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第31話 疑われるユウヤと弁解

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「風呂から上がったのじゃ! ポカポカなのじゃ!」
「こらこら、マリーちゃん。夜なんだから、あまりはしゃがないのよ?」
「はーいじゃ」

 闘技場で神様との話を終え、マリーちゃんの部屋へと戻って来た俺。
 ちょうど部屋に入った時に、風呂から上がったマリーちゃんが濡れた髪のままはしゃいでいて、カリナさんに注意されてるところだった。

「ただいまー」
「お? おかえりじゃ、ユウヤパパ!」
「お帰りなさい。……お腹はもう良いの?」
「ははは、カリナさんにはバレてたね。もう大丈夫だよ」
「……お腹がどうかしたのじゃ?」
「何でもないよ、ははは……」

 俺に気付いたマリーちゃんとカリナさんが、迎えてくれるけど……どうやらカリナさんには、お腹の痛みを堪えてた事を気付かれてたみたいだ。
 かなわないなぁ……。
 首を傾げてるマリーちゃんには、濡れたままの髪を撫で、笑って誤魔化しておく。
 ここでバレたら、せっかく俺一人残った意味がなくなるからな。

「……んへへぇ……ん? クンクン……何か妙な気配を感じるのじゃ!」
「どうしたの、マリーちゃん? ……別の女の匂い?」
「いやいやいや、そんな事は無いから。カリナさん以外の女の人と、密会なんてしないから!」

 俺が撫でると、風呂上りでご機嫌のマリーちゃんがさらにご機嫌になる……が、何を思ったか、急に俺の体を匂いはじめ、おかしな事を言い始める。
 ……もしかして、さっき神様と話してたのを、何かしらの能力で感じ取ってるのかな? と思うけど、気配を感じるのに匂いを嗅ぐっていうのはどうだろう……マリーちゃん。
 なんて事を考えてる場合でも無く、マリーちゃんに釣られてカリナさんまで俺に近付き、何かしらを感じ取ったようだ。
 確かに神様は、優しい女性の声だったけどさ……姿も見えずに声が聞こえただけで、匂いとか感じる物なのか?
 恐ろしきは女の勘……というやつか?


「……スゥ……スゥ……」
「ふふふ、気持ち良さそうに寝てるわね」
「そうだね。……さっきまでの騒ぎが嘘のようにね」

 変な勘違いをしたカリナさんが目を光らせ、俺に迫って来るのを何とか押しとどめ、弁解しているうちに、風呂上りで体が温まったマリーちゃんがお眠になった。
 今日は俺の訓練に遅くまで付き合ってくれたせいで、いつもより時間が遅いからな、仕方ない。
 カリナさんと二人、ベッドで気持ち良さそうに寝ているマリーちゃんを見て微笑む。
 ……こうしてると、ふわふわの髪から角が覗いてる事以外、人間の女の子と変わらないな。

「それで? マリーちゃんを寝かせるために中断したけど、説明してくれるのよね? こんなかわいい子と私という者がありながら、他の女と会っていたって事を……」
「……えーとさ、なんて言ったらいいか……他の女性と会っていたと言えば……そうなる、のかな?」
「やっぱり!」
「しー! しー! マリーちゃんが起きるから!」

 どう説明したら良いのか、考えながら言葉を探していると、興奮したカリナさんが叫んだ。
 俺は慌てて口の前に人差し指を持って来て、静かにの合図。
 それと一緒に、カリナさんを止めながら、小声で叫んだ。
 ……良かった、マリーちゃんは起きてないな。

「浮気とか、そういう事じゃないから。本当に、信じてよ……」
「ユウヤさんの事は信じてるわ。でも、実際に女の匂いがしたんだもの……」
「そんなに匂うものかな……? まぁいいや。えっとさ、俺達がこの世界に来る時、聞こえて来た声があったでしょ?」
「……そうね。神様の声が聞こえたわね」
「その神様がさ、様子見とか言って、さっきまで闘技場に来てたみたいなんだ」
「みたい? 会ったんじゃないの?」
「いや、声は聞こえたから、話はしたんだけどね。姿は人間には見えないんだってさ」
「そう……成る程ね。だから何となく覚えのある匂いだったのね」
「納得してくれた?」
「えぇ、まぁ……。ごめんなさい」
「わかってくれれば良いよ」

 カリナさんには、正直に闘技場で神様と話した事を伝えた。
 この世界に来る時、カリナさんも声を聞いているし、一緒に能力を授かったからね。
 マリーちゃんにはうまく伝わらないかもしれないから、寝ている今がちょうど良かったんだと思う。
 ……まさか、匂いで誰かと会ってたとまで気付かれるとは、思わなかったけど。

 理由に納得したカリナさんは、俺に申し訳なさそうにしながら謝る。
 疑われて、迫って来られた時は怖かったけど、それだけ俺が愛されてるって事だもんな。
 笑って許して、カリナさんの頭をポンポンと軽く叩いた。
 もちろん、身体強化(極限)は解除済みだ。

「……そう、そうなのね。じゃあ優勝を目指すの?」
「そうだね。神様にまで応援されたんだから、やっぱりそこは目指そうかなと思ってる。身体強化(極限)を使えば、無理な事じゃないみたいだし」

 神様と話した内容をカリナさんに教え、優勝を目指す事も伝えた。
 最初は少しでも戦いになるように、マリーちゃんにお願いして訓練をする事になったが、これからはしっかり身体強化(極限)を使いこなせるように、頑張ろうと思う。
 神様の祝福がもらえるってわけだからね。
 カリナさんとマリーちゃん……家族のためにも頑張らないと。

「私も何かできれば良いんだけど……」
「カリナさんは、マリーちゃんと応援してくれれば良いんだよ。それだけで、俺は頑張れるから。それに、朝食も作ってもらってるしね?」
「……わかったわ。明日も精一杯、美味しい朝食を作るわね」
「うん、お願い。それじゃ、俺は風呂に入って来るよ。さすがに訓練の後、体を流さないのもね……」
「はい、いってらっしゃい」

 カリナさんには、朝食の用意を頑張ってもらう事にして、俺は風呂へと向かう。
 本当に、カリナさんとマリーちゃん……愛する奥さんと娘から応援されるだけで、頑張ろうと思えるんだから不思議だ。

 誰も応援してくれる人がおらず、俺一人で闘技大会に出るんだったら、きっと優勝なんて……祝福が貰えるとわかっても……目指そうとはしなかっただろうなぁ。
 なんて考えながら、風呂へ行って体を流す。
 身体強化(極限)を使っての訓練だと、疲れは後にほとんど残らないけど、汗はかくからな……汚い体のままで、カリナさんやマリーちゃんと同じベッドは使いたくない。
 マリーちゃんに、「パパ臭い……」とか言われたら、数日は落ち込む自信があるぞ! 

「おかえりなさい。さ、寝ましょう?」
「うん、それじゃ……失礼して」

 風呂から上がり、寝ているマリーちゃんを見守りつつも、手を繋いでいたカリナさんを微笑ましく思いながら、ベッドに入り、就寝する。
 今日は体を存分に動かしたから、よく寝られそうだ……。


「今日も特訓じゃ!」
「頼むよ、マリーちゃん」
「任せるのじゃ!」

 翌日以降も、運動会の準備の傍らで、マリーちゃんにお願いして訓練を続ける。
 身体強化(極限)に慣れたり、できる事を増やす事と、手加減にも慣れないといけないからな。
 武器が壊れてしまって、俺がまともに使えないのは、手加減を知らないからなのは間違いない。
 そのうち武器を使う……という事まで考えてはいないけど、せめて壊す事無く使えるようにはなりたいと思う。
 それくらいの加減は覚えないと、何かの拍子に魔物を殺してしまいかねないからな……。

「カモンシャドー! 今日は5体じゃ!」
「よし来い!」

 マリーちゃんがシャドーを出して、俺へと攻撃をさせる。
 神様と話してから今日までに、優勝を目指す事をマリーちゃんに伝えると、大賛成で応援してくれた。
 応援されてさらにやる気になった俺は、とりあえず避ける動作を学ぶため、マリーちゃんに多くのシャドーを出してくれるようお願いした。
 変な体勢で、変に力を入れて攻撃したりしてしまわないよう、まずは回避から……という考えだ。
 とりあえず、回避さえできればまず負けないだろう……という素人考えだから、戦闘訓練としてどこまで正しいのかはわからないけどな。


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