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7.狂愛

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 その日の夜。
 ロイスより先にラーニナが眠りにつくと、部屋に医者が入ってきた。
 女性の医師は恐る恐るラーニナの体に触れたり、脈拍をとったりしていた。

 しばらくして、診断が終わった医師がベッドのそばで座っているロイスの前で跪く。


「身籠っている可能性は極めて低いでしょう」
「そうか、ならいい」

 医者は褒美を受け取り、部屋を後にする。
 ロイスはラーニナの寝顔を見つめ、愛おしそうに微笑んだ。


「お呼びでしょうか」

 医者と入れ替わるように部屋へ入ってきたのは、アメジスト騎士団の団長だった。


「ああ、そなたに頼みたいことがあってね」

 ロイスはラーニナの髪を撫で、言葉を続ける。


「人を探して欲しい。マイケル・ダドリという平民の男だ」
 
「承知いたしました。見つけたらいかがなさいますか」

「その場で殺せ、もちろん内密に。跡形もなく片付けるんだ」


 団長が去った後、そばに控えていたミリアが口を開いた。


「本当によろしいのですか。もし奥様に伝わってしまえば……」

「君の主はいったい誰だ?彼女ではなくこの私だろう。相当肩入れしているようだね」

「……申し訳ありません。ですが」

「そうだな……マイケル・ダドリは本命の女性が他にいて、その女性と駆け落ちしたことにしようか。目撃証言もあって信憑性は極めて高く、それを知ったラーニナはひどく悲しむだろう」


 困惑気味のミリアだったが、彼女ではロイスを止められず、大人しく受け入れるしかなかった。


「傷ついた彼女に私は寄り添い、支える。相手のことなんてすぐに忘れさせてあげるよ。弱みに付け込むことで、早く彼女を手に入れられると思わないか?」


 狂気じみたロイスを前に、ミリアは口を開くことすら躊躇われた。


「私をこうさせたのはラーニナだよ」

 深い眠りについているラーニナは、すでにロイスが自分に堕ちていると気づくことはなかった。



 こうして、両片想いのすれ違いが幕を開けたのだった。



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みんなの感想(4件)

RoseminK
2024.06.11 RoseminK

一気に拝読いたしましたわ。
このお話は、更新されます?
この先が気になりますわ🪭

解除
ラケル
2024.06.06 ラケル

確かに続きが読みたい…
架空の相手に翻弄されている姿も見たい!
勘違い&溺愛されている主人公を見たい!!

解除
淡雪
2024.06.01 淡雪

先生の作品全部好きです!このまま終わってしまうなんて…残念残念すぎます。どうか番外編などよろしくお願いします

解除

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