悔した事あるの?」

「無い。」

「じゃあ、死にかけた事も無いの?」

「ある。」

「その時はどっちを取って後悔したの?」

「後悔はしてないさ。…守りたかったからしたんだ。味方が、友達ダチが傷付いて、見て見ぬふり何で反吐が出る位嫌だった。だから、命まで張ってそいつ等を守りに行ったんだ。」

「へー!格好良い!」

「奏恵が言うほど格好良くないよ。助けに入ってくれた仲間が居なかったら危なかったからな!アッハッハ!」

「ううん!格好良いよ!だって、助けに来てくれる仲間がお姉ちゃんに居るんでしょ!それでちゃんと守れたんでしょ?それってとっても格好良い!」

「そうか?照れるな。」





なーんだ。そう言えばお姉ちゃんはそんな事言っていた。

誰かを守る為に…私だって命は張れる。

そんな気持ちにさせたのは、まだ知らないあの三人だろうから。

助けなきゃ。思い出して何かを救いに行かなきゃ。







存在しない筈の…ある人の姿が見えて、私達三人は追いかけた。

「大地の涙達が、あーだこーだやっている間に復活した可能性があるかもしれないじゃん?」

「そうだけど…!」

「取り敢えず、本当かどうかは見つけないと…!」

「そうだね。」

すると、急に智花が叫ぶ。

「止まって!」

「え、急に何を………って…」

「何これ…?……まさか…!」

「多分、モンスターだ…!」

私達は直ぐに構えた。

「智花、何体いる?」

「今のところこいつだけ。」

モンスターは襲ってきた。

初めて戦うモンスターだけど、倒さないと街に放ってしまう。

拘束バインド(中)…」

光はモンスターを拘束すると、モンスターの口から火の玉が放出した。

こんな事がモンスターには出来てしまうのかって思ってびっくりしたけど…

だからといって何も出来ない私じゃない。

「唐傘(中)!智花!」

私は火の玉を防いだ。

「オッケー!隼(中)」

智花がとどめを刺した。私達ながら良い連携プレーだった。

でもそれどころじゃない。

「何でこんなモンスターが……?」

「勝てたから良かったけど……………」

すると…見た事のある人が出てきた。絶対に私達は知っている。

でも………本当に居るなんて…夢じゃないなんて…

「皆強くなったんだね。流石、皆だね。」

「え……………!?」

目の前に居たのはやはり夏希先輩だった。

「先輩………!?」

流石に光も驚いている。

ここで驚かない方が可笑しいか。

「…帰って来たよ。…でも………そんな驚きに浸っている場合じゃないの。」

そして、今までの経緯を聞いた。

そして私達は直ぐに決めた。

資格は既に獲得し、貰っていた。

だから…残り10組との戦いを全て放棄して、先輩達と鶴と!&#君を助ける事にした。

急いで外の世界に行って、沢山戦って、白い建物が嘘のように早く見つかって…

急いで中に入って走り回って、巨大なモンスターを倒した。

建物から出たら、その建物は消えてて…いつの間にか一週間が過ぎてたらしくて。

そしたら…恐ろしい…何かが来た。

それでも皆で戦って…誰も死なずにアレを倒した。


倒したから…………死んだと思った。

倒したかどうか確認してしまった。

待ってましたとばかりに私の心臓を貫いた。

急いで9割回復した。即死にはならなかった。

…結果的にそれが皆を殺す事になった。

瘴気によって私は意識を失った。ほぼ殺された状態に近い。

治癒された身体は完全体に近い状態でモンスターになって…

光を即死の一歩手前までに一瞬で攻撃してしまった。

苦しく殺した。一瞬で死ぬより…苦しかったと思う。

緋色先輩と♯?∪君を残して皆喰い殺した。

あまりにも悲しい報われない会話をして、緋色先輩は後輩の魂を奪い、全滅までに私を全員殺さずに止めてくれた。







そう。私は…モンスターだった。人を喰い殺すモンスターに成り果てた。

何故忘れていたのだろう。

彼の名前なんて…何一つ…分からないのに。

私の嘗て貫いた心臓に瘴気が戻った。

………また…私をモンスターにするつもりなのか。

「あああああ………!!!!!」

体の至るところが切り裂かれた。

光と同じ様に自分を殺そうとしている。

絶対に負けない。

そう思って、回復する。

「痛いよ………!!ううううああああ…!!!!!」

また切り裂かれた。しかし、それを否定するかのように自分の身体を能力で治す。

「奏恵!!!!」

お姉ちゃんが部屋の扉を蹴飛ばしながら叫ぶ。

普通に開けてくれれば修理の必要無いのに……

「お姉ちゃん……………!駄目…!」

「駄目言われて妹見捨てる姉がいてたまるかっての!」

見境なくズカズカ入ってきた。

体に切れ目が走ってもお構い無く来る。

「来たら…!死んじゃうよぉ……!」

「その時はあんたも死ぬから安心しな!死んでほしくなけりゃ、奏恵、あんたが死なない事だね!」

「うぐうううあああああああ…!」

お姉ちゃんが死んでしまう。それは駄目だ。

お姉ちゃんの言葉で、思い出す事を決めたのに。

その言葉でお姉ちゃんを殺すなんてあってはならない。

この瘴気など屁の河童。

絶対に…誰も殺させない……!!!殺さない…!

私は怪我を治す能力者だ。

誰かを助く能力者だ…!!!!!

皆に再会しないと…!皆ともう一度会いたいの…!

私はもう大丈夫だって…誰も殺させないって!

名を思い出せない彼を助ける為に来たんだって!!!!!




「はぁ……はぁ……!!!……ゲホッ…カハッ…!お姉ちゃん…怪我させて………ごめんね…」

「なぁに気にすんな!妹を救った名誉ある傷じゃねぇか!まぁ…?確かに?…ちょっと痛いけどな?でも治してくれるんだろ?」

お姉ちゃんは何故こうなったか聞かない。

それに私が今、僧侶になっている事も分かっている様だ。

こんな私を…怪我をしてでも…助けてくれるお姉ちゃんは格好良い。

「うん。勿論。お姉ちゃん…ありがとう。」

「お礼言われる事はしてないさ。まぁ、感謝したいなら?私と添い寝だな!」

恥ずかしいが、仕方無い。ちょっと部屋が汚いし。

……自分の血で…………殺人現場みたいになってる部屋では寝れないし寝たくない。

背に腹は替えられぬ…だろう。

…お姉ちゃんと一緒に寝たくない訳じゃない…し。

と言う事で、血に濡れた服を着替えて、二人で同じベットで寝た。

狭い…

それにお姉ちゃん、相変わらず寝相悪いけど、抱き締めてくれた姉は何よりも暖かった。
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