収容施設“天使の家”

ロアケーキ

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ポロネの記憶(ポロネ目線)

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肌寒さが辺りに広がり、吐いた息が白く染まる頃、ポロネは“お家”で夕ご飯の準備をしていた。

トントントン バチャッ

小さくて“変な形”をした野菜を鍋の中に入れ、蓋を閉める。

今日のメニューは“野菜のスープ”。
…まあ、あまり贅沢ができないウチでは、ほとんどのメニューがこれになるけど。

……そういえば、お肉なんてもう何年も食べてない気がする。

そんなポロネのおとうさんとおかあさんは2人一緒のお仕事をしている。

ほとんど毎日お仕事に行って、帰ってくるのはいつも夜になってからだ。

だからポロネは家の家事をして、おとうさん達が少しでも楽できるように頑張っている。

よくおとうさんとおかあさんは「ポロネが作る料理は美味しい。」と言ってくれるので、とても嬉しい。

野菜に火が通るまでの間、ポロネはキッチンの掃除を始める。
…ボロボロのお家はいろんなところから隙間風が吹き、とても寒い状態だった。



掃除が終わる頃、ちょうど野菜に火が通り、なけなしの調味料で味付けをする。

満足な量はないけど、ポロネが工夫して、薄味でも美味しいスープに仕上げるのだった。

…。

ガチャッ

「…ただいま。」
「ポロネ、ただいま。」

ちょうどスープができる頃、おとうさんとおかあさんがお仕事から帰ってくる。

「おとうさんっ、おかあさんっ、おかえりなさいっ!」

ポロネが笑顔を見せると、2人とも笑顔になってくれる。

そして2人はキッチンの椅子に座ると、今日の“まかない”をテーブルの上に並べた。

「…ポロネ、今日はじゃがいもも貰えた。…明日のスープに混ぜてくれると助かる。」

「わぁーっ!じゃがいもなんて久しぶりっ!…美味しいスープ作るから楽しみにしててねっ♫」

「ポロネ、ありがとう。楽しみにしているよ。」

並べられたじゃがいもはとても小さく、料理のために切ったら1人一口がやっとくらいの大きさだ。

…でも、せっかく2人がお仕事をしてもらってきたものだから、ちゃんと美味しく食べないと“罰”が当たってしまう。

ポロネはテーブルに並べられたお野菜を収納袋にしまうと、2人に笑顔を向けた。

「おかあさん、おとうさん、ご飯できたよっ♫」



夕ご飯が終わり、ポロネはお皿の片付けをする。
今日作ったスープも褒めてもらうことができ、とても嬉しかった。

そして、後片付けが終わると、ポロネが寝る時間となる。

「おとうさん、おかあさん、おやすみなさい。」

「おやすみ。」

「ポロネ、おやすみなさい。」

ポロネは手に持ったランプで真っ暗な廊下を照らし、自分の部屋に行く。

ガチャンッ

「…はぁ、“お腹すいた”なぁ。」

正直、具材がほとんどない薄いスープでは、味はごまかせても“量”まではどうしようもない状態だった。

「きっと、おとうさんとおかあさんもお腹すいてるんだろうなぁ…。」

特におとうさんは身体が大きいから、ポロネよりももっとお腹がすいているかもしれない。

「…いつか、お腹いっぱいご飯を食べてみたいな。」

恐らく、“今の状態”では決して叶わない願い事を呟いて、そこで口を閉じる。

…だめ、おとうさんとおかあさんはお仕事頑張ってるんだから、こんな“わがまま”を言っちゃ。

グゥー

…。

頭ではわかっていてもお腹は正直だ。

ポロネはせめて少しでもお腹を膨らまそうと、“お水”があるキッチンへ戻ることにした。

「……これも、“ポロネのため”だ。」

「…でも。」

廊下を歩いていると、2人の声が聞こえる。

…何の話だろう。

「これ以上ポロネが“ここ”にいても辛い思いをするだけだ。…“天使の家”なら子供達は毎日3食の食事を貰えて、温かいベッドで寝ることだってできる。」

「…。」

「それに引き換え、うちでは満足な食事も与えられず、隙間風が吹く寒いベッドだ。……あの子の“幸せ”を考えれば、…わかるだろ?」

「……グスッ…、わかったわ。…それが“あの子のため”になるなら、…。」

いったいおとうさん達が何のお話をしているかわからなかった。

…ただ、今この場で話を聞いてしまうのが“怖い”と言う感覚がポロネを襲ってくる。

そして、ポロネはお水を飲むのを諦め、そのまま静かに自分の部屋に戻った。

…でも、今聞いた話が頭から離れず、その日はほとんど寝ることが出来なかった。



それから、“あのお話”のことを聞くことが出来ずに数日が経つ頃、ポロネは2人とお出かけをすることになる。

「どこにいくの?」と聞いても2人はごまかすばかりで教えてくれることはなかった。

しばらく歩くと、乗合馬車が見えてくる。
おとうさんが言うにはあの馬車に乗って“ある場所”に行くらしい。

乗合馬車に乗ると2人は無言になる。
おかあさんに至っては、涙目になっていた。

『どうして、せっかくのお出かけなのにそんな“悲しそう”なの…?』

その時にふと、この前の夜のお話が思い出される。

でも、ポロネは頭を振って、そのお話を忘れようと努力した。
…何故か、意味が分かってしまうととても怖い気がしたからだ。



しばらくすると乗合馬車は“ある場所”で停まる。
2人が言うには、ここで降りるらしい。

馬車を降りると、2人はポロネの手を繋いで歩き出す。
ポロネのお家からだいぶ離れた“ここ”は、緑一色の森の中だった。

おとうさんは地図を取り出すと、1人前を歩き出す。
途中に何回も別れ道があり、地図がなかったらちゃんと帰れるか心配な状態だ。

「ここが、…“天使の家?”」

しばらく歩いているとおとうさんが立ち止まってつぶやいた。

『てんしのいえ?…ってたしか。』

“あの日の夜”、たしかそんな名前を言っていた気がする。

おとうさんの傍からひょこっと眺めると、そこには白さが特徴的な小さな建物が立っていた。

目の前の門には何か文字が書いてあり、とても綺麗な見た目だ。

ギイィッ

コンッ コンッ コンッ

ガチャ

門を開け、おとうさんがドアをノックすると、中から黒髪でロングヘアの“女の人”が出てくる。

女の人は少し地味な色のワンピース姿で、胸の辺りには“羽?”の形をしたシルバーのブローチを付けていた。

「…どうなさったのですか?」

「……すみません、ここは噂に聞いた“天使の家”で間違い無いでしょうか?」

「……“どのような噂”かは存じませんが、ここは天使の家で間違い無いですよ。…そちらのお子さまについて、とのことでしょうか?」

「………はい。恥ずかしながら、ウチでは満足な食事すら与えることが出来ません。…身勝手なことは重々承知しておりますが、……ウチの娘をこちらに預けさせていただけませんか?」

『…え?』

おとうさんはいまなんて言ったんだろう。

…“あずける”ってことはつまり。

「…わかりました。ただ、ここがどのような場所かわからないままではご両親さまもご不安でしょう。…よろしければ施設内をご案内致しますが、いかがなさいますか?」

「…お気遣いいただき、ありがとうございます。何卒、よろしくお願いします。」

「…お、おとうさん?」

「…。」

「おかあさん…?」

「……。」

どうして。

…どうして、何も言ってくれないの?

「では、こちらへ。靴のまま上がっていただいて構いません。」

「わかりました。」

おとうさんはポロネの手を優しく握り、そのまま“女の人”について行く。
少し遅れておかあさんが後ろについてきた。

「…まずここの廊下には、子供達それぞれの“子部屋”があります。」

「…まさか、個室を貰えるのですか?」

「はい。当施設では子供達の“プライバシー”を大切にしておりますので。」

「また、子供達の数が増えた時用に、2階にも同様の部屋をいくつも用意しています。」

…ポロネが状況を理解しない間に、どんどんと建物の中を進み続けている。

廊下を抜けると、大きな扉が顔を出した。

「ここは子供達が日中の時間遊んだり、お勉強をしたりする部屋です。…今子供達はお庭で遊んでいるので誰もいませんが。」

ガチャッ

女の人が扉を開けると、そこにはいろんなおもちゃや机が置かれた大きな部屋が広がっている。

女の人が言う通り、このお部屋ではいろいろなことが出来そうだった。

「次のところにいきましょう。」

そう言うと女の人はスタスタと歩き出す。

来たときとは別の廊下を歩いていると、女の人が突然足を止めた。

「この窓からお庭を確認できます。…申し訳ございませんが、お庭は職員と子供達しか入れない決まりなので、こちらでのご確認をお願いします。」

女の人が広げた手を指す先では緑が溢れたお庭が広がっている。
そこでは子供達が元気に走り回っており、その様子を女の人が2人で見守っていた。

「これで一通り施設のご案内は終了です。…よろしければ、このまま談話室で詳しいお話をいいでしょうか?」

「……はい、よろしくお願いします。」

おとうさんのポロネの手を握る力が強くなる。

「あ…。」

ポロネが口を開けようとすると、女の人と共におとうさんも歩き出してしまう。

そしておかあさんは、ポロネの背中に優しく手を添えて、歩き出した。



「…では、何かご不明な点はございますか?」

談話室と呼ばれる場所に入り、おとうさんとおかあさん、ポロネと向かい合う形でテーブルの席に座る。

そして女の人から一通りの説明が行われた。

「…失礼ですが、…もし施設の金銭事情が厳しくなった場合はその、……子供達はどうなりますか?」

「…はい、当施設は、もともとは個人で経営しておりましたが、3年ほど前に街から認可され、“補助金”をもらえるようになりました。…そのため、金銭的な面で困ることはございませんので、ご安心ください。」

「…わかりました。」

おとおさんはテーブルの上に置いた手を強く握りしめた。

「他には何かございますか?」

「……すみません。…もし、娘に会いたくなった場合、…ここに来てもよろしいでしょうか?」

「……非常に申し上げにくいのですが、当施設でお預かりする時点で、お子さまは“孤児”という区分に変更されます。…これは街からの要請もあり、無償でお預かりするには必要な措置なのです。」

「…。」

「そのため、お預かりが決定した場合、この場でお子さまへの“権利”に関する契約書にサインをしていただきます。」

「……。」

「契約書にサインが完了した時点で、…親御さまとお子さまは“他人”となります。……また、契約書内に『今後一切“元”お子さまとは関わらない』という記載もあるため、会いにくることはできません。」

「……他人、…ですか。」

「はい。…他人になります。」

「………。」

おとうさんとおかあさんは呆然としてしまい、ずっとポロネのことを見つめてくる。

「……わかりました。…契約書をください。」

「あなたっ!?」

「…もう“これ”しか方法がないんだ。」

「……グスッ、ポロネェ…。」

おかあさんはポロネのことをギュッと抱きしめる。

…でもその力は強すぎて痛いくらいだ。

そうこうしている内に、おとうさんは女の人からもらった紙を確認して、自分の名前を書いている。

でも、その手は何故か震えていた。

「…ポロネ。……もう、お前に会うことはできなくなる。」

「…え?」

名前を書き終わるとおとうさんはポロネのことを見つめて、そんなことを言い出した。

“あえなくなる?”…なんで?

「…い、いやだぁっ!?」

「ポロネェ、…ごめんなさい、…グスッ……ごめんなさいっ!」

ポロネを抱きしめるおかあさんが震えているのが伝わってくる。

「…ポロネちゃん、今日からは私達と暮らしましょう?」

「いやだぁっ!…ポロネ、おとうさんとおかあさんと一緒がいいっ!!」

「ポロネ…、すまない。……お前が“幸せ”になるためなんだ。…わかってくれ……。」

「いやだぁぁっ!そんなのいやだよぉっ!!」



…結局、その後もポロネは暴れておかあさんを離そうとしなかった。

そのため、女の人がポロネを抱きしめ、おかあさんから無理矢理引き離す。

「ポロネ…さようなら。……幸せになれよ。」

「ポロネ……ごめんなさい。」

「おどおざんっ!!おがあざぁんっ!!」

ガチャン

「…。…うわあぁぁぁっん!?」

そのまま、2人は部屋から出て行ってしまう。

取り残されたポロネは2人を追いかけようとするが、女の人がずっと抱きしめるため、動くことが出来ずにいた。

「はなしてっ!はなじてぇぇっ!!」

「…うるさいわね。」

バヂンッ!

一瞬、ポロネは何が起きたのかわからなかった。

ポロネを抱きしめる手が離れたと思った瞬間ほっぺに痛みが走り、その勢いで転んでしまったようだ。

「…え?…いたい?……いだいっ!?」

ほっぺに手を当てると“ズキっと”する痛みがポロネに襲いかかってくる。

女の人の態度がいきなり変わり、ポロネのことをぶったのだ。

…なんで?

「いつまでもメソメソ泣くんじゃないわよ。…やっと“面倒な存在”がいなくなったんだから。」

「……めんどう?…グスッ…なんでポロネを叩いたの?」

「質問が多いわね。…わかりやすく言ってあげると、あなたはあの親に捨てられたのよ。…それで仕方なく、この施設で拾ってあげたの。」

「すてられた?…ポロネが?」

「そうよ。…でもこの施設にはルールがあるの、私達“職員”に逆らっちゃいけないっていうね。……もし逆らったら今みたいに“罰”を与えるから、そのつもりでいなさい。」

「ばつ…。ほっぺ叩くのが?」

「本当の罰はそんな“生やさしい”ものじゃないわ。…まあ、あなたもすぐに知ることになるでしょうね。」

女の人、…職員の人は冷たくポロネに笑いかける。

「さあ、あなたは“別館”行きだから、さっさと移動するわよ。」

「べっかん?」

「…今あなた達を案内したここは本館。…本館は私達“職員”の子供や、貴族さまの隠し子だけが入れるの。…あなたみたいな“孤児”は入れないわ。」

そういうと、職員の人はポケットにしまっていた黒い布を取り出す。
そして、その布を巻き付け、ポロネの目隠しをした。

「な、なにっ!?」

「ちょっと目隠しをするだけよ。…ほら、行くわよ?」

職員の人はポロネの腕を掴み連れて行こうとする。

だが、ポロネは足に力を入れ、その場に留まった。

「…やだ、行かないっ!ポロネおとうさん達と一緒にかえるのっ!」

「……もう一回ぶたれたい?」

ビクッ

職員の人の言葉に、ポロネの身体がこわばる。

「…次逆らったらもっと“きつい罰”にするから覚悟しなさい。ほら、グズグズしてないで行くわよ。」

また同じようにポロネは腕を掴まれ連れていかれる。

今回は叩かれるのが怖くて抵抗することができなかった。



「ほら、ついたわよ?」

しばらく砂利の上を歩かされた後、ようやくポロネの目隠しが外される。

「…きたない。」

その“建物”を見た瞬間、ポロネの口からボソッと言葉が漏れた。

目の前には傷だらけでツタが生い茂った大きい建物が立っている。

もともと白かっただろう色は禿げて、土のよごれが混ざった色に変わっている。

周りにあるお庭は手入れがされていないのか雑草が生い茂り、不気味さが漂っていた。

「ここはもともと街から補助金を貰う前まで生活していた場所よ。…いまは“別館”として使っているわ。」

「…ここ、こわい。」

「ここは“神聖”な場所なのよ。…あなたも立派な“天使みたいな人”にしないとね。」

「てんし?」

「さあ、おしゃべりはこれくらいにして中に入るわよ。」

職員の人はポロネの手を引き大きな扉に手を当てる。

ギィィィィッ

最初の綺麗な建物とは違い、耳を塞ぎたくなるような雑音を響かせて扉が開いて行く。

外の見た目と同様、中は薄暗く、窓から差し込む光が灰色の床と壁を照らしていた。

「まずは談話室に行くわよ。」

職員の人は足早に歩き出し、ポロネはその後についていく。

ガチャ

そして、傷がたくさんついた扉を開けると、少し狭くてジメジメとした部屋が顔を出す。

部屋の中には壁一面のクローゼット、机と椅子が一つずつあった。

職員の人はクローゼットを開けると中から“薄汚れた”白いシャツを取り出す。
……でも、ずいぶんと丈が短い。

「ほら、これに着替えなさい。」

「えっ…下にはくスカートとかは?」

「そんな贅沢なもの、孤児であるあなたに与えるわけないでしょ?…あと今着ている服は全て脱ぎなさい。」

「え…。でも…せめてパンツがないと下が丸見えだよ…。」

「…言ったでしょ?そんな“贅沢”なものは与えないって。……言っとくけど、これからこの施設で過ごす間は毎日この格好だからね?」

「そんな…、恥ずかしいよぉ…。」

ポロネは自分の身体を抱いて、下を向いてしまう。

バヂンッ!

「い゛っ!!」

いきなり頰に衝撃が走り、また床に倒れ込んだ。

「…手間を掛けさせるんじゃないの。…ほら、もう一回だけ言うわよ。…着ている服を全て脱いで、そのシャツに着替えなさい。」

そういうと、職員の人はまた手を振り上げる。

「ひいっ…。」

ぶたれる恐怖からポロネは急いで服を脱ぎ、薄汚れたシャツに袖を通した。

「ううぅ…。」

だが、下が丸出しのこの恥ずかしい格好に、ポロネはうずくまってしまう。

「ほらっ、着替えたら“気をつけ”の姿勢になりなさい。」

「…はずかしいよぉ。」

ポロネはそのまま小さく震え、動けないでいた。

「…仕方ないわね。警告で足りないなら、ちょっと“早い”けど、痛みで覚えさせてあげましょうか。」

「…え?…い゛いぃっ!!」

ポロネが少し顔を上げると、その左耳が思いっきり上に引っ張られる。

あまりの痛みからポロネの身体をぎこちなく立ち上がり、両手で耳を庇っている状態だ。

「い、いだいぃぃっ!?はなしてえっ!!」

「いいわよ。」

パッ

ようやく引っ張られる手が離れ、ポロネはそのまま耳をさすり出す。

千切れてしまうんじゃないかと思う痛みだったが、なんとか耳は無事なようだ。

「はぁ、よかっ…。」

バッヂィィンッ!!

「っ…。…あ、…ああ゛ぁぁぁっ!?」

だが、その事実に安堵したのも束の間、ポロネのお尻に激しい衝撃が走る。

そして、一呼吸置くと、身体が思い出したように、ジグジグとする痛みがお尻から伝わってきた。

「…言ったでしょ、次逆らったらもっと“きつい罰”にするって。」

「いだいっ、いだいっ、いだぁぁぁいっ!?」

職員の人が何か言っているような気がするが、いまのポロネにそれを聞く余裕はない。

今はただ、これまで感じたことのない激しい痛みにお尻を押さえ、転げ回っている状態だった。

「…まあ、初めては“そんなもの”よね。……あの両親の印象だと、あんた家では体罰なんて受けてこなかったんでしょ?」

「はあ…はぁ。…はぁ。」

「じゃあ、“あれ”を使いましょうか?」

ようやくお尻の痛みが一定になり、ポロネが少し落ち着いた頃、職員の人はクローゼットから何か“もの”を取り出し始めた。

「ふふっ、“これ”を使うのは久しぶりだから楽しみだわ。」

ポロネは涙目でその引っ張り出されたものを見つめる。

それは椅子のようだが、肘掛けと座る部分の間が妙に広い。

しかも頭を置く部分には垂れ下がった手錠が、肘掛けの部分には細い縄が垂れ下がっていた。

「これは椅子じゃなく、“拘束具”として使うのよ。」

「え…。」

そういうと職員の人はポロネを抱き上げその椅子に座らせる。

ガチャンッ

そしてポロネの両手が頭の中に下がった手錠に繋がれた。

「あとは両足をここに乗せて。」

職員の人にされるがまま、ポロネの両脚は持ち上げられ、膝裏のあたりに肘掛けが当たる位置に調整された。

そしてその膝裏も、肘掛けにある縄できつく結ばれる。

…いまポロネはおむつ替えの姿勢を強制でさせられているような、恥ずかしい格好だ。

「…ポロネに、なにするの…?」

「ふふ…。これから“これ”でいっぱいその生意気なところを打ってあげるのよ。」

職員の人は細い紐をポロネに見せつける。

「ひも…。」

「安心しなさい。初めてだから“血”が出るまでは勘弁してあげるわ。」

「ち?…え?」

職員の人はそういうと、紐を2つ折りに束ね、思いっきり振り上げた。

ビッヂィィンッ!!

「…ひ、…ひぎゃぁぁぁっ!?」

その紐は、ポロネの右太ももに振り下ろされる。

裂かれるような痛みが一瞬したと思うと、次の瞬間にジグジグとした痛みに変わり始める。

ビッヂィィンッ!!

「ああ゛ぁぁぁっ!!」

次はポロネの“大切なところ”の真ん中に紐が振り下ろされる。

その当たった部分は2本のどす黒い痣となり、痛みは太ももとは比べ物にならなかった。

ビッヂィィンッ!!ビッヂィィンッ!!

「ぎゃぁぁあっ!?」

今度は左右のお尻に1回ずつ、その痛みが与えられる。

あまりの痛みからポロネは必死に暴れるが、鉄製の手錠と硬い縄からは逃れられそうにない。

「まだ白い部分がある“大切なところ”も、今日からは色を変えてあげなくちゃね。」

ピクッ

職員の人はポロネの大切なところを撫でる。

ペチッ、…ペチッ

そして撫でるのを止め、今度は紐を優しく当て始めた。

「あぁ…、あぁぁ…。」

その瞬間、ポロネにはわかってしまった。
…これから、“何”をされるのかを。

「も、もう絶対わがまま言いませんっ!ちゃんと言うこと聞きますっ!…だから、…だからどうかそれだけは許してくださいっ!!」

「そう、反省してるのね?」

「は、はいっ!反省してますっ!だからもう叩くのはやめ…。」

「本当に反省してるなら、…これから与えられる“罰”もちゃんと受けられるわよね?」

「……も、もういやぁっ!?」

ポロネが絶望的な顔で泣き出すと、職員の人は冷たくニコッと笑う。

「……じゃあ、始めましょうか?」



ビッヂィィンッ!!

「いだいぃぃっ!!」

ビッヂィィンッ!!

「ああ゛ぁっ!?もうゆるじてくだざぁいっ!!」

あれから集中的にポロネの“大切なところ”だけを叩かれ続けている。

すでにその場所はどす黒い痣が何本もでき、目も当てられない状態になっていた。

「だいぶ“いい色”になったわね。」

ポロネのこの“惨状”を見て、そんなことをいうこの人はきっと悪魔か何かだと思う…。

「まあ、これ以上すると“血”が出そうだし、そろそろ許してあげるわ。」

そういうと職員の人は紐をテーブルの上に置き、ポロネの拘束を解き始めた。

「いたい、…いたいよぉ…。」

拘束を解かれたがポロネは放心状態となり、動き出せずにいる。

バッヂィィンッ!!

「ひっ…、い゛、いっだぁぁぁいっ!?」

…そして、その“無防備なところ”が思いっきりぶたれた。

「いつまでそうしてるの?…それとも、もっと続けてほしいのかしら、次は本当に血が出るまで叩くわよ?」

「ひ、ひいぃっ!?」

ポロネは慌てて椅子から降りようとし、勢い余って転げ落ちてしまう。

そして、そのまま部屋の隅に行き、怯えながら職員の人を見た。

「ほら、あなたがこれから住むことになる“部屋”に行くわよ。」

「こ、こないでぇ…、ひいっ!?」

職員の人はまたポロネの耳を引っ張って無理矢理立たせる。

そしてそのまま部屋を出ると、耳を引っ張ったまま廊下を歩き出した。

「み、みみをはなしてぇっ!!」

「ダメよ。…私は他の“仕事”もあるんだからこれ以上手間取らせないで。」

ポロネの必死の訴えも通らず、職員の人はスタスタと歩きだす。

…本館と違い、薄暗い汚れた廊下がポロネをより一層不安にさせるのだった。



「…ここよ。」

少し歩くと、職員の人は一つの部屋の前で止まる。

ギイッ…ガチャッ!

相変わらず耳障りな音を響かせながら扉が開く。
部屋の中は薄汚れていて、ボロボロのベッドが3つだけ置かれている。

そして、ポロネよりも少し年上の女の子が2人。
その2人の女の子はベッドに座っていた状態から“気をつけ”の姿勢で立ちあがった。

「今日からあなた達と一緒に生活する子よ。…見てわかるように“反抗的”だけど、仲良くしなさい。」

「はいっ!」

「は、はいっ!」

「じゃあ、私は仕事に戻るから2人とも、寝るまでの時間でポロネに施設での“過ごし方”を教えなさい。」

「わ、わかりましたっ!」

「……私は“2人とも”って言ったはずだけど。」

職員の人は“返事”が出来なかったロングヘアの女の子を睨みつける。
その瞬間、女の子の顔はみるみる青く染まっていった。

「あ…ひっ、ご、ごめんなさいっ!ちゃんと教えるので許してくださいっ!!」

「…ダメね。……でもちょうどいいわ。ポロネ、ちゃんと“お返事”ができなかったらどうなるのか、しっかりと見ておきなさい。」

「ひ、ひいっ!」

「ミアッ!手を頭の上に組んで足は肩幅に広げなさいっ!!」

職員の人がそういうと、ミアと呼ばれたロングヘアの女の子は青い顔で言われた通りの姿勢になる。

「じゃあ3回、しっかりと声を出しなさい。」

「は、はいっ!……悪いミアが反省できるように、“ご教育”お願いしますっ!」

職員の人は女の子の前に立つと、細い棒の先に四角い固まりが付いたものを腰から取り出す。

「そ、それは…。」

「…手加減はしないからそのつもりでいなさい。」

「…はい。」

ビッヂィィンッ!!

「あ゛ぁぁっ!!…ひ、ひとつっ!ご教育ありがとうございますっ!!」

「え…。」

いきなり女の子が“大切なところ”を塊の部分で叩かれ、それに対してお礼を言っている。

なぜお礼を言っているかはわからないが、それが痛々しい行為だということはわかった。

女の子達の“大切なところ”は何故か元から青紫色に腫れていて、今ぶたれた女の子の方は、より濃い“青色”が浮かび上がっているからだ。

ビッヂィィンッ!!

「いぎゃぁぁぁっ!!に、にいっ!ご教育ありがとうございますっ!!」

同じ場所に塊が当たり、女の子の目からは大粒の涙が溢れ出している。

そして、隣で気をつけしているもう1人の子は、悲しそうな顔でその様子を見ていた。

ビッヂィィンッ!!

「いっだぁぁいっ!!ざ、ざぁぁんっ!……ごぎょういぐっ!ありがどうございまずっ!!」

結局同じ場所を3回ぶたれ、女の子の“大切なところ”は初めよりも遥かに痛々しい状態になっている。

「まあいいわ。今後は挨拶に気をつけるようにしなさい。」

「は、はいぃっ!…ごぎょういぐありがとうございまじだぁっ!!」

「…じゃあポロネ、お姉ちゃん達にしっかりと“教えて”もらいなさいね。」

ガチャンッ

職員の人はそういうと、ポロネの返事を待つことなく部屋を出て行く。

「うぅぅ…、グスッ…おまたいだいよぉ…。」

「ミア、ちゃんと返事しないとダメでしょ?」

「だ、だってぇ…。」

「ほら、お水持ってくるから、ミアはポロ…ネ?だっけ、…その子の面倒見てて。」

ミアと呼ばれた女の子よりも少し年上の子は、そのまま部屋を出て行く。

部屋にはポロネとその子だけが残された。

「お、お姉ちゃん…、大丈夫?」

「…グスッ…。うん、大丈夫。…かなり痛いけど、追加罰ではまだマシな方だから…。」

「ついかばつ?」

「…いまみたいに、職員の人を怒らせると、それに応じて罰が与えられるの。…グスッ、罰の内容はその人ごとに違うけど、みんな厳しい罰を与えるから気をつけてね。」

「そ、そんなのやだ…。」

「…この施設に入っちゃったらもう、あの人たちには逆らえないよ…。」

女の子…ミアお姉ちゃんは暗い顔でポロネに笑いかける。

ガチャッ

「ひっ…。」

「ミア、お待たせっ!…あ、ごめん。」

「ル、ルーナちゃん、脅かさないでよ…。」

ルーナと呼ばれた女の子は水の入った小さい桶を持って部屋に入ってくる。
ミアお姉ちゃんは、ドアが空く訪れるを聞いた瞬間、ビクッと震えた。

ルーナ…お姉ちゃん?は軽く謝ると、その中に入っている薄汚れた雑巾を絞りだす。
そして、ミアお姉ちゃんの“大切なところ”にそっと当てた。

「ひゃあっ!?」

「ミア、そのまま我慢して。…ぬるくなったら言ってね。」

ミアお姉ちゃんを優しい微笑みで見つめた後、ルーナ…お姉ちゃんはそのままポロネの方を向いた。
…いや、ポロネの方というよりは、下半身を見てるような。

「ポロネちゃん…だっけ?これからよろしくね。わたしのことはルーナって呼んで、わたしもポロネって呼ぶから。」

「うん。…ルーナお姉ちゃん。」

「うん、素直ないい子だね。…それにしてもだいぶ厳しくされたよね。」

「え、…うわぁ…ほんとだ。…ポロネちゃん大丈夫?私が使っちゃったけど、この雑巾当てるね。」

そういうと、ミアお姉ちゃんはポロネの“大切なところ”に雑巾をピタッと当てる。

「い゛っ!」

突然冷たいものを当てられ、ポロネは飛び上がった。

「ご、ごめんっ!いきなり痛かったよね!?」

「う、ううぅぅっ…。」

「ポ、ポロネちゃん?」

「い、いだかった、…ずっとこわかった、……もうおかあさんとおとうさんの所に帰りたいよぉ…。」

ポロネはその場でうずくまって泣き出してしまう。

痛みのせいもあり、一度涙が流れ出すと止まることはなかった。

「ポロネちゃん、ここに来たってことは、もうお父さん達には捨てられちゃったってことだよ。」

「そうだよポロネ、だからもうこの施設で生活するしか…。」

「ポ、ポロネはっ!…捨てられてないっ!!…何も知らないくせに…お、お姉ちゃん達と一緒にしないでっ!?…んぐっ!」

「大きな声を出さないで、職員の人が来ちゃうでしょっ!」

その瞬間、ポロネは怖い顔をしたルーナお姉ちゃんに口を塞がれる。
軽く抵抗するが、身体が全く動く気配がなかった。

……。

「…ギリギリ、セーフだったみたい。」

「よかった…。」

ミアお姉ちゃんは安心し、それを見たルーナお姉ちゃんはポロネから離れた。

「ポロネちゃん、…だめだよ大きな声出しちゃ。…じゃないと私達怖いことされるんだよ?」

「…怖いこと?」

「そうだよ。ポロネちゃんも受けなかった?…ここにきて1番初めに。」

ミアお姉ちゃんはポロネの“大切なところ”を見ながら問いかける。

「…それって、まさか…。」

「そう。悪い子…ううん、ここでは悪い子は“堕天使”って呼ばれて、天使の部屋ってところに連れて行かれるの。」

「てんしのへや?」

「うん、天使の部屋。…そこでは恐ろしい罰を受けるの。……ポロネちゃんも連れて行かれないように、いい子にしてようね。」

ミアお姉ちゃんは真剣な顔でポロネを見る。

…もうポロネは今日いろいろなことが多すぎて、頭の中がぐちゃぐちゃな気分だ。

「ミアお姉ちゃん、ルーナお姉ちゃん…ポロネのことを助けて…。」

「うん、大丈夫、お姉ちゃん達が助けてあげるから。…ね、ルーナちゃん。」

「……。」

「ルーナちゃん?」

「…なんでもない。ただ、…あんまり簡単にそんな“約束”はしないほうがいいよ。……わたし達も“この状態”なんだから。」

「そうだけど…。」

ルーナお姉ちゃんは自分の“大切なところ”を見つめながらそう答える。

ミアお姉ちゃんは少し困り顔になっていた。

「まあ、…こんなところだけど、よろしくね、ポロネ。……明日からは“地獄”だから覚悟しておいた方がいいよ。」

「……よろしくね、ポロネちゃん。」

お姉ちゃん達は暗い表情でポロネに笑いかけた。

…その笑顔に、何故か“絶望感”を感じる。

……そして、この日からポロネの“地獄”の日々が始まるのだった。


「完」
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