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第30話 神様からの試練

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「私です、神です」
「神様!? ……ってあの、こっちの世界に来る時、声だけで話したあの神様?」
「そうです。様子を見に来ましたよ、ユウヤ?」
「様子を? わざわざですか?」
「ええ。地球から異世界へ召喚された人間が、どう過ごしているのか……私は見守る事が義務なのです。……楽しそうですしね」
「……何か、ボソっと余計な事を言った気がしますが……?」
「気のせいです」

 きっと気のせいじゃないけど、気のせいということにしておこう。
 神様が相手だから、変な事を言って気分を害してもいけないしな。
 とにかく、俺達がどう過ごしているのか、神様がわざわざ様子を見に来たという事だろう……それにしても、相変わらず姿は見せないが……?

「どこにいるのかわかりませんが、姿を見せたりはできないんですか?」
「神は人の目に触れる事はできません。なので、貴方にも私の姿は見えないのです」
「……そうですか」

 まぁ、神様っていうのはそういうものなのかもな。
 声は闘技場中に響いているから、聞く分には困らないが、何処を見て話せば良いのか少し迷う。

「驚きましたよ、ユウヤ」
「ん? どうしてですか?」
「地球の人間に、魔王は邪悪な生き物として伝わっています。まさか、勇者として異世界で活躍をするのではなく、魔王の味方になるとは……」
「まぁ、確かにそうですね。でも、カリナさんにマリーちゃんの幻魔法が効かなかったおかげですよ。……つまりは、能力を授けてくれた神様のおかげですね」
「私はそこまで計算して能力を授けたわけではありませんが、ユウヤとカリナが健やかに過ごす役に立っているのなら、喜ばしい事です」

 カリナさんには、最初からマリーちゃんの幻魔法が効いていなかった。
 だから、魔王であるマリーちゃんを初めて見た時、俺は大男だと思っていたのが、カリナさんの目には最初から小さな女の子に見えていたって事だ。
 それが無ければもしかすると、俺達はマリーちゃんに味方する事が無かったのかもしれない。
 そうなると、俺達は魔王を倒して人間界へ行くか、魔王にやられてしまうかのどちらかだっただろうな。
 幻魔法を使ってる時は手加減ができないって言ってたから、やられてた可能性も高いだろうし。

「しかし、身体強化(極限)で闘技大会に出場……ですか」
「何かあるんですか?」
「いえ、魔物を相手にするのに、その能力が役に立つのは間違いありません。ですがもし、貴方がマリーを自分の子供のように思っているのであれば、全力で使うべきではありませんね」
「全力はいけないんですか? でも、そうしないと魔物とまともに戦えそうになくて……」
「今のままなら問題は無いでしょう。ですが、身体能力(極限)は、使えば使う程強くなる能力なのです。訓練をするため、その能力を頻繁に使うのであれば、加減を覚えた方が良いかと思いますよ?」
「加減……ですか……」

 使えば使う程強くなる能力……か。
 そういえば、カリナさんを助けようと魔王形態のマリーちゃんを殴り飛ばした時よりも、今の方が体が軽く感じる気がする……。
 それのおかげでもしかしたら、シャドーとの戦いも段々と避けるのが簡単になって行ったのかもしれないな。

「加減を知らず、全力で魔物と戦えば、武器を使わずとも容易に相手を殺してしまう事でしょう。……マリー……魔王は優しい子。父と仰ぐユウヤが臣下である魔物を殺してしまうと、魔王と娘の間で戸惑ってしまうかもしれません」
「魔物を殺す……」

 マリーちゃんが優しい子だというのは、俺も神様に同意するところだ。
 闘技大会で武器の使用をすると怪我をしてしまう、という理由で、禁止にしようとしてたくらいだしな。
 それだけ魔界に暮らす魔物を大事にしているのに、俺がもし何かの間違いで魔物を殺してしまったら、マリーちゃんは魔王として俺を裁くのか、娘として俺の味方をするのか……迷ってしまう事もあるかもしれないな。

「身体能力(強化)を使う事は、悪い事ではありません。私が授けたその力……すでに貴方の一部となっているはずですからね。ですが、相手を打ち倒す……という事に集中してしまうと……」
「力が強過ぎて、そうしようとは考えて無くとも魔物を殺してしまう……と?」
「そうです。その力がさらに強くなり、ユウヤが使う事に慣れれば、魔物すら物の数としない能力になる事でしょう」
「それだけの力が……気を付けて使わなければなりませんね……」
「はい。くれぐれも、魔王の前で臣下の魔物を殺す事は……」
「やってはいけない、ですね。わかりました、気を付けます」
「ユウヤならば、それが出来ると信じていますよ? ……もし、人間界の人間や魔物が入り込んで、魔王に逆らう事があれば、その時は全力で使っても良いのですけどね……」
「え……?」
「いえ、なんでもありません」

 何か後半に、神様が物騒な事を呟いてた気がするけど……なんでもないで誤魔化された。
 まぁ、良いか。

「それと、頑張っているユウヤにご褒美をあげましょう」
「急にどうしたんですか?」
「いえ、元々様子を見るついでに、この事を伝えに来たのです」

 誤魔化すため、急にそんな事を言い出したのかと思ったけど、本来の目的の一つだったみたいだ。
 でも、ご褒美って何だろう?
 俺にとってのご褒美と言えば……カリナさんと二人きりで色々と楽しむとかか……?
 今はマリーちゃんもいるから、三人で手を繋いで遊びに行く……とかもご褒美になるかもなぁ。

「ユウヤは、この魔界で開催される闘技大会に出場しますね?」
「はい」
「優勝賞品の事は聞いていますか?」
「聞いてます。えーと、マリーちゃん……魔王による繁栄の祝福だとか」
「そうです。本来祝福は神の領分……。ですが、魔王にはそれだけの力があります。しかしそんな魔王でも、その祝福はあまり強くありません。簡単に言うなら、微々たるもの……ほんの少し地位が向上する程度のものなのです」
「はぁ、そうなんですか……」

 神様が言うには、本来祝福は神様しかできない事らしい。
 考えてみれば、俺やカリナさんに能力を授けた事も、祝福のようなものだったのかなと思う。
 マリーちゃんが、そんな祝福を使う事ができるらしい。
 魔王ってすげぇ! と思うのか、神様じゃないから微々たるものでも当然……と思うのかだが……。
 マリーちゃんすげぇ! さすが俺とカリナさんの娘! だな、うむ。

「何を考えて、満足そうに頷いているのかわかりませんが……繁栄の祝福、その祝福を、優勝した時に私が完全版として授けましょう」
「神様が? ……良いんですか?」
「これくらいは、数多いる神々に許された権限です。気に入った者に試練を与え、それを乗り越えた場合のみに限り、祝福を与えるのです」
「成る程……」

 数多いる神々……というのは、日本で言う八百万の神様っていうのと似てるな。
 それと、神様が試練を与えるっていうのは、昔話なんかでも聞いた事がある。
 特に問題が無いって言うなら、その祝福をうまくもらいたい……とは思うけど……。

「優勝ですか……難しそうですね……」
「なに、身体能力(極限)を使いこなせば、難しい事ではありませんよ? 対戦相手を殺してしまわないように、気を付けなければなりませんが……」
「そうなんですか。まぁ、殺すというのは反則で失格になるので、優勝するためにも、手加減を覚えないといけないのですね」
「そういう事です」
「わかりました。頑張ります」
「期待していますよ。貴方とカリナが祝福を得て、魔王と共に繁栄する姿……楽しみにしています」
「はい!」
「それでは、私はこれで……」
「はい、ありがとうございました」
「……マ……を、我が……を、よろしくお願い……。あの……共……健やかに…………」

 身体強化(極限)の助言までくれた神様に、お礼を言う。
 そうして、元々気配も無かった声が、遠くへ行ってしまうような感覚と共に、闘技場には何も聞こえなくなった。

 最後に何か言ってたような気がするけど、途切れ途切れで、何を言っているのかはっきりとは聞き取れなかった。
 でも何となく、マリーちゃんの事をお願いされた気がする。
 ま、神様にお願いされなくとも、子供としてマリーちゃんの事は末永く見守って行くつもりだ。
 もう既にいなくなった後だけどなんとなく、闘技場を去る前に、神様がいたような気がする場所へ礼をして、部屋へと帰って行った。

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