ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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序章・対の戦い編

1-30 30 香露音視点  初めての外

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「髪よし、顔良し、体調良し、忘れ物無し…行ってきます…」

香露音は家を出る。

(夏希が、必死になるのを見るのは初めてだなぁ…)

緋色が開眼してから…いや、夏希が開眼してから日常が変わった気がする。

緋色が隠したい何かがあるのは勘付いていた。知っていた。

隠したいのであれば知る必要は無い。

しかし、香露音の周りはそうで無かったようだ。

緋色の過去に何が興味をそそられるか分からないが、もう香露音も少しだけだが知ってしまった。

その時、心臓が締め付けられた。…どうやら興味が香露音もあったようだ。

「…そんな事は今は考えるときじゃないか…」

扉に向かう。重厚的で、睨まれているようだ。

「あ、緋色…」

緋色が一番早かった。いつも時間はギリギリな方な緋色。

扉を見つめている。いや、扉の奥を見ているのだろうか。

その目に光は無い。しかし、意志がある様に見据えていたように見えた。

緋色は香露音に気付く。

「おはよう。香露音。」

「おはよう。」

二人は挨拶を交した。

「………緋色。」

「如何したの?」

「建物、見つかるといいね。」

「そうだね。…真っ白な内装だけは勘弁して欲しいなぁ…」

すると、ほぼ同時に春斗と夏希がやって来た。

「おはよう御座います。」

「おはようー…」

これで四人が揃った。

全員で手続きをすまして、外に出る。

美しい木々、静かで美しい音、澄んだ風。人が介入していない自然。

全てが新しく、美しい。

「わぁ…!」

「これは…凄いですね。」

「本当に綺麗。…頑張ろう。」

「うん。警戒してね。綺麗なのは間違い無いけどさ。」

先ずは緋色がかつて行っていたらしい崖を目指すようだ。

高い場所から建物を探すようだ。いや、今歩いている此処が高いらしい。

緋色が立ち止まった。

「全員警戒。あと、できるだけ最小限に、体力温存だよ。」

「……3時の方向に来てますね。」

「ついでに6時の方からもね。」

「………速いですね。」

全員に緊張が走る。夏希と香露音が、緋色と棚見君が背中を合わせる。

「………来る。」

全員が武器を構えた。

3時の方向に中型のモンスターが来た。

「鎌鼬(小)…!」

「隼(小)!」

緋色が牽制し棚見君がトドメを刺した。

次は6時の方向。そこから小型のモンスターが来た。

「輪廻(小)……!」

「閃律(小)。」

二人で息を合わせモンスターを討伐した。

「……ふう…勝てた…」

緋色は安堵の息を吐いた。しかし、警戒はしているようだ。

慣れないが、素材を回収しまた歩く。

初めてモンスターを討伐した。

普通なら喜べたが、いつモンスターが来るか分からない緊張感で喜ぶに喜べない。

帰ってから、存分に喜ぼうと香露音は思った。

獣道が薄っすらと出来ているのが見えた。

資格所持者は何回もこの道を通って来たのだろう。

「こういう、何回も通った形跡のある道は、あんまりモンスターが近くに居ない証拠だよ。皆、この道を通れるって事だから。」

緋色は淡々と説明する。

今回が2回目なのに、何処でそんな知識を入れたのだろうか。

「…………ちょっと、敵多くないですか。」

棚見君が、冷や汗を流す。

香露音どころか、夏希も察したようだ。

「…サルだ。前も会った。」

「さ、サル…?どんな奴ら…?」

「数が馬鹿多いから、こいつらだけで凄い疲れる奴ら。どんな方向からも来るよ。全員で背中を合して。」

一気に、圧迫されるような気配を感じる。

「絶対に、自分より後ろにはモンスターを行かさないでね。」

絶対にと言う言葉を強く言われた。

(行かしたら…ここの誰かが死ぬって事だよね。………やってやろうじゃない…!私は…騎士。守れない騎士はただの鉄塊…!)

「隼(中)!」

一気に2匹殺したと思えば、今度は目の前に3体やって来た。

(ここでは温存出来ないって事ね!)

「栄光の剣(中)!」

「輪廻(小)……!洗脳(大)!!!」

「死線誘導・乱舞(大)!」

棚見君は大地を削り、夏希はサルを仲間争いをさせ、緋色は虐殺する。

全員で蹴散らしていく。サルは勝てないと悟ったのか、帰っていった。

「…はぁ………」

「ふーー…やりましたね。樫妻先輩。」

「そうだね。気配察知の範囲外まで消えてった。」

「良かったよぉ…………」

夏希が安堵する。確かに、あれを長く続くと少々キツイ。

「…私の時は、倍いたなぁ…逃げもしなかったし……………」

緋色の素材を回収するときに、微かに聞こえた独り言だった。

すると、歩いていると残骸が見えた。多分…死体だ。

いや、死体と呼ぶには人の形跡が無い。何か黒いシミしか見えなかった。

それでも、人だと思える微かな布が散らばっていた。

多分、香露音以外にも気付いているだろう。しかし、誰も言わない。

気付いていないフリをしているのかもしれない。

(私も含め………ね。)

肝心の崖に到達するまでに10回以上はモンスターと遭遇した。

少し大きめのモンスターが来た時が一番大変だったが、香露音と棚見君が防御し、緋色と夏希でトドメ刺した。

しかし、それのせいで体に疲労が見られた。

緊張のせいで体がこわばったのかもしれない。

生身の状態で、死と隣り合わせの状況。

今まで感じたことの無い恐怖と、興奮が混じり合った。

何とか、目的地に着くがもう既に暗くなっていた。

なのでここで野宿をする事になった。

「…日帰りじゃないと、体力温存出来るなぁ…」

緋色はそう言う。

「前回は、まさかだと思うけど、縮地で移動したの?」

「…そのまさかだよ。流石に大変だった。サルにも追いかけられたし。」

あれらはもともと集団でいる種らしく、それにソロで追いかけられたらたまったものではない。

緋色はそこから何とか切り抜けられたようだ。

4人で交代して寝る事にした。2人以上で起きて、順番をくるくる回しながら寝る。

「……皆、寝たねぇ…」

緋色は夜空を見上げている。美しい光が夜を彩っていた。

中の世界では見られない光景だ。

「…………私はさ。香露音。………優しくなりたいんだよ。」

静寂に耐えられない緋色が口を開く。

「…なんで?」

「…分からない。でも、優しい人になりたいな。」

「なればいいじゃない?…優しい事をすれば、勝手になっていくよ。」

「香露音は人に優しいから言えるんだよ。」

こういった後、自分を自嘲するように笑った。

「…話は変わるけど…香露音って正義ってある?」

「…あるよ。正しい事をする事が正義。何回も何回も…正しい事をして、真っ当に生きる。」

「……凄いなぁ…私には出来ないよ。」

「何で…」

「私には……正しい事が、分からないから。何が正しいか分からない。」

「じゃあ、緋色の思う正義は?」

「多数決。多い方が正義。少ない方は…勝手に悪にされる…」

「じゃあ…それでいいんじゃない?…人によって正義は違うから。」

「………そうか~…でも、私はこんな物は正義じゃないと思うんだな~だって…それはただの事実じゃん?それに…私の正義じゃない気がしてね。」

「…じゃあ、正義って?」

「……私の正義は……………本当の、今の私の正義は……ハハハ…見つからないや。よく分かんない。」

諦めたように言った。

しかし、香露音にはそうは思えなかった。

(見つかってないんじゃない………分かっていても言わないだけ…)

「……緋色らしいね。」

「…何が…?」

「……秘密。」

「気になるなぁ…」

「女子は皆、秘密が多いものだよ。」

「……って言うけど、男子も多いでしょ。」

「フフフ…間違い無い。」

二人は静かに笑った。そうしながら少しだけ会話が弾んだ。

「…そろそろ…時間かな。」

夏希を起こす。眠そうだが仕方無い。

「頑張るよ………」

眠い目をこすり、そう言った。

「私は寝るよ。……おやすみ。」

緋色が眠りについた。

そうやって、朝まで特に何も起きずに一日が終わった。
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