20 / 57
第20話 身体強化(極限)とクワ
しおりを挟む「さて……次は石じゃ。あれをどかさないと、皆が怪我をしてしまうからな」
闘技大会で、怪我をしないよう武器に制限を付けたマリーちゃん。
やっぱり皆が怪我しないように配慮するため、石をどかせる気のようだ。
石で怪我をしてしまう魔物はやっぱり出るようだ……バハムーさんなんかは、大丈夫そうだけどな。
「……何だ、ユウヤ?」
「いえ、なんでもありません」
石で怪我をするどころか、簡単に踏み潰しそうだな……と考えながらバハムーさんを見てたら、睨まれてしまった。
怖い怖い……。
「マリーちゃん、石はどうやってどかすの? 結構広いから、手作業だと大変でしょう?」
「それはじゃ、カリナママ。こうするのじゃ。……ロックブレイクサンド!」
俺がバハムーさんに睨まれてビビっている間に、カリナさんとマリーちゃんが話している。
手を広げ、大きく魔法を唱えたマリーちゃん。
その瞬間、いたる所に落ちていた石が弾け飛び、砕けて砂になって行く。
……魔法って、便利だなぁ。
「どうじゃ? これで危険はないじゃろ?」
「そうだな……見る限りでは、もう石が見当たらない」
「すごいのねぇ、マリーちゃん」
「えへへへへじゃ」
「……さっきの雨といい……私達は、こんな事のできる魔王に挑んだんですね……死ななくて良かった……」
マリーちゃんの魔法によって、見渡せる範囲ではもう石は見当たらない。
全て弾けてバラバラになり、最後には砂になって地面に落ちた。
もしかすると、まだ小さな石くらいはあるかもしれないが、それでも、すでに怪我の危険はかなり少なくなっただろう。
尖った石とかもあったからな……転んで突き刺さったりしないのは安心だ。
クラリッサさんは、小さく呟いてマリーちゃんに怯えてる様子になったけど……確かにこんな事ができる相手に討伐とか……自殺行為のように思えるな。
「さて、じゃ。ユウヤパパ、後は任せたじゃ!」
「は?」
何を思ったか、カリナさんに撫でられて喜んでいたマリーちゃんが、急にどこからか大きなクワを取り出し、それを俺に渡す。
思わず受け取ったけど……これで何をしろと?
「バハムーと一緒に、辺り一面を耕すじゃ!」
「……いや、広すぎだろ!」
クワは俺の両手でやっと持てるくらいの大きさ、刃床部だけでも俺の体の半分以上だ。
……これ、持ってるだけでも結構重いんだけど……。
「ふんっ、軟弱な人間だな。その程度、軽々扱ってみせんか!」
「いや、そんな事言われても……そもそもこれで耕すって、運動場にするんじゃないのか?」
「今は水分を得て柔らかくなっているじゃ。けど、このまま放っておいたら、また乾いて固まるのじゃ。その前に耕して、柔らかさを保つようにするじゃ!」
「そういう事か……」
畑造りに似てるのかな? いや、農業には詳しくないが……あれは腐葉土だったりを混ぜるとか聞いた事がある。
今回は、運動会が開催される間だけ柔らかければ良いから、とりあえず……なんだろう。
耕して空気を含ませた土が、どれくらいでまた固まるのかは知らないが、短い期間だけならそれで十分なんだろう……多分。
そもそも、この世界……魔界の土と、俺達がいた世界の土とが、同じとは限らないからな。
今は黙って従い、水を含んでぬかるみのようになった地面を耕そう……とは思うんだが……。
「いや、俺がやる意味あるの? 広すぎて時間がかかりそうなんだが……?」
「大丈夫じゃ! きっと……」
「いや、きっとって……」
「マリーちゃん、マリーちゃん。ちょっと……」
「なんじゃ、カリナママ?」
俺が耕せる範囲なんて、たかが知れてる。
見渡す限りの範囲を人間一人でなんて、現実感がなさ過ぎてむしろ現実だと理解してしまうくらいだ。
それこそ、バハムーさんや、同じくらい大きな魔物にやらせた方がよほど早く終わるだろうに。
……農業機械でもあればな……まぁ、この世界にそんな物はないだろうけど。
とか考えていると、カリナさんがマリーちゃんを手招きして、何かを耳打ちしている。
何をしてるんだ?
「わかったじゃ! ユウヤパパ……」
「……何だ?」
カリナさんの耳打ちに頷き、てててっと近づいて来たマリーちゃん。
俺の顔を下から窺うように見上げている。
……若干、目が潤んでるような気がするが……?
「マリー、パパが頑張るところが見たいのじゃ……頑張ってじゃ、パパ!」
「頑張って、ユウヤさん!」
「……う」
「う?」
「うおぉぉ! 身体強化(極限)! どりゃぁぁぁぁぁ!」
「何だと!? くっ、私も負けていられぬ!」
マリーちゃんの言葉とカリナさんの応援……それに応えないと男が廃る!
クラリッサさんが首を傾げているのも無視して、すぐさま身体強化(極限)を発動!
無心になって、全力で巨大なクワを地面に向けて振り下ろす!
「うぉっしゃぁぁぁぁぁ!」
「くっ、人間のくせにやるではないか!」
「……ちょろいのじゃ」
「ユウヤさんはね、乗せられやすいのよ。そこが良いんだけどねぇ」
後ろで何か聞こえて来た気がするが、それにも構わず一心不乱にクワを振り続ける。
娘と奥さんに期待されちゃあ、全力でやるしかない!
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ」
「お疲れ様、じゃ。ユウヤパパ、すごかったのじゃ!」
「はぁ……はぁ……ははは、どんなもんだい!」
身体強化(極限)を使い、ひたすら地面を耕し続けて幾星霜……いや、数時間だが。
バハムーさんの協力もあり、一応見渡す限りの荒野を全て耕す事ができた。
これで、俺もカリナさんから惚れ直されたり、マリーちゃんから凄いパパだと思われるんだろう。
「……くっ……私がこれしきの事で……」
「バハムーさん……」
俺と一緒に、全力でクワを振るい続けていたバハムーさんは今、地面にぺちゃっとなって疲れ果てている。
……ドラゴンって、体柔らかいんだなぁ。
「ユウヤパパ!」
「なんだい、マリーちゃん?」
心持ち、格好良いパパを気取ってマリーちゃんの方へ向く。
さぁ、パパの胸に飛び込んできなさい、娘よ!
「次はあっちじゃ。今度は今よりも広いから、もっと頑張るのじゃ!」
「……は……?」
しかし、俺の胸に飛び込んで来たのは、無情な言葉だった……。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ギャォォォォォォォォォ!」
バハムーさんと二人、全力でクワを振り続ける……。
男って……娘とか嫁に弱い生き物なんだなと、心の底まで実感した。
「はぁ……はぁ……はぁ……やるなバハムーさん……」
「グルルルル……ユウヤ、お前こそ……」
マリーちゃんに指示された場所を、全てクワを使って耕した後の俺達……。
なんだか、バハムーさんと友情めいたものを感じた。
「父親って、ちょろいものなんじゃな?」
「こーら、そんな事を言っては駄目よ? お父さんは頑張ったんだからね?」
「はーいじゃ」
「……男って……悲しいですね」
疲れ果て、種族を越えた友情に芽生えた俺達を余所に、何やら話しているカリナさん達。
まぁ良いさ、これで少しは娘の役に立てたって事だからな。
……俺もカリナさんと同じで、娘ができた事に喜びを感じてるんだなぁ、と実感。
種族が違ったり、ただの口約束のようなものだったりするが、そんな事は気にしない!
「よーしじゃ、予定よりも早く整地が終わったじゃ、そろそろ城に帰るのじゃ!」
「はいよー」
「わかったわ」
「私、何もしてません……いる意味があるのでしょうか?」
「はっ、畏まりました!」
少しだけ休んで、マリーちゃんの号令と共に城へ戻るため、バハムーさんに乗っかる。
身体強化(極限)のおかげか、異常な量の運動をしても、疲れはそこまで感じていなかった。
さすがに、息切れくらいはしたけどな。
バハムーさんも、息を整えただけで、もう飛び立てるらしい。
ドラゴンって、タフなんだなぁ。
「あ、ユウヤは走って帰ると良いぞ?」
「いや、バハムーさん……さっきまでの友情は……?」
バハムーさんに乗った後で、本人に言われた一言は、友情がもろい物だという事を教えてくれた。
って、かなり城から離れてるのに、走って帰れるか!
0
お気に入りに追加
477
あなたにおすすめの小説
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
妖精王オベロンの異世界生活
悠十
ファンタジー
ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。
それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。
お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。
彼女は、異世界の女神様だったのだ。
女神様は良太に提案する。
「私の管理する世界に転生しませんか?」
そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。
そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる