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魔物とぶつかる際のかく乱法
しおりを挟む「ただ、帝国民に対して監視などをしている正規兵、冒険者はまだ下の方の存在みたいでした」
「ほう?」
「さすがに帝都の皇帝がいる帝城には入れませんでしたが、正規軍の上の方……おそらく我々で言うところの、中間以上は別で動いていました」
中間……中隊長などの隊長クラスやその周辺の人達ってところかな。
下っ端の兵士達は、街に好き勝手に動いているという事か。
「その別で動いている帝国兵達や、一部高ランク認定されていた冒険者も、帝国内をある目的のために動き回っていたようですが、街などでは他の帝国兵と同じような振る舞いで。理性ある、軍人としてだけでなく人としてまともと言えるふるまいをしている者は、数える程の状態です」
「腐りきっているな。上が上だから仕方ないのだろうが。差し当たって、我が国は帝国の養分と言ったところか。そのような統治をしていれば、広がらぬ領地と増えぬ国民でいずれは廃れていくだろうしな。そんな帝国の力をこれ以上増やすわけにはいかん」
アテトリア王国は広大で、さらに豊かでもある。
国民も多いからそれを手に入れられれば、単純に国力の上昇と考えられる……まぁ、広い国の領地を手に入れるのは、まっとうに統治しようとしたら色々と面倒な事やデメリットなんかもあると思うけど……。
帝国の場合はそれを考えず、侵略先の国民は自国民と同じように虐げられて、ただいいように使われるだけだろう。
ハーロルトさんの話を聞くまでもなく、簡単に想像できていた事だけど、それでも今聞いた事からさらに具体的にそんな未来が推測できてしまう。
もちろん、帝国に負ければであり、こちらは負けて占領されるつもりは一切ないけど。
それは姉さんも同様だし、話しをしているハーロルトさんだけでなく、全力で備えるために動いてくれている人達皆そうだろう。
「して、今言ったある目的というのは?」
「はっ、魔物を集めております。帝国内外に関わらず広く。おそらく、魔物を利用する手段を得た事で、それを戦力にするつもりなのでしょう。核の復元により、統制とまでは言えませんが一部で魔物を利用した軍のようなものが編成されておりました。さらに言えば、寒村の一部……」
「どうした?」
「ハーロルトさん?」
途中で言い淀むハーロルトさんに、姉さんが訝しげに見る。
俺も首を傾げた。
実際に帝国の酷さを見ているハーロルトさんでも、言い淀む何かがあるんだろうか?
魔物を利用して戦力に、というのはある程度予想していた事だけど……。
「先程、比較的マシなのが寒村と申しましたが、それは帝国南部の事です。北部……つまり、あちらの帝都から見てアテトリア王国との間にある村の一部、寒村も含まれますが、そこは利用した魔物によって占領されつつあります」
「魔物に……だと?」
「実際に魔物が占領をしたわけではないようですが、村は魔物に囲まれ、そこに住んでいた者達は多くが連れ出され、一部抵抗した者や、利用価値がない者は……魔物に……」
「……そうか」
「……」
占領というかまぁ、元々帝国の村なんだからというのはあるけど……とにかく、魔物を使って村の人達をって事なんだろう。
はっきり言わなくても、魔物にどうされたのかはわかる。
利用されていなくても、無力な人を見つければ、魔物は襲い掛かかる事が多いからね。
絶対じゃないかもしれないけど。
「……その、連れて行かれた者達というのはどうなったか、わかるか?」
「いえ、そこまでは。魔物に占領された村の内部で行われていた事は、遠くから観察したこと以外はわからず、連れだした後の追跡も困難でしたので。申し訳ありません」
「気にするな。元々危険な任務だったのだ、こうして戻って来れた事で生きた情報を持ち帰れる。迂闊に危険に飛び込むわけにもいかんだろう」
「はい……」
情報部隊として、帝国内部で得られた情報を持ち帰るのが最優先だからね。
追跡したり、深く踏み込み過ぎてハーロルトさんが戻って来れなくなっては、得た情報はこちらに伝えられなくなるわけだから、仕方ない。
ちなみに、帝国へ偵察に行ったのはもちろんハーロルとさん一人ではなく、複数の部隊というか部下を引き連れての事だったけど、戻って来たのはハーロルトさんを含めて数人程度。
他は、閉ざされた国境を越えるのが難しいと判断し、帝国内部に今も潜入している状態だとか。
数が多くなると、国境を越えるのも難しくなるから、数人を連れてハーロルトさんは戻って来たらしい。
帝国内部に残った人達は、いつかに備えて情報収集は続けるけど、できるだけ戦争に巻き込まれないよう、危険な目に遭わないよう、安全を最優先でとの事だ。
ハーロルトさんが信頼している人達だそうで、優秀なんだろうけど、その人達の無事を願うばかりだ。
「あと、これは朗報と言えるのか微妙ではありますが……」
「む?」
「朗報ですか?」
複雑そうな表情のハーロルトさん。
ハーロルトさん自身もはっきりしない様子ではあるけど、少しでもこちら側に有利な情報と言うのがあるなら嬉しいところだ。
「全てを見たわけではないので、おそらくという段階ですが……魔物に対しては、大まかな指示、命令鹿できない様子です」
「ふむ……」
「国境付近、帝国側ですが。そちらでは当然向こうの兵士団がいましたが、それだけではなく魔物も多く見張りとして使っていました。ですが、その魔物も人を見れば襲うなどをするだけで、人の見張りのような役目はになっているようには思えません」
「……魔物が無関係な人に群がれば、そこに怪しい者がなどがいる。というだけの見張りという事か」
「そのようです」
確か、以前ブハギムノングの鉱山で復元する過程で、特定の人を襲わないようになどという事ができるって聞いたっけ。
つまりそれを利用して、魔物が襲う相手は襲わない対象ではない……として、取り締まっているとかかもしれないね。
「それとですが、利用しているのを見かけた魔物の全てが、今のところ知性があると言われている魔物ではありませんでした」
ハーロルトさんによると、帝国に潜入して使われている魔物を見た限りでは、オークなどのランクとしては低い魔物の数が多く、そして本能で動くタイプばかりだったとの事だ。
「群れる程度ならまだしも、一応の集団行動ができるゴブリンすら見かけませんでした」
「ゴブリン……しかし奴らは以前、ヘルサルに対して大量に押し寄せたが……」
「……もしかしたらですけど、レッタさんがいないからかもしれません」
「どういう事だ、リク?」
姉さんやハーロルトさんからの視線を受けながら、推測にはなるけど思いついた事を話す。
人ほどではないかもしれないけど、一応ゴブリンには知性があるとされている……まぁ、本当にあるのかどうか議論が交わされていたりするらしいけど、分類としては今のとこある方にされているってところだね。
ともあれ、そういった知性のある魔物は、復元した後に上手く命令をする事ができないのかもしれない。
元々、レッタさんは魔力誘導で大まかに魔物の動かせるらしいから、本当はそれを利用して細かい指示ができるかはわからないけど、多少は知性のある魔物も動かせる見込みだったんだろうと思う。
まぁヘルサルに押し寄せたゴブリンは、結局増えすぎて暴走というか、勝手に外に出てって事だったみたいだけども。
「帝国内で、反抗されないために知性より本能を優先する魔物を利用しているんじゃないかなって。大まかな指示しか受け付けないなら、ただ戦わせるならまだしも、村を占拠とか見張り代わりに置いておくのなら、そちらの方が楽でしょうし」
「国内だからこそか。だがそれなら、ハーロルトの情報はあまり朗報とは言えんか……」
「いえ、そうとも言えません。王都に押し寄せた魔物や、ルジナウムでの事がありますから」
「ほぉ?」
「王都に押し寄せた魔物の中には、知性がある魔物もいましたし、ワイバーンもそうです。そしてルジナウムでも……特にルジナウムは、遠隔で街に向かうように操作されていました。これは大まかな指示とも言えますけど、それだけじゃありません」
ワイバーンが知性を持っているというのは、リーバー達と関わってもはや疑いようがない。
そもそも本能だけで動いていたら、センテで魔物を空輸して前線に送るなんて事はやれないだろうしね。
まぁこれはレッタさんが、直接魔力誘導で操作していたからっていうのもあるんだろうけど。
ともあれ、王都に押し寄せた魔物や、ルジナウムでの事……さらに言うなら、エルフの村近くでひたすら大量に魔物を召喚し続けていた、サマナースケルトンの事を考えると……。
「何かしら、知性のあるなしに関わらず、魔物が標的を決定させるものがあるんだと思います。レッタさんの魔力誘導以外でです」
「確かに、状況を考えるとそうか。通常であれば、近くにいる別種族の魔物を襲うなど、王都や街などを目指さずにその場で争い始めてもおかしくない」
あとサマナースケルトンは多分、召喚する事が本能だとすると、標的に対して魔物を召喚し続けて襲わせるという行動だったんだと思う。
「だが、それだけだとやはり朗報にはならんぞ? 結局、魔物を使ってこちらに戦いを仕掛ける事に変わらん。そして、知性のある魔物は本能のみで戦う魔物と違い、小賢しく動いて厄介にもなる。一部、本能の実で全てを蹂躙するような魔物もいるがな」
全てを蹂躙というのは、ヒュドラーとかレムレースみたいな魔物の事だろう。
レムレースは、戦った感覚から知性を持っていそうではあったけど、魔法も使うし。
「おそらく帝国は、大量の本能で動く魔物と知性で動く魔物を混ぜてぶつけて来ます。例えばですが、小賢しい魔物と、ただ突撃するだけの魔物。軍として考えた時に脅威なのはどちらですか?」
「それは、小賢しい魔物の方だろうな」
「小賢しいかどうかはともかく、軍としてならば部隊をまとめ、命令を遂行するためにその場で効果的な考えをして動く方が、脅威になるでしょう」
「そうですね。それは、これまでの戦いでもある程度示されています」
ルジナウムとかは特に、軍隊の連携と言うにはほど遠いかもしれないけど、多種多様な魔物が入り乱れておきながら、俺の隙を突くように魔法が飛んできたりしたからね。
同種族ならまだしも、複数種類の魔物がいるのだから、司令塔に近い役割の魔物……つまり、それなりに知性のある魔物がそうしていたのはほぼ間違いないと思う。
「その魔物たちは、標的に向かい、さらにそれを邪魔する者を排除しようとします。ただその標的をなくせば、知性を持っているからこそ混乱する可能性はありませんか?」
「それは、確かにな」
「軍単位、部隊単位でもですが、一時的にでも混乱し、足を止め攻撃の手を緩ませるかもしれません。先頭において集団というのは命令や指示を遂行するために動いていますから。そのための部隊、軍でもあります」
「ですよね? つまり、国内で使われていないという事は、国外……こちらと戦う時にほとんどが投入されるはずです」
帝国がどれだけ、どんな種類の魔物の核を入手して、復元しているのかはわからないけど。
でも、絶対に知性のある魔物だって復元するはずだ。
そして知性があるからこそ、混乱させることができる。
おそらくだけど、その知性で何か考えないようにただひたすら標的に向かえとか、そんな指示を出されているだけだろうから。
多分これが、知性のない魔物ばかり帝国内で利用している理由だろう。
知性がある方が指示などは理解しやすいだろうけど、その分使う側も考える必要があるからね。
村などを襲わせる、占領だけして村の人に対してなどの細かい事は帝国の人が対応する、国境付近に立たせて見張りっぽい事だけをさせるなどは、単純命令だけでいいし。
「本能がある魔物は、標的がなくなってもただ暴れるだけで手が付けられないかもしれませんが、知性があれば動きが止まる事だってあるでしょう」
「言っている事はわかるが、しかしその標的をなくすというのは……まさか、我々の存在をなくすという事ではあるまい?」
「もちろんです。帝国からすると、標的はこに国そのもの。もしくは陛下やその場における王国側の指揮官とかかもしれませんが……魔物にそんな事は関係ありません。王都に魔物が押し寄せた際の事を思い出して下さい。おそらくあれは、バルテルを標的と認識して押し寄せた物と思います。正確には、バルテルの持っていた道具、でしょうか」
「バルテル……?」
「バルテルは、凶行に及んだと同時に持っていた道具を使っていたようですね?」
「う、うむ。よくはわからんが、何か魔法具を使っていたな。魔力を込めていたようだが……あの後、調べてもよくわからなかった。何かしらの魔法具である、という事くらいがわかった程度だな」
チラッとだけ聞いていて、ほとんど話題にもならなかった事だけど、そうらしい。
まぁ魔法具がなんの効果があるのかわからず、それが姉さんを人質にするなりでの事で役に立った様子ですらないので、完全に捨て置かれた事だけど。
「ルジナウムでも、ブハギムノングから魔法具を通して魔力を伝え……いえ、あれはむしろ魔力が途切れたから、ですかね。ともかくそうして合図を送り、標的を示したわけです。つまり、標的となる何かを仕込むなりしているわけで、それを探し出して壊せば、魔物は標的を失って混乱するんじゃないかって」
「つまり、あの凶行に及ぶさなか、バルテルが使ったあの魔法具は魔物を動かす合図であり、目標にさせるものだったわけか」
「あれだけの魔物全てに、外から見つからないようこっそり指示を出すのは簡単じゃありません。でも、そうした何かの合図や標的を目指すように、最初から組み込まれていたとしたら……」
「知性のある魔物はそれを認識し、本能で動く魔物は知性ある魔物に従うよう動き出す、か」
「多分ですけどね」
実際にやった事がないから、確証がない。
集団で動く魔物にはこれまで何度も対処してきたけど、基本は力押しというかただぶつかって戦って倒すというだけだったからね。
「あくまでも、もしかしたらそうなる可能性があるんじゃないか、と思っただけで……これなら、ハーロルトさんが持ち帰ってくれた情報も、こちら側としては朗報となるんじゃないかと。知性のある魔物が確実にこちらにぶつけるために用意されている、と考えられるわけですし」
「ふむ、一考の価値はあるかもな。これまでに一番押し寄せる魔物と戦ってきたのはリクなのは間違いない。そのリクが考える事だ、完全に的外れにはなるまいよ」
まぁ、確か俺達が一番戦っているのは間違いないけど、センテで以外は偶然その場に居合わせたという状況ばかりだったんだよね。
センテの時は、ロジーナとレッタさんが明確に俺を狙って来ていたけど。
まぁあれに関しては、帝国側の意思よりもロジーナとロジーナさんの独断みたいな部分強かったから、例外かな――。
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