18 / 57
第18話 バハムーさんに乗って運動場予定地へ
しおりを挟む「おはよう、じゃ。それは何なのじゃ? マリーもするじゃ!」
「あ、マリーちゃん。……そう言えば、一緒に寝たんだったわね」
キスをしている俺達を、観察していたマリーちゃんが興味深そうに言う事で、ようやく気付いたカリナさん。
「マリーちゃん? さっきのは、夫婦でする事なの。だから、娘であるマリーちゃんはしなくて良いのよ?」
「そうなのじゃ? わかったじゃ!」
意外と素直に、カリナさんの言う事を聞いてくれたマリーちゃん。
家族だけど、カリナさんとマリーちゃんはともかく、さすがに俺と……というのは問題だしな。
マリーちゃんがすんなり納得してくれて良かった。
「それじゃ、今日も料理を作るわよー。マリーちゃんが娘になったから、腕によりをかけて美味しい物を作るわね?」
「やったー、カリナさんの手料理だー!」
「あの不思議と美味しい料理じゃ……楽しみではあるのじゃが、やはり何故あれで美味しいのか不思議じゃ……」
「……私のも、忘れずに用意してくれますかね……?」
朝起きれば朝食。
それは、カリナお母さんが決めた絶対の規則。
これに反対しようものなら……考えたくない。
以前、時間がないため朝飯抜きで仕事に行こうとして、カリナさんにこっぴどく叱られて遅刻した記憶がある。
あの時、何を言っても聞いてくれなかったからなぁ……、
だから、どれだけ時間が無くても、仕事に行く途中でコンビニおにぎりを食べる事になっても、朝を抜かないようにしてる。
今は時間に追われる事も無く、余裕もあるから、美味しいカリナさんの手料理を頂く事に、もろ手を挙げて喜ぶだけだな。
「相変わらず、何故あの調理の仕方でこうなるのか不思議じゃが……美味しかったのじゃ、カリナママ!」
「良い子ねー。マリーちゃんが喜んでくれて、私も嬉しいわ」
「良かった……私の分もあった」
相変わらず、色々な物をまき散らして料理をするカリナさん。
それで美味しい物を食べられるんだから、文句を言う事はない。
カリナさんに頭を撫でられ、くすぐったそうに微笑むマリーちゃんを朗らかに眺めて、朝食後の満足感を味わうひと時。
なんだが……クラリッサさん、少しづつ根暗キャラになって来てない?
元々、こっちが素なのかな?
「今日は何かあるの、マリーちゃん?」
「今日は運動会の準備じゃ。そろそろ運動場を用意しないと、準備が進まないのじゃ」
何でも、運動会の会場になる場所は、城下町から出た場所にあるらしい。
まだ用意が進んでなくて、場所が決まってるだけ、という事らしい。
だから、準備を進めるための、運動場の準備をするようだ。
「へー、城下町の外か……どんなところなんだ?」
「基本的に荒野なのじゃ。作物を作っている場所以外、魔界はそんな場所ばかりだからじゃ」
「そうなのか」
まぁ、日の光が当たらない世界だからな……木が育って森になったり、草花が生えて草原になる事もほぼないのかもしれない。
「そういえば、この世界には、お日様が差すことは無いの?」
ふと、カリナさんが思いついたように言う。
確かに、それは今まで聞いた事がなかったな……実際、朝だろうと昼だろうと、明るくなる事が無いから、日が差して来る事は無いのかもしれないが、そう言う場所がどこかにあってもおかしくはない。
そうしないと、作物も育ちそうにないしな。
「お日様なんて、人間界にあるだけじゃ。魔界には存在しないじゃ」
「へー、そうなの」
いや、カリナさん、そうなのじゃなくて、もっと聞くべき事があるんじゃないかな?
生き物にだって、日の光が必要な事もあるかもしれないし……いや、魔物ばかりだから、必要ないのかもしれないが……。
「えっと……それで植物とかは育つのか? 作物を作っている場所はあるみたいだけど……」
「大丈夫じゃ。何もしなければ育たないじゃが、こうすれば良いじゃ。……サンライト」
「お?」
「ん?」
「魔法ですねー」
植物が日の光を必要としない、というわけではないらしい。
軽く魔法を唱えて、頭上に10センチ程度の丸い光の球を浮かべるマリーちゃん。
直接見るには少し眩しい光だけど、その光を使う事で、作物を始めとした植物を育てているんだろうな。
公園にあった植物も、こうやって管理していたのだと思う。
「これは軽く作った物じゃ。作物を育てる時は、この数倍はある光を浮かべるのじゃ」
今浮かんでる光は、10センチ程。
その数倍ある物を魔法で作って浮かべるのだから、太陽の光の代わりができるんだろう。
蛍光灯とかよりは断然明るいから、光を必要とする植物はこれで事足りているのかもな。
「黒い物が浮かんでるわねぇ……?」
「カリナママ? ……うぉ! 眩しいのじゃ!」
「どうしたんだ?」
カリナさんが首を傾げながら、浮かんでる光に手を伸ばした途端、マリーちゃんが目を塞いで悶えた。
直後に光は消えたけど……一体どうしたんだ?
「カリナママ……魔法全反射なのじゃ……。マリーに光が跳ね返って来たじゃ」
「そうなの? ごめんなさい。ただ黒い物が浮かんでたから、何かと思って……」
「そういえば、カリナさんは魔法を全て跳ね返すんだったっけ……」
カリナさんがこの世界に来る時、神様の声に授けられたのは、全魔法反射の能力。
常時発動だから、俺の身体強化(極限)と違って、魔法に触れるだけで全て反射してしまう。
「もしかして、マリーちゃんが魔法を使ったから、その使用者に全て跳ね返ったのか?」
「そのようじゃ。いきなり見ていた光が、目を焼くのかと思う程強くなったじゃ。驚いたのじゃ……」
「ごめんなさいね、マリーちゃん」
「仕方ないのじゃ。カリナママは、魔法に対して絶対的な防御を持っているのじゃ!」
ようやく眩んだ目が元に戻って、閉じていた目を開くマリーちゃん。
謝りながら、頭を撫でていたカリナさんを、許してくれるマリーちゃんだった。
結構、器が大きいよな、マリーちゃんって……体は小さいけど。
「それじゃあ、運動場まで行くのじゃ。バハムー!」
「はっ、ここに!」
城から外に出て、広場のような場所で、マリーちゃんが空に向かって叫ぶ。
一瞬のうちに飛来した大きな影が、マリーちゃんの前に降り立つ。
それは大きなドラゴン、バハムーさんだ。
運動場は城下町の外で、距離があるので、そこまでバハムーさんに乗って行くという事らしい。
「さぁ、カリナママ、ユウヤパパ。バハムーの背中に乗るのじゃ!」
「わかった」
「おじゃまするわね」
「……私は呼ばれなかった……」
マリーちゃんの号令で、背を向け伏せているバハムーさんの背中に、よじ登るようにして乗る。
ドラゴンに乗って空を飛ぶ、というのは不安だったけど、座ってウロコっぽい物を掴むと、安定感があって安心した。
クラリッサさんの名前が呼ばれなかったが……まぁ、マリーちゃんが、全員乗り込んだ事を確認して頷いてるから、忘れ去られてるわけじゃないと思うぞ? ……多分。
「マリー様……マリー様や他の方々はよろしいのですか……ユウヤを乗せるのは……」
「なんじゃ、嫌なのじゃ?」
「嫌というわけでは……しかし、これでは私がユウヤに屈服したようで……」
「嫌でないなら良しじゃ。さぁ、さっさと行くのじゃ!」
「……畏まりました」
俺を乗せる事を渋ったバハムーさん。
マリーちゃんの言葉で、渋々立ち上がる。
俺を好敵手として見てるらしい、という事だから、屈服させたように見られる事を躊躇したんだろうが……俺はそんなつもりないからね?
ドラゴンを屈服とか、意味がわからない。
しかし……婆やさんが言ってたのはこれかな?
はっきりとマリーちゃんが指示をすると、反対する事も無く、一応渋々ではあるが従う……もしかすると、どれだけ嫌がっても、マリーちゃんが命令すれば魔物達は本当に従うのかもなぁ、と感じた。
0
お気に入りに追加
477
あなたにおすすめの小説
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる