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もう一つの提案

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「まぁ、早い話が新たな建築材。接着剤の研究開発だな。元々、作っていた物は様々な要因から完全とは言い難かった。それで、その先……つまり改良させて耐久性を上げるようにとな。最近だけの事ではなく、以前は魔物の襲撃もあったし、いくつかの建築物はあっけなく破壊された。それ以前から考えはあったが、そこから本格化させたものなのだがな」
「成る程……」

 自然災害はともかく、日本とは違ってこの世界では争いが一般的とも言えるからね。
 人と人だけでなく、人と魔物とか。
 魔物にも魔法を使うのはいるし、それでなくても力という意味で魔物は人より強いのが多い。
 そのため、日本からの知識で作った物だと耐久性が見合わないって事……と考えていいのかもしれないね。

「研究開発は、招いたエルフが興味を持った事で、多少の進歩が見られる。急がせる必要はあるが……もしかしたら形になるかもしれん」

 エルフが興味を持って研究開発に参加しているって事は、魔法的な何かを施すとかかな?
 それこそ、日本にはない知識や技術だから、合わさって凄い物ができる可能性があるかも。

「猶予があとどれくらいあるか、にもよりますが、他に案がない以上あれを使えるようにさせた方が良いでしょうな」
「だが、見込だけで考えるのはな。あらゆる事を想定しなければならん。――リク、この話は今ここで論じていても確実な解決は約束できそうにない」
「そうですね……こちらでも、何かないか検討してみます。もしかしたら、俺だけじゃなくて他の誰かが解決策を持っているかもしれませんし」

 主にユノとかロジーナとかだけど。
 アルネやカイツさん、フィリーナとかにも話しをしてみるのもいいかもしれないな。

「うむ、頼む。最悪の場合は、現状使える接着剤でなんとかするしかないだろうが、ないよりはマシだろう」
「はい」

 それでも陣地形成するのに、何もないよりはマシだろうしね……過信はできないけど。
 もしくは、実際に戦争になった際にエルサが直接作るって手もあるけど、これはまぁ本当に最終手段だ。
 多分、あまり大規模な物は作れそうにないし、エルサに頼りきりになってしまう。

 そもそも、エルサが全ての戦場で土の壁が作れる程余裕があるとは限らないし……それは、俺にも言える事だけど。
 ともかく今は、新しい接着剤の研究開発が進む事を祈って、備えておくしかないか。

「とりあえず、土の壁に関しては今後に期待という事で……もう一つあるんですけど」
「……まだあるのか。いや、戦争がこちらにとって有利になる事であれば、歓迎するべきなのだろうが」

 戦争を有利に進めるための提案、今日姉さん達に話す主目的というかメインはミスリルの矢と土の壁だったんだけど、実はもう一つある。
 少し疲れたような様子を見せる姉さんには申し訳ないけど、使えるかはともかくとして、提案できることはしてかないとね。

「大勢を決める手段とかではないんですけど、局地的には有利になると思います。ただ、少し予算というか手間や費用が掛かりそうではあるんですけど」
「むぅ、戦争のための費用を捻出するのに毎日苦労している私に対する当てつけか?」
「いや、そんな事はないんですけど……」

 ジト目でこちらを見る姉さん。
 戦争となると、ものすごい出費になるんだろうなとは思うけど、どれくらいかは俺には想像もできない。
 国全体が動くわけだし、大きく豊かな国であってもその出費は女王様にとっては頭が痛くなるくらい、多大な物なんだろう、と思うくらいか。

「どれくらいかかるかはわからないんですけど、一応……魔導鎧という物がありまして……」

 ちょうどマルクスさんもいるし、センテでシュットラウルさんが用意した魔導鎧の話をする。
 あれは、ちょっと問題というか欠点みたいなものはあるけど、多分エルフの協力を得れば改善できそうではあるし、魔力の問題もクォンツァイタで解消できた。
 それに、ミスリルの矢と並んでマックスさん達の技量によるところが大きいだろうけど、三人でヒュドラーの足止めという確かな成果を出したものだしね。
 ……またクォンツァイタに頼る事になって、数が心配だけど、その分は俺が魔力蓄積を手伝う事で、少しは解消できるように頑張ろうと思う。

 ちなみに、姉さんもセンテからの報告も含めて、魔導鎧の存在は知っていたようだ。
 元々センテで実戦投入する前に、シュットラウルさんの方からも伝えられていたらしく、その頃の呼び名を口に出そうとしたけど、そこは俺が止めた。
 アーマーはなんというか、不味い気がするからね……いや、魔導鎧でも意味としては一緒なんだけど。

「魔導鎧に関しては、ルーゼンライハ侯爵から報告を受け取っている。帝国との戦いに役立てるのなら、という内容ではあったが……どういう物かわからなくてな。マルクスから詳細を聞こうと考えていたが、リクからも提案があったのなら有効な手段を取れる物なのだろう。検討段階を上げるか」
「ルーゼンライハ……あぁ、シュットラウルさんですね」

 そういえば、ずっとシュットラウルさんと呼んでいたし、誰かが呼ぶ時には侯爵様だったので家名にはあまり馴染みがなかった。
 まぁシュットラウルさん本人はあまり気にしなさそうだけど……。
 ともあれ、魔導鎧の事は既に検討してはいたんだね。
 俺が話した事で、実用に向けてじっくり考えくれるみたいだけど、ちょうど良かった。

「魔導鎧に関しましては、実際に使った方々……兵士ではありませんが、その方達から使用感も含めて詳細を聞き取りしております。報告はお任せを」
「そうですね、俺はヒュドラーと戦う時にちょっと見たくらいなので、実際に戦った人からの感想があるとわかりやすいでしょうし、マルクスさんに任せた方が良さそうです」

 全身を覆う、ヒュドラー並みに大きくすれば魔力で動くロボットになりそうな魔導鎧。
 実際にそこまで大きくなって実用可能かどうかはさておき、俺としてはワイバーンの素材を使ったあれこれよりも、攻防共に強化されるので被害を減らすためにも実用化したい。
 費用やら手間やら、色々と問題があるだろうから戦争で実戦投入できるかはわからないので、そこは任せないといけないけど。
 ごり押ししても、いい物ができるとは限らないしね。

「あ、あとフィリーナも魔導鎧の事はよく知っていますね。緊急でしたけど、魔導鎧が実際に使えたのはフィリーナが少し改造してくれたおかげですから。クォンツァイタの魔力を使えるようにって」
「ふむ、わかった。後でフィリーナからも聞き取りを実施しよう。リクの理想、戦争で帝国を圧倒するためにできる事はこちらもしておきたいからな」
「理想というわけでは……いや、そうなのかな?」

 以前この執務室で、姉さん達を前にして言い放った帝国を圧倒するという話。
 アテトリア王国側が大きな被害を出さないため、と考えていたし、確かに俺の理想とも言えるのかもしれない。
 でも俺だけでなく、戦争で大きな被害を出したくないというのは皆同じだと思うんだけどなぁ。
 だからこそ、姉さんだけでなく皆も協力して動いてくれているんだろうし――。


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