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国民をまとめるための理想
しおりを挟む「アテトリア王国では、二つの大きな関心が国民から向けられています。その一つは他国も含めて珍しい女性の王、マルグレーテ女王陛下ですが……」
珍しいうえに、評判がよろしい女王陛下だから宰相さんが言うように関心が向けられている、というのはよくわかる。
マルグレーテ、そういえば姉さんのこちらでの名前はそうだったねなんて、ちょっと関係ない事を考えてしまったけど。
確か、マルグレーテ・メアリー・アテトリア、だったっけ。
脳内ではずっと姉さんだし、皆からも含めて公の場では女王様や陛下と呼んでいるから、こちらもシュットラウルさんの家名と同じく、あまり馴染みがないんだよね。
まぁ前世の日本にいた頃は芽有里で、日本名なのか海外名の当て字なのか微妙な名前ではあったから、ミドルネームのメアリーというのには、多少馴染みがあるけど。
……日本でも姉さん呼びだったから、本当に多少ね。
ちなみに、日本名とそっくりなミドルネームになったのは単なる偶然で、こちらに転生して名付けられた時には日本での記憶もなかったようだ。
偶然って恐ろしい……。
もしかしたら、ユノとか神々が何かしたのかもしれないけど。
「そしてもう一つは、リク様です」
「俺、ですか? 確かに、色んな噂とかが広まっていて、どこに行ってもエルサと一緒にいたらすぐに特定されますけど」
「だわ?」
頭にくっ付いているエルサを撫でる。
ミスリルの矢とかの話の時は起きて喋っていたのに、自分が関わらないというか話さなくていい状況になったからか、隙あらばと寝かけていたようで、ちょっと寝ぼけた声が頭の上から聞こえて来る。
自由だな……まぁ、ドラゴンだからと言うのがあるから、エルサに対しては大体の事で無礼だとかっていう事にはならないみたいだけども。
ともかく、エルサは真っ白な毛玉のようでもあるためか、頭にくっ付けていると非常に目立つ。
巨大化すればもっと目立つのは言わずもがなだし、俺とセットで噂になっているのもあって、どこに行ってもすぐあのリク様とエルサ様! みたいな反応をされるんだよね。
わざわざ冒険者カードを身分証代わりに使う事がなくて、助かっている部分もあるけど。
ただどこに行っても、大袈裟なほどの歓迎ムードになるので、いいのか悪いのかわからない。
歓迎されるのが嫌ってわけじゃないし、されないよりはされた方がいいとは思うけど、さすがにお祭りよろしく大きな宴会になりそうなくらいなのは、ちょっと勘弁して欲しい。
「リク様は我が国で現在ただ一人、最高勲章を授与され英雄と称される人物。それだけで、関心は大きくなりますがそれだけでなく、各地の街や村を救っています。活躍は国内を駆け巡り、今ではリク様を一目見るだけでも何か良い事が起こるのでは、と考える者も少なくありません」
「それはなんというか……また外を大っぴらに歩けなくなりそうな……?」
「いえ、そこまででは。以前はそうでしたが、こちらで流した噂などもあり、リク様を囲んでしまうという事もないでしょう。少なくとも、王都ではそうならないように仕向けてもいます。まぁ現在は、爆発騒ぎも関係して城下町の人出は減ってしまっているのですが」
「その節はお世話になりました……」
爆発騒ぎ、という部分でヴェンツェルさんの眉が跳ね上がったけど、とりあえずそれとは別にお礼を言っておく。
確か情報部隊が暗躍……というと人聞きが悪いけど、動いてくれて別の噂を流す事で俺を囲むように人が集まるというのは、既に解消されている。
確か、アメリさんも噂に一役買っているんだったっけ。
それでも、見られたり声を駆けられたりはするんだけどね。
ただやっぱり、俺の顔や全身を模したお菓子などは相変わらず売られている。
本人である俺が見ると、かなり美化されているのもあって微妙な気持ちになるけど、やめてもらうわけにもいかないようだし、諦めていたり……。
「国民の関心がある人物二人が、国民に多くの損害を減らすために動く理想。ここから、リク様の理想としておくのは国民から多くの支持が得られるでしょう」
「そういうわけですか……」
要はプロパガンダ的なあれだろう。
利用されている気がしなくもないけど、言い始めたのは俺だし、それで多くの人が士気高く動いてくれるのなら悪い事じゃない。
通常なら、戦争と聞くだけでも国民感情は悪くなりそうだしね。
「すまぬな。私としてはリクを全国民に自ま……んん! 評判を高める事には賛成だが、利用するのは反対だったのだ。だが、そうする事での利点が多くてな」
「いえ、気にしないで下さい」
申し訳なさそうにしている姉さんに、気にしていないと首を振る。
まぁ自分が担がれている神輿に乗っているような気もして、それでいいのかな? と思わなくもないけど。
というか姉さん、今自慢って言おうとしたよね? そう言えば日本にいた頃、ご近所さんに俺の事を触れ回っていたというか、主に弟が凄いという内容だったと思うけど、ある事ない事広めていたっけ。
確かあの時は……まだ両親もいて、俺は幼くてよくわからなかったけど、その両親に止められているのをなんとなく覚えている。
姉さん、あの頃から実はあまり変わっていないのかな……?
「というより、俺だけでなく陛下も関心が高いという事でしたし、陛下の理想という事でも良かったのでは?」
関心だけでなく評判も高い女王陛下が目指す理想で、国が一つになる……なんて、それこそ理想の国家像になりそうだけど。
「それでも問題はありませんが、リク様がこれまで成した偉業と言いますか、誰もが納得せざるを得ない戦果による効果の方が大きいと判断しました」
「私は、立場もあって前面に出て戦うわけにはいかないし、戦う術を持っているとも言えない。多少の心得は王族として身に着けているが、それも護身のため。リクのように武力がよくわからないところまで上り詰めているとは言えないからな」
「よくわからないって……」
「陛下の言いようはともあれ、戦争とは策謀渦巻く事もありますが、多くの国民にとっての印象は武力と武力のぶつかり合いですからな」
「成る程、それで俺ですか」
「はい」
裏でのあれこれはともかくとして、武力がぶつかり合うならやっぱり武力が優れていると認識されている人物がいい、という事なんだろう。
姉さんは自分の身を最低限守れるくらいの術はあるらしいけど、俺としてもあまり戦って欲しくないし、アテトリア王国にとっては絶対に失ってはならない、替えの利かない立場でもある。
だから、戦争と考えた時に前面に出るのは俺の方が都合がいいんだろうね。
姉さんを持ちあげて、最前線で戦わなければいけない……なんて状況になるかはともかく、そんな雰囲気はごめんだし、俺自身が最前線に行くつもりだから、それでいいと思う。
日本にいた頃は姉さんに守ってもらってばかりだった。
この世界で生まれ変わった姉さんと話して、罪の意識みたいなものはかなり薄れたと思うけど……でも、その姉さんのおかげで今ここに俺がいるのだから、今度は俺が姉さんを守らないとね。
今度こそは――。
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