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なんだかんだあって建物内の案内開始
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前書きとしまして
近況ボードにも書いたように、本日より一週間に一話の更新となります。
更新頻度が下がるため、一話あたり6000文字前後での投稿です。
最新話投稿は、毎週日曜17:00を予定しております。
以下本編となります――――――
「もう、親方! リク様が困っていますから、そのくらいにして下さい!」
「む、お、おぉ! すまなかったな、ついつい会えた嬉しさで……」
「い、いえ……気にしていませんから」
親方さんを呼びに行ってくれた人……多分職人さんかな? その人に止められて、ようやく親方さんが俺の手を放してくれた。
ちょっと手が赤くなっているけど、感激していた様子なので親方さんには気にしていないと首を振るけど、苦笑いになってしまったのは許して欲しい。
「申し訳ありません、リク様。親方は、ずっとリク様に一度会ってお礼が言いたいんだって言っていまして。実際に会えて嬉しかったんだと思います」
「お、おう。その通りなんだし、リク様にも言ったが……改めて言われるとなんかモニョモニョするな」
「親方はずっとモニョモニョしていて下さい。モニョモニョが何かわかりませんけど、それくらいがちょうどいいです。リク様相手に失礼ですよ?」
「いやそんな、俺相手に失礼って事もありませんから、本当に気にしないで下さい」
手を振るだけと言えばそれまでだけど、魔力解放していない状態でも痛みを感じる程というのは、珍しい体験だったからね。
こちらに来てからというもの、本来なら痛いんだろうけど痛くない、という事はあってもちょっとしたことでの痛みみたいなのがなかったから。
……痛みを感じて喜ぶ趣味はないから、あのまま続いていたらどうしようとは思ったけども。
ともあれ、親方さんを止めてくれた人は俺と同年代っぽいけど、小柄で中性的なその人は、声も中性的だ。
男の子でも女の子でも通用しそうな容姿だね、お姉様方に人気が出そうな感じだなぁ。
本人は気にしているかもしれないし、俺から男女どちらか聞くのはやめておこう。
「細けぇ事は気にするな、男らしくないぞ?」
「僕は女です! 男らしくなんてなるつもりはありません!」
おぉ、僕っ娘だった……。
というか、俺が聞くまでもなく男女どちらかが判明した。
ずっとどっちなんだろう、と考えているのもあれなので早いうちにわかって良かった、かも。
「……細かい事を気にするのは女らしくないぞ?」
「違います! 親方は男でも女でも自分が細かい事を気にしないからどっちでもいいんでしょうけど……とにかく、リク様はお客様なんですから、もう少し気を遣って下さい! まったくもう、親方はいつもこうなんだから……」
プンプン怒っているけど、親方さんの方は苦笑いはしていても堪えている様子には見えない。
なんというか、いつものやり取りって感じなんだろうな。
体格差も凄くあるけど、上下関係で押さえつけたりせずいい関係なんだろう……上司と部下というよりは、親子のようにすら思えた。
いやまぁ、実際に親子という可能性はあるか、似てはいないけど。
「相変わらずみたいね。えっと、建物の中をリク君に案内したいんだけど……それと、細かい費用関係の話もしたいわ」
「あ、はい! まだ作業中な事もあり、入れないようになっている所もありますが、問題ありません。費用関係は親方だけだと話にならない事もありそうですから、担当を呼んで参ります。少しお待ちください!」
「よろしくお願いするわね」
「俺だけでは話にならないとは……あいつ、ものすごく辛辣だな……」
「ははははは……」
走っていく女性職人さんをちょっぴり落ち込み気味で見送る親方さんに、思わず笑ってしまう。
モニカさんも俺と似たような物だった……なんとなく、マックスさんとモニカさんのやり取りにも似ている部分もあるなぁ。
でも確かに、弟らしいフォルガットさんより一回りか二回りほどテンションの高い感じだったので、むしろ少し落ち込んでいる方が、落ち着いた感じも出ていいかもしれない。
まぁ、あぁいう豪快さみたいなのは、部下を持つ人にとっては大事なのかもしれないけど……ヴェンツェルさんとかもそうだしね。
「というかマティルデさん、費用関係の話っていうのは?」
「あぁ、それなんだけど……」
建物にかかった費用に関しては、全て終わっていると思っていたので、マティルデさんに聞いてみる。
マティルデさんによると、建物を建築する事に関してなどはもうかかる費用などの話は済んでいるらしいけど、内装の一部や家具や備品に関して細々とした事に関してがまだらしい。
先程親方さんが来る前にモニカさんから聞かれた、壁などの色に関してもそういう事だったんだろう。
成る程と納得し、担当……多分経理関係をしている人が来るのを待った――。
「こちらは会議室になります。今は何もありませんが、真ん中に大きなテーブルを置く予定です」
その後、経理担当らしい親方さんそっくりな筋骨隆々とした女性が連れて来られ、その人と親方さんを交えて費用関係の話をと、マティルデさんが……ではなく、モニカさんが残った。
実際に使う側としての意見が必要かもしれないので、という事らしい。
ちなみに、経理担当の女性は親方さんの娘さんらしくて負けず劣らず大柄だったけど、それはブハギムノングで見慣れていたから、特に驚く事はなかった。
モニカさんはビックリしていたけどね。
さらに言うなら、その娘さんの娘さん、つまり親方さんから見ると孫にあたるのが、今案内してくれている女の子で、さっき親方さんに辛辣な事を言いつつ、止めてくれた人だね。
うーむ、あのお爺さんである親方さんとその娘さんから、こんなに線が細く中性的な女の子が生まれるのは、なんというか遺伝の妙みたいなのを感じるね。
父親や、その他の血縁者がそういうタイプで、そちらに似ているだけかもしれないけども。
というわけで、女の子……立派に働いているようだから女性かな。
ファーラさんと言うらしいけど、その人とマティルデさんと俺とで、建物内の見学だ。
もっぱら、ファーラさんが俺やマティルデさんを案内してくれている。
マティルデさんも建物の図面などを見ていて、一応は把握しているみたいだけど、中に入るのは俺と同じく初めてなので、内部を熟知している人がいてくれるのはありがたい様子。
年齢不肖で色気を振りまく大人の女性、といった風なマティルデさんだけど、新しい部屋を案内してもらうたびに「へぇ~」と大きめに口を開けて新鮮な物を見ている様子なのは、なんとなく女の子っぽくも見えて面白かった。
……俺としては、モニカさんのそう言った反応を見てみたいと思うけどね。
それは後でのお楽しみにしておこう、あるかわからないけど。
「ここは、リク様専用室の予定になっています。あ、隣もそうですよ」
「……えっと、二部屋あるのも驚きなんですけど、大きすぎませんか?」
「ふふー、リク君が王城で過ごす部屋は私も見ているからね。あれに負けないくらいの部屋を用意するようにしたのよ」
と、何故か誇らしげに大きな胸を逸らすマティルデさん。
ただそうしていると色気というよりも少女っぽさが前面に出ていて、ちょっと幼く見えるのは目の錯覚か何かだろうか。
普段からそんな雰囲気だったら、本人にとっては不本意らしい女狐なんて呼ばれ方もされなかっただろうになぁ……あざとさみたいなのはあるかもしれないけど。
まぁそれで中央冒険者ギルドのギルドマスターになれたかどうかは、わからないし今は関係ないか。
「こんなところで変な対抗心を持たないで下さいよ……」
案内され、何故か誇らしげなマティルデさんに溜め息混じりで言いつつ、改めて部屋の中を見る。
壁際に棚が備え付けられている以外は、まだ他の家具や備品は入れられていないけど、物が少ないからかやけに広く感じる。
正確に見比べていないけど、多分王城で用意されて今現在も使っている部屋よりも大きいと思う。
しかもそのうえ、さらにもう一つ俺が使う部屋が用意されているとは……。
「というか、二つも部屋っているんですかね?」
「用途はリク君に任せるわ。ここはリク君の城とでも言える場所。家と言ってもいいんじゃないかしら」
クランの拠点としか考えていなかったけど、図らずもこちらの世界で家を持ってしまった……。
いや、いい事だとは思うんだけど。
「まぁ、基本的には片方は仕事……クランに関係する事をするための部屋で、もう一つは寝室なり自分なりの部屋って思えばいいわ。自分だけの部屋ってやっぱり大事なのよ」
「半分以上、仮設の冒険者ギルドに寝泊まりしているようなマティルデさんに言われると、説得力がありますね」
「自分一人に慣れる事ができるって、すっごく大事だと今実感しているわよ……はぁ」
疲れたように溜め息を吐くマティルデさん。
王城敷地にある仮設の冒険者ギルドの建物に、ほぼ常駐しているマティルデさんは、忙しくて仕事に追われていたんだよね。
一応、王城内にも部屋が用意されているから、一人に慣れないって事はないんだろうけど……広い王城とその敷地、仮設ギルドから部屋に戻るにも移動するだけで体感十分以上かかるから、それならと仮設ギルド内で寝泊まりしていると聞いた。
ちょっと状況は違うかもしれないけど、そんなマティルデさんだからこそ言葉の重みみたいなものがあるような気がする。
……まぁ今は少し落ち着いたみたいだから、こうして案内してくれているんだけど。
「えーっと、二つの部屋は同じ広さなんですか?」
「いえ、こちらが大きく、もう一つは少し小さな部屋になっています」
「そうね……もう片方の部屋は、リク君が王城で使っている部屋を僅かに小さくした感じかしら。実際に見てみないとわからないかもね」
「それでは、ご案内いたします。こちらです……」
少しだけ小さいらしいもう一つの部屋にファーラさんに案内してもらう。
俺専用らしい部屋は建物の四階に用意されていて、いくつかある部屋の内二つ……一つの部屋が広いからか、扉の間隔も広い。
部屋同士が繋がっている事はなく、それぞれ独立してお風呂場など、炊事以外は部屋内で完結できるようになっているみたいで、それも間隔を開ける要因になっているんだろう。
そして、案内されたもう一つの部屋……。
「うーん、小さいとは聞いていましたけど、でも王城の部屋より広々としている気がします」
「それは、まだ部屋の中に何もないからよ。ベッドとか椅子とか……テーブルとかもね。そういった物を置いたら、感じ方はまた変わるわ」
確かによく部屋を見てみると、王城の部屋より少しだけ狭い気が……やっぱりしないね。
まぁ何かしらの大きな家具を置けば、マティルデさんの言うように違いがわかるんだろうけど。
部屋の中は、前の部屋と同じく壁際に木製の棚がいくつか置かれているだけだった。
椅子やテーブルなどはまだこれからか、俺が自分で選んで運び込むとかだろうね。
「というか、ベッドはいらないと思うんですけど……」
「そんな事ないわよ。ほら、リク君がこっちで寝泊まりする事もあるだろうし、なんならここを自分の家だと思って過ごしてもいい。それこそ、リク君が気になる子を連れ込んだりもできるしね。ほら、私とか……?」
「お二人は、そんなご関係だったのですか……? 確かに、王都の冒険者ギルドのマスターは、そう言った噂が絶えない方ではありますが……」
マティルデさんの言葉に、俺よりもむしろファーレさんの方が先に反応していた。
驚きとかよりも、どちらかというと興味深いという感じだったけど。
「いやいや、そんな事ありませんから!」
とりあえず、あらぬ誤解や想像をされてしまいそうなので、慌てて否定しておく。
こういう時、実際はどうあれ年齢不肖で妙な色気を感じさせる女性って卑怯だよなぁ……退廃的な想像をさせてしまいそうだし、しそうになる。
……一応、俺も男だしね。
「あら残念。リク君からのお誘いだったら、いつでも歓迎なのに」
「……そんな事を言っているから、女狐なんて言われるんですよ?」
「ぐっ! リク君も中々言うわね……」
本人が本気かどうかはともかく、それで勘違いする人もいるだろうし、ファーレさんのように傍で見ている人からすると、噂通りの人にしか見えないからね。
「ファーレさんも言っていますけど、そう言った噂に発展しかねませんから。できれば俺を巻き込まないで下さい。それに、あまり女狐って言われたくないんでしょう?」
「……結構辛辣ね。まぁ確かに、自分が意図して流していたりするならまだしも、そうじゃないから言われたくない呼び方だけど……でも、リク君相手なら構わないのだけどね……」
「ん?」
最後は声が小さかったのでよく聞き取れなかったので、首を傾げる。
ファーレさんも俺と同じように首を傾げているので、向こうにも聞こえなかったようだ。
「いえ、なんでもないわ。はぁ、私の春は遠いってやつかしら……」
溜め息を吐くマティルデさんはともかく、女性を連れ込む云々はあまり考えないようにして、部屋の使い道を想像してみる。
ベッドやリラックスするためのソファーとかはまぁ、この部屋に泊まる事もある可能性を考えると、必要かもしれないなぁ。
とはいえ、マティルデさんも今はそうだけど王城には姉さんもいるから……やっぱりここよりも今は王城で過ごしていた方が色々とスムーズだと思う。
建物自体、王城から結構離れているから、いちいち往復して連絡を取り合うのも手間だし。
それを言ったら、毎日通うのも手間と言えば手間なんだけど……うーん。
「悩んでいるようね。そうよね……自分で自由にしていい部屋が増えると、どうしていいか迷うわよね。それも楽しいんだけど」
「まぁ、はい」
なんとなく、さっきのやり取りがなければマティルデさんの言葉はその後に「どんな女性を連れ込むか、とかね?」なんて言葉が続きそうな気がしたけど、気のせいという事にしておこう。
「ただ俺だけ部屋が、しかも二つもあるっていうのはどうなんだろうなぁ、とも思いますけど……」
「安心して、モニカちゃんや他の人達……えっと、リク君は『ニーズヘッグ』ってパーティだったわね。そのパーティメンバーには、それぞれ部屋があるわ。クラン創設メンバーとしてね」
「モニカさん達にもあるんですね。それならまぁ、良かったってところでしょうか」
俺だけ部屋があると言っても、多分モニカさん達は文句とかは言わない気がするけど、だからってそれでいいとは思わないからね。
他の人達にもあるなら良かった。
「パーティリーダーだから、リク君は二部屋ってわけね。他には……」
「この最上階はリク様達のパーティメンバーが過ごすフロアとして……」
マティルデさんとファーレさんによると、四階は基本的に俺達のパーティのためのフロアなのだそうだ。
四階の部屋はそれぞれで完結しているから、家というよりもホテルに近いかもしれない。
とはいえ、俺達次第だけど他の人は立ち入り禁止というわけでもなくて、事務的な仕事をするための部屋もあるんだそうだ。
ちなみに、部屋の前に案内してもらった会議室などは三階、事務方や参加冒険者の人達、つまりクラン員が使える部屋などは二階に集中している。
厨房や食堂は一階で、食堂は玄関ホールと同じくらいの広さがあって、クラン員の多くが集まれるようになっているようだね。
想定する用途というか、機能を階ごとに分けて集中させているのは、なんというか施設的な部分が強く出ている気がした――。
近況ボードにも書いたように、本日より一週間に一話の更新となります。
更新頻度が下がるため、一話あたり6000文字前後での投稿です。
最新話投稿は、毎週日曜17:00を予定しております。
以下本編となります――――――
「もう、親方! リク様が困っていますから、そのくらいにして下さい!」
「む、お、おぉ! すまなかったな、ついつい会えた嬉しさで……」
「い、いえ……気にしていませんから」
親方さんを呼びに行ってくれた人……多分職人さんかな? その人に止められて、ようやく親方さんが俺の手を放してくれた。
ちょっと手が赤くなっているけど、感激していた様子なので親方さんには気にしていないと首を振るけど、苦笑いになってしまったのは許して欲しい。
「申し訳ありません、リク様。親方は、ずっとリク様に一度会ってお礼が言いたいんだって言っていまして。実際に会えて嬉しかったんだと思います」
「お、おう。その通りなんだし、リク様にも言ったが……改めて言われるとなんかモニョモニョするな」
「親方はずっとモニョモニョしていて下さい。モニョモニョが何かわかりませんけど、それくらいがちょうどいいです。リク様相手に失礼ですよ?」
「いやそんな、俺相手に失礼って事もありませんから、本当に気にしないで下さい」
手を振るだけと言えばそれまでだけど、魔力解放していない状態でも痛みを感じる程というのは、珍しい体験だったからね。
こちらに来てからというもの、本来なら痛いんだろうけど痛くない、という事はあってもちょっとしたことでの痛みみたいなのがなかったから。
……痛みを感じて喜ぶ趣味はないから、あのまま続いていたらどうしようとは思ったけども。
ともあれ、親方さんを止めてくれた人は俺と同年代っぽいけど、小柄で中性的なその人は、声も中性的だ。
男の子でも女の子でも通用しそうな容姿だね、お姉様方に人気が出そうな感じだなぁ。
本人は気にしているかもしれないし、俺から男女どちらか聞くのはやめておこう。
「細けぇ事は気にするな、男らしくないぞ?」
「僕は女です! 男らしくなんてなるつもりはありません!」
おぉ、僕っ娘だった……。
というか、俺が聞くまでもなく男女どちらかが判明した。
ずっとどっちなんだろう、と考えているのもあれなので早いうちにわかって良かった、かも。
「……細かい事を気にするのは女らしくないぞ?」
「違います! 親方は男でも女でも自分が細かい事を気にしないからどっちでもいいんでしょうけど……とにかく、リク様はお客様なんですから、もう少し気を遣って下さい! まったくもう、親方はいつもこうなんだから……」
プンプン怒っているけど、親方さんの方は苦笑いはしていても堪えている様子には見えない。
なんというか、いつものやり取りって感じなんだろうな。
体格差も凄くあるけど、上下関係で押さえつけたりせずいい関係なんだろう……上司と部下というよりは、親子のようにすら思えた。
いやまぁ、実際に親子という可能性はあるか、似てはいないけど。
「相変わらずみたいね。えっと、建物の中をリク君に案内したいんだけど……それと、細かい費用関係の話もしたいわ」
「あ、はい! まだ作業中な事もあり、入れないようになっている所もありますが、問題ありません。費用関係は親方だけだと話にならない事もありそうですから、担当を呼んで参ります。少しお待ちください!」
「よろしくお願いするわね」
「俺だけでは話にならないとは……あいつ、ものすごく辛辣だな……」
「ははははは……」
走っていく女性職人さんをちょっぴり落ち込み気味で見送る親方さんに、思わず笑ってしまう。
モニカさんも俺と似たような物だった……なんとなく、マックスさんとモニカさんのやり取りにも似ている部分もあるなぁ。
でも確かに、弟らしいフォルガットさんより一回りか二回りほどテンションの高い感じだったので、むしろ少し落ち込んでいる方が、落ち着いた感じも出ていいかもしれない。
まぁ、あぁいう豪快さみたいなのは、部下を持つ人にとっては大事なのかもしれないけど……ヴェンツェルさんとかもそうだしね。
「というかマティルデさん、費用関係の話っていうのは?」
「あぁ、それなんだけど……」
建物にかかった費用に関しては、全て終わっていると思っていたので、マティルデさんに聞いてみる。
マティルデさんによると、建物を建築する事に関してなどはもうかかる費用などの話は済んでいるらしいけど、内装の一部や家具や備品に関して細々とした事に関してがまだらしい。
先程親方さんが来る前にモニカさんから聞かれた、壁などの色に関してもそういう事だったんだろう。
成る程と納得し、担当……多分経理関係をしている人が来るのを待った――。
「こちらは会議室になります。今は何もありませんが、真ん中に大きなテーブルを置く予定です」
その後、経理担当らしい親方さんそっくりな筋骨隆々とした女性が連れて来られ、その人と親方さんを交えて費用関係の話をと、マティルデさんが……ではなく、モニカさんが残った。
実際に使う側としての意見が必要かもしれないので、という事らしい。
ちなみに、経理担当の女性は親方さんの娘さんらしくて負けず劣らず大柄だったけど、それはブハギムノングで見慣れていたから、特に驚く事はなかった。
モニカさんはビックリしていたけどね。
さらに言うなら、その娘さんの娘さん、つまり親方さんから見ると孫にあたるのが、今案内してくれている女の子で、さっき親方さんに辛辣な事を言いつつ、止めてくれた人だね。
うーむ、あのお爺さんである親方さんとその娘さんから、こんなに線が細く中性的な女の子が生まれるのは、なんというか遺伝の妙みたいなのを感じるね。
父親や、その他の血縁者がそういうタイプで、そちらに似ているだけかもしれないけども。
というわけで、女の子……立派に働いているようだから女性かな。
ファーラさんと言うらしいけど、その人とマティルデさんと俺とで、建物内の見学だ。
もっぱら、ファーラさんが俺やマティルデさんを案内してくれている。
マティルデさんも建物の図面などを見ていて、一応は把握しているみたいだけど、中に入るのは俺と同じく初めてなので、内部を熟知している人がいてくれるのはありがたい様子。
年齢不肖で色気を振りまく大人の女性、といった風なマティルデさんだけど、新しい部屋を案内してもらうたびに「へぇ~」と大きめに口を開けて新鮮な物を見ている様子なのは、なんとなく女の子っぽくも見えて面白かった。
……俺としては、モニカさんのそう言った反応を見てみたいと思うけどね。
それは後でのお楽しみにしておこう、あるかわからないけど。
「ここは、リク様専用室の予定になっています。あ、隣もそうですよ」
「……えっと、二部屋あるのも驚きなんですけど、大きすぎませんか?」
「ふふー、リク君が王城で過ごす部屋は私も見ているからね。あれに負けないくらいの部屋を用意するようにしたのよ」
と、何故か誇らしげに大きな胸を逸らすマティルデさん。
ただそうしていると色気というよりも少女っぽさが前面に出ていて、ちょっと幼く見えるのは目の錯覚か何かだろうか。
普段からそんな雰囲気だったら、本人にとっては不本意らしい女狐なんて呼ばれ方もされなかっただろうになぁ……あざとさみたいなのはあるかもしれないけど。
まぁそれで中央冒険者ギルドのギルドマスターになれたかどうかは、わからないし今は関係ないか。
「こんなところで変な対抗心を持たないで下さいよ……」
案内され、何故か誇らしげなマティルデさんに溜め息混じりで言いつつ、改めて部屋の中を見る。
壁際に棚が備え付けられている以外は、まだ他の家具や備品は入れられていないけど、物が少ないからかやけに広く感じる。
正確に見比べていないけど、多分王城で用意されて今現在も使っている部屋よりも大きいと思う。
しかもそのうえ、さらにもう一つ俺が使う部屋が用意されているとは……。
「というか、二つも部屋っているんですかね?」
「用途はリク君に任せるわ。ここはリク君の城とでも言える場所。家と言ってもいいんじゃないかしら」
クランの拠点としか考えていなかったけど、図らずもこちらの世界で家を持ってしまった……。
いや、いい事だとは思うんだけど。
「まぁ、基本的には片方は仕事……クランに関係する事をするための部屋で、もう一つは寝室なり自分なりの部屋って思えばいいわ。自分だけの部屋ってやっぱり大事なのよ」
「半分以上、仮設の冒険者ギルドに寝泊まりしているようなマティルデさんに言われると、説得力がありますね」
「自分一人に慣れる事ができるって、すっごく大事だと今実感しているわよ……はぁ」
疲れたように溜め息を吐くマティルデさん。
王城敷地にある仮設の冒険者ギルドの建物に、ほぼ常駐しているマティルデさんは、忙しくて仕事に追われていたんだよね。
一応、王城内にも部屋が用意されているから、一人に慣れないって事はないんだろうけど……広い王城とその敷地、仮設ギルドから部屋に戻るにも移動するだけで体感十分以上かかるから、それならと仮設ギルド内で寝泊まりしていると聞いた。
ちょっと状況は違うかもしれないけど、そんなマティルデさんだからこそ言葉の重みみたいなものがあるような気がする。
……まぁ今は少し落ち着いたみたいだから、こうして案内してくれているんだけど。
「えーっと、二つの部屋は同じ広さなんですか?」
「いえ、こちらが大きく、もう一つは少し小さな部屋になっています」
「そうね……もう片方の部屋は、リク君が王城で使っている部屋を僅かに小さくした感じかしら。実際に見てみないとわからないかもね」
「それでは、ご案内いたします。こちらです……」
少しだけ小さいらしいもう一つの部屋にファーラさんに案内してもらう。
俺専用らしい部屋は建物の四階に用意されていて、いくつかある部屋の内二つ……一つの部屋が広いからか、扉の間隔も広い。
部屋同士が繋がっている事はなく、それぞれ独立してお風呂場など、炊事以外は部屋内で完結できるようになっているみたいで、それも間隔を開ける要因になっているんだろう。
そして、案内されたもう一つの部屋……。
「うーん、小さいとは聞いていましたけど、でも王城の部屋より広々としている気がします」
「それは、まだ部屋の中に何もないからよ。ベッドとか椅子とか……テーブルとかもね。そういった物を置いたら、感じ方はまた変わるわ」
確かによく部屋を見てみると、王城の部屋より少しだけ狭い気が……やっぱりしないね。
まぁ何かしらの大きな家具を置けば、マティルデさんの言うように違いがわかるんだろうけど。
部屋の中は、前の部屋と同じく壁際に木製の棚がいくつか置かれているだけだった。
椅子やテーブルなどはまだこれからか、俺が自分で選んで運び込むとかだろうね。
「というか、ベッドはいらないと思うんですけど……」
「そんな事ないわよ。ほら、リク君がこっちで寝泊まりする事もあるだろうし、なんならここを自分の家だと思って過ごしてもいい。それこそ、リク君が気になる子を連れ込んだりもできるしね。ほら、私とか……?」
「お二人は、そんなご関係だったのですか……? 確かに、王都の冒険者ギルドのマスターは、そう言った噂が絶えない方ではありますが……」
マティルデさんの言葉に、俺よりもむしろファーレさんの方が先に反応していた。
驚きとかよりも、どちらかというと興味深いという感じだったけど。
「いやいや、そんな事ありませんから!」
とりあえず、あらぬ誤解や想像をされてしまいそうなので、慌てて否定しておく。
こういう時、実際はどうあれ年齢不肖で妙な色気を感じさせる女性って卑怯だよなぁ……退廃的な想像をさせてしまいそうだし、しそうになる。
……一応、俺も男だしね。
「あら残念。リク君からのお誘いだったら、いつでも歓迎なのに」
「……そんな事を言っているから、女狐なんて言われるんですよ?」
「ぐっ! リク君も中々言うわね……」
本人が本気かどうかはともかく、それで勘違いする人もいるだろうし、ファーレさんのように傍で見ている人からすると、噂通りの人にしか見えないからね。
「ファーレさんも言っていますけど、そう言った噂に発展しかねませんから。できれば俺を巻き込まないで下さい。それに、あまり女狐って言われたくないんでしょう?」
「……結構辛辣ね。まぁ確かに、自分が意図して流していたりするならまだしも、そうじゃないから言われたくない呼び方だけど……でも、リク君相手なら構わないのだけどね……」
「ん?」
最後は声が小さかったのでよく聞き取れなかったので、首を傾げる。
ファーレさんも俺と同じように首を傾げているので、向こうにも聞こえなかったようだ。
「いえ、なんでもないわ。はぁ、私の春は遠いってやつかしら……」
溜め息を吐くマティルデさんはともかく、女性を連れ込む云々はあまり考えないようにして、部屋の使い道を想像してみる。
ベッドやリラックスするためのソファーとかはまぁ、この部屋に泊まる事もある可能性を考えると、必要かもしれないなぁ。
とはいえ、マティルデさんも今はそうだけど王城には姉さんもいるから……やっぱりここよりも今は王城で過ごしていた方が色々とスムーズだと思う。
建物自体、王城から結構離れているから、いちいち往復して連絡を取り合うのも手間だし。
それを言ったら、毎日通うのも手間と言えば手間なんだけど……うーん。
「悩んでいるようね。そうよね……自分で自由にしていい部屋が増えると、どうしていいか迷うわよね。それも楽しいんだけど」
「まぁ、はい」
なんとなく、さっきのやり取りがなければマティルデさんの言葉はその後に「どんな女性を連れ込むか、とかね?」なんて言葉が続きそうな気がしたけど、気のせいという事にしておこう。
「ただ俺だけ部屋が、しかも二つもあるっていうのはどうなんだろうなぁ、とも思いますけど……」
「安心して、モニカちゃんや他の人達……えっと、リク君は『ニーズヘッグ』ってパーティだったわね。そのパーティメンバーには、それぞれ部屋があるわ。クラン創設メンバーとしてね」
「モニカさん達にもあるんですね。それならまぁ、良かったってところでしょうか」
俺だけ部屋があると言っても、多分モニカさん達は文句とかは言わない気がするけど、だからってそれでいいとは思わないからね。
他の人達にもあるなら良かった。
「パーティリーダーだから、リク君は二部屋ってわけね。他には……」
「この最上階はリク様達のパーティメンバーが過ごすフロアとして……」
マティルデさんとファーレさんによると、四階は基本的に俺達のパーティのためのフロアなのだそうだ。
四階の部屋はそれぞれで完結しているから、家というよりもホテルに近いかもしれない。
とはいえ、俺達次第だけど他の人は立ち入り禁止というわけでもなくて、事務的な仕事をするための部屋もあるんだそうだ。
ちなみに、部屋の前に案内してもらった会議室などは三階、事務方や参加冒険者の人達、つまりクラン員が使える部屋などは二階に集中している。
厨房や食堂は一階で、食堂は玄関ホールと同じくらいの広さがあって、クラン員の多くが集まれるようになっているようだね。
想定する用途というか、機能を階ごとに分けて集中させているのは、なんというか施設的な部分が強く出ている気がした――。
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*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
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異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
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前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
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リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
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