ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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序章・対の戦い編

1-32 32 緋色視点 存在した希望

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夜、緋色は香露音と会話した。

少し楽しかった。緋色の孤独が癒やされた。

いつもより良く眠れた気がする。

春斗と次は一緒に起きた。

「…いませんねぇ……」

「居たら居たらで困るけどね。」

「そうですよね。祈るしかないですよ。」

「……春斗は最近どうなの…?」

「どうって………?」

「たのしいかなぁ…ってさ。」

「楽しいですよ。久しぶりに樫妻先輩と会えましたし。いやぁ…2年も会ってなかったですからね。」

ちょっと匂わせる発言を他の女子に言わない事を祈る。

何でこいつは誤解を産むような事を言うのだろうか。

緋色はこう言う事を言う奴と分かっているから許される事だと緋色は思う。

「ま、そうだよねー…身長伸びたっけ?」

「若干伸びましたね。」

「モテないの?」

「モテませんね…そっちは?」

「モテると思う?」

「思わないですね。」

きっぱりと言う。

こういう嫌な事を平気で言うところが、春斗の性格が悪い所だ。

何回も言うが本当に重要だ。

それさえ無ければ付き合ってると言われても断固否定はしないだろう。

「…ま…そうだよね…」

本当にこいつは間違った事を言わない。痛い所だけをついてくる。

「……それにしても、あの時より強くなりましたね。…皆さん。」

「そうだね。夏希とか頑張ったと思うよ。あの成長速度はやっぱり才能かなぁ…ま、どうせ一人で秘密の特訓してたんでしょうよ。」

「そういう人なんですか?如月さんって。」

「どうなんだろう。私は…そういう性格分からないから。……でも、一度決めた事にずっと努力する人なんだなぁ…とは思う。」

「…そうなんですね………」

「……。」

「……。」

「……。」

「……………話続かないと、やっとられませんね…」

「本当にそれ。眠くなる。」

二人はずっと話した。朝日が昇るまで。

楽しかった。

このまま、楽しい時が続いて欲しかった。

死神にその時を殺された。

身体に激痛が走るが、それどころではない。

痛みを無視する。

死神によって左眼を潰された。

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

それでも…我慢した。痛みを無視する。

痛い。

それでも痛い。

香露音に目を指摘された時に強がった。

弱く屈服したいくらいには痛い。

皆が吹き飛んだ。死神は夏希の所に行っている。

誰も間に合わない。緋色も、香露音も、春斗も。

夏希は鳩尾をやられ地面を張っている。

意識を耐えるだけで精一杯だ。

駄目だ。夏希を殺させない。死なせてはいけない。

私は死んでもいい。夏希は死んではいけない。

自分は如何でもいい。だけど、君は駄目なんだ。

痛い。何が痛いのか分からない。

それでも、戦う。


……私の正義は……………本当の私の正義は……


自分の信念の為に、機械的に、そして確実にその為の行動を執行する事。

その為なら、人を殺せる。…そういえばもう殺した。

それが正義では無いのなら、もう良い。正義じゃなくて良い。

悪でも良いから夏希を助けなければ。

自分の信念………誰も、殺させない事。誰も、殺さない事。

自分の周りだけは、平和であって欲しい。




何故か、私が気付くと、自分の精神世界にいた。

数々の精神世界の緋色失敗作が沢山遊んでいた。

違う。普通は、自分の精神世界に自分は入れるのは出来ないのでは?

ブレインダイブの人々が何回も自分に試した。

しかし、無意味に終わったという話だ。

何故…どうして…

「フフ…気になる、気になる?」

楽しそうな子供が居る。狂気に溺れている第六位の緋色。

「貴方は死にかけなの!だから…言ってしまえば…ん~お馬さんのあれ!」

「走馬灯でしょう。」

もう一人の緋色がやって来た。第三位の強がるしかない緋色。

「………。左眼をやられただけかと思っていたけど、その奥の脳にも達したって事。」

私は少し察してしまった。さっきから喋れないと思っていたがそういう関係かもしれない。

もしかしたら喋れないのではなく聞こえない可能性もあるが。

「そうだよ~!アハハ!」

辺りを見渡すと扉が無い。広い広い空間だ。

「扉が無いのは当たり前だよ。死にかけで世界が崩壊しかけているんだから。そんな事も分からない?」

相変わらず偉そうだ。本当に自嘲するのが好きな緋色だと思う。

「本当にゴミみたいな世界だな。」

執行の緋色が来た。偉そうな奴だ。

「本当に、助けられないなんて。橋本をお前のせいで殺したのに、また、お前のせいで夏希を殺す。」

「うっわー!ひどーい!アハハハハ!」

「仕方無いじゃない。私が弱いからいけないの。あんな強い敵の前には私は虫けら当然よ。」

本当に精神世界の緋色は腹が立つ。

「…………助けないと…」

「どうやって?」

「何をしてでも助けるの!」

叫んだら、元の世界に戻った。

もうすぐで、夏希が死にそうだ。殺られてしまう。急がないと。

行動しなければならない。見殺しにはさせない。絶対に殺させない。

「夏希ーーーーーーー!!!」

叫ぶ。言ったか、言えてないか分からない。

声にならない声を必死に叫ぶ。

思い出す。自分の非力で殺された橋本を。

自分の弱さで殺した、花達を。

思い出せ。

罪を、後悔を、怒りを、屈辱を。

また…繰り返すのだろうか。

私は、取り返しの付かないことをまた繰り返すのだろうか。

何回も嘆いた筈だ。

何回も一人で声を殺して泣いた筈だ。

何回も怒りで叫んだ筈だ。

橋本の時のように。目の前で殺された、あの時のように……

ただ何も出来ずに殺されるのを夏希の時も見るのか…?

また、目の前で殺されるのか…?

指を咥えて待つのが緋色が出来ることだろうか…?

否。

そんなの…………あんまりだ。

理不尽だ。

理不尽な死を夏希は迎えようとしている。

そんなの………あんまりだ。可笑しい。あまりにも可笑しい。

声が聞こえた。不思議な声だ。

どこから聞こえるか分からない。

もしかしたら緋色だけに聞こえるのかもしれない。

「君は、力が欲しい?守る為の力、助ける為の力が。」

私は応える。

当たり前だ……当たり前だ…!!!!

また…聞こえる。

「大切な物を…繋がりを…犠牲にするよ?」

それがどんなものか分からない。しかし、考えている時間は無い。

決めるしか無い。今ここで。

私は再び応える。

今…目の前を犠牲にするくらいなら………!別に構わない!

声は更に聞こえた。

「分かった。君に力を。運命に抗う力を。君に幸運あれ…」


緋色の周りに光が宿る。

力が漲ってくる。

決して負けない確固たる意志を持った緋色は誰にも負けない力を手に入れる。

しかし、1回きりだ。この美しい力は。

それでも良い。今まで使えなかったブーストを今なら使える。

持続型のブーストだが、きっと倒せるに違いない。

全ては友を守る為に。

「殺戮式・堕天使……………!」

光の様に速く。希望のように残酷に。

自分の声が聞こえる。かつての私の声だ。今の私の様な姿をしているが。

「さぁ…あの時のように。理不尽の海を渡った時のように。抗おう。私よ。さぁ…私の名を叫んで……」

普通の緋色。

いや…違う。君は普通じゃない。私が普通じゃないから。

第五位。君の名前は、叛逆の緋色。

叛逆の名を持つ緋色と繋がる。

この理不尽から叛逆う為に。

縮地(中)…!

光の様に一瞬で死神に近付く。

「…そこから…離れろ………死線誘導・乱舞(大)…!」

ギリギリで防がれた。しかし、無傷では済んでいないようだ。

香露音と、春斗は驚きのあまり立ち竦んでいる。

いや…二人は何も出来なかっただけだろう。

「武器生成(中)……!腕を飛ばしてやる…!」

片方は死線で切り落とした。

片方は武器生成で作った剣で切り落とす。硬いのか、自分の武器の扱いが雑いのか、一瞬で刃こぼれした。

「無惨に死ねよ……!死線誘導・殺戮!!!」

身体がバラバラになった。モンスターを倒したのだ。

「はぁ…はぁ………!」

光が丁度消えた。疲れなのか、痛みなのか…もうよく分からない。

何故戦っていたのか。何故こんなに必死だったのか。

もうよく分からない。



その時だった。急だった。モンスターを倒してから…すぐの事だった。

香露音は頭を抱えフラついた。

「あれ………?私は…………」

春斗も脱力し膝をついた。

「何の………為に……………………?」

世界が歪み始める。砂の様にポロポロと崩れていく。

「何…これ…?」

この言葉が蘇る。


大切な物を…繋がりを…犠牲にするよ?


世界が消えていく。全ての記憶が消えていく。

何で…?どうして…?

最後に微かに聞こえた………

「誰か………私を……………………………」



すっかり全てが無くなった。






もしかしたら…初めからこの世界は存在しなかったのかもしれない。
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